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第11話

膨大に広がる外の警察の監視をかい潜り、私達は今 聖蹟桜ヶ丘駅内のビルの中にいる


聖蹟桜ヶ丘の駅ビルの構造というのは大きく分けて A館、B館、C館、と広く分かれていて 階数は一番上の階は9階まである


そんな中 四人はエスカレーターを上り冷房が効いた涼しいフロアを進む


***

-5F-


灯の予想は確かに当たっていた…

今いる5階のフロアにも どうやら警察官の姿はどこにも見当たらない


しかし、なぜ私達がこのフロアにいるのか?

それは単純に有珠ちゃんの買い物に付き合うためだった

そしてその有珠ちゃんのお買い物とは ――


「有珠ちゃん? 有珠ちゃんは何を買うの? 」

「にゃはー はぃっ 有珠はお菓子をっ、お菓子を買おうと思っているです 」

手をパタパタさせてうれしそうに有珠ちゃんが言う


「お菓子でしょうか?? ですが、有珠ちゃんのカバンにはもうすでに大量のお菓子が敷き詰められてはいませんでしたでしょうか? 」

ひよりがくすくすