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第3話

-9月8日-(月)-


さて、私は今、洗面台の前で通り魔と同じか

いや、それ以上かもしれない問題に頭を抱えている


そうなってしまった経緯は

まだ私がベットに入っていた時間までさかのぼる


………

……


早朝、私は目覚まし時計のアラームより先に、枕もとに置いてあった充電器に刺さったままの携帯電話の一通のメールで起こされた

もちろんこんな朝早くからメールをしてくる人間なんて一人しか考えられなぃ


「…灯 」

くしゃくしゃの髪と寝ぼけた意識で携帯をモゾモゾ探し、開く

その内容には


-本文-

「ゆり~ オハヨー

 あのさー あのねー

 あたしねー ずっとゆりに言えなかったんだけど

 実はずっと前から、ゆりが一回だけ球技大会でしてたポニテが大好きでしたっ// キャハo(≧∀≦)o


 というわけで

 できれば ゆりの可愛いポニテ見たいなぁ~

 ポニテならもっと、ぎゅぅ~してあげちゃうからね?


 以上! ゆりの彼女候補 、灯ちゃんからでしたー

 お目覚めの

       (^з^)Chu!      」


…………

………


(なにこれ )


(なにが (^з^)Chu! だよ…全く )

というかなんでこんな朝早くからこんなテンションでいれるの


………

……



と、こんな感じで今日の朝は灯に起こされてしまったわけで

故に洗面台とにらめっこをしているわけなのです


(誰が あんなやつのために )

とひとりで洗面台の鏡の前でプイッとそっぽ向けてはみるけど

そう思った5秒後には

(でも… やっぱり喜んでくれるのかなぁ )

とクシを持って気持ちが揺らぎそうになってしまう自分がいる


「ぅぅ…~ 」

(私はどうすれば )


………

……


-その30分後-


家のドアを開けて、ふわりと制服のスカートをなびかせる

そして、悩み抜いたその髪の結果は


「はぁ 」

(ポニテ… )


気まぐれに長い髪を後ろに流し、前髪はナチュラルに残したままでチョコレート色のストレートの髪を後ろに結わいた

極め尽けは水玉模様の可愛い水色のシュシュで灯のために髪を結んで家を出てしまった自分がそこにはいた


(ぅぅ… 私 意志弱すぎる )


久しぶりに髪を結んだりなんかしたからちょっとだけ時間がかかってしまった

(おかしく…なぃかなぁ )


今の私はどんなふうに見えているのか、意味もなく挙動不審に辺りをキョロキョロしてしまう


それにしても


「うわぁ… 暑ぃ 」

9月上旬の残暑が厳しい今日は、朝のお天気ニュースでも、なんと最高気温30度越えとか言っていたり

こんな朝なのにもうムシムシしていて、じっとしていると汗が滴るほどの天気だった


上を向けば、蒼が空のキャンバス一面に広がっていて、それと同時に降りしきる直射日光に肌がジリジリする

ポニテに結わいた後ろ髪に首元からサーッとそよ風が通り過ぎてゆく

まだまだ季節は夏だということを実感させられる一日


今日は気分的にちょっとだけiPodは夏っぽい曲を流したりしてみる

またのんびりと、けれども何だか夏っぽさのある通学路をワクワクした気持ちで歩いていく


夏曲の3曲目がちょうど終わるころ、学校の前の青々としたひまわり畑が見えてくる


学校の正門を入ると、校庭か中庭の木から、はたまたまた別の場所からか、セミの鳴き声が朝から夏のメロディーを奏でている

夏服の制服にひまわりとセミ

そしてこんなにも広々しい青空キャンバス


汗っぽい首元とワクワクした気持ちが、私に季節を感じさせる

そんなことを思いながら階段を上り、1年E組の教室のドアを前に、私ははっと思い出した


(ポニテ… だったんだっ ぅぅ )

この扉を開けた10秒後に起こりうる灯のあのニヤリッとしたドS顔が目に浮かぶ


教室のドアをガララっと開ける

…たったった、ガバッ!

「…ぁぅ !?」

(ぅぅ…やっぱり…)


教室に入っていきなり目の前が真っ暗になる


「ゆり~ オハヨーっ 」

「ぉ、ぉはよぅ 灯… 」

ぎゅうぎゅう…ぎゅぅ~っ

「ぁの… だから 前が見えなぃ… 」


またも気がつけば、おもいっきり前から灯に抱き着かれていた…

「今日はあぢぃーからゆりはひんやりでホントに気持ちぃよ~♪ スリスリ~ 」


「ぅぅ… 暑ぃ 」


せっかくメールで言われた通りにがんばってポニテにしてきたのに予想外に灯は話題に触れることもなく何にも言ってはこなかった…


………

「ぁのぅ 灯さん…? 」

「なに ゆり? 」

しきりにポニテにしてきたことをアピールしてみたりする

「??? 」


「ぁっとね? これ…その 灯が喜ぶかなーっなんて ポニーテールしてみたんだけど やっぱり… その、変だったのかなぁ…? 」

慣れないために失敗したと思って少しだけシュンとしてしまう…


「ゆりぃ? 」

「…はぃ 」


「世界一可愛いから安心してっ ニヤリッ 」

そう言うと灯はペットを撫でるように私の髪をさーっと優しく撫でてくれた

「はぅ…/// 」


恥ずかしぃ

でも、何だかうれしぃ気もする

灯にこうされるの…本当は結構好きだったりもする

気がつかれないようにちょっとだけ私も灯にぎゅぅっとしたりしてみる


「おふたりとも今日も仲がよろしいですね 」

「ッ!?? 」

不意打ちの如く後ろから声が聞こえ、灯からガバッと離れる


「ぉー ひより オハヨー 」

「おはようございます 灯ちゃん ゆりちゃん 」

「ぉ、おはよぅ ひより 」

目にかかるほどのストレートの真っ黒い髪に黒ぶち眼鏡

こんなに真夏日なのにやっぱりひよりは紺色のカーディガンを着ていた


「ぁ、お邪魔でしたでしょうか?? 」

「ぜ、全然っっ 」


危ない危ない、一瞬灯に気を許してしまぃそうになっていた


「朝から百合ですか  …ぽ// 」

「いやいやっ そんな気ないっ 」

「グスッ… なぃのかぁ ゆりぃ…っ 」

「ぁ!? ぇっと 灯のことはもちろん好きだよっ? で…そのぅ 」

「ふふっ 百合百合しぃですね …ぽ// 」

「違うってばっっ 」


ぅぅ…もう、なんだろう この関係…


「みなさん おはようございますですっ 」

「ぁ 有珠ちゃん おはよぅ 」

「ぉー 有珠 オハヨー 」

「おはようございます 有珠ちゃん 」


夏服が似合う真っ白い肌と銀色の髪が一目で有珠ちゃんだとわかった


ふぅ… 有珠ちゃんの登場のおかげでなんとかこの流れから抜け出せそう


「今日は特別 暑いですねっ ぁっ、ゆりさんがポニテです とっても可愛いのです♪ 」

「ぁ、ありがとぅ 有珠ちゃん 」

「はっ! ゆりは渡さなぃぞーっ 」

いきなりまたガバッと灯に抱きしめられた

(…ぅぅ だから暑いってばぁ…~ )

「ふぇっ!? 」

「 …ぽ// 」


だめだぁ…~

もうこのノリを断ち切ることはどうやらできないらしぃ



朝のホールルームまで残り5分くらい、そんなくだらないことを私たちは灯と私の席がある窓側で話していた


だんだんとクラスメイトが集まるとあちらこちらから聞こえてくる話題は、ほとんどが‘アレ’の話題だった


「今朝のニュース見たー?? 昨日またウィッチが出ちゃったらしぃよー 」

「ウィッチって?? 」

「嘘っ? 知らなぃの? ほら、あの最近駅前で起きてる連続通り魔の―― 」


何やら向こうで一塊のグループが通り魔について話している

いやあそこだけじゃない

よく見れば教室中、廊下で話している子たちも口に話題にしているのはこの街で起きている通り魔…ウィッチのことばかりだった


所詮私たちはこの学校では下手をしたら一番の落ちこぼれグループだし…

誰も私たちにはとくに話してきたりはしない


それでも、やっぱり通り魔のことが話題になっているのは居心地がいいわけじゃない


そして…

あの子たちを見ると自分が否定されているようで嫌いだ…


…………


「じゃぁっ!! 」


(ビクッッ )

少ししょげた顔を灯には見透かされてしまったのだろうか

いきなり灯は大きな声を出した

「じゃぁっ 今日のお昼休み 灯さんが特別にサプライズ 用意したから いつもの教室で待ち合わせしよー♪ 」


「サプライズ…でしょうか?? 」

「ほわぁ なんだか楽しみですー 」

「灯? サプライズってなに? 」

「ノンノンっ サプライズはサプライズだから 今を口にはできなぃのだよー 」


灯は得意げな顔でそう言うと、それと同時に朝のチャイムが鳴った


ひよりと有珠ちゃんも自分たちの教室へと帰る


……


窓から見える真っ青な空と相変わらず暑い夏の中でひとり、私は灯のサプライズのことを考えていた


どこか変な期待はしないように

でも、どこかワクワク期待してしまう


新しい月曜日の朝はそんな風景だった


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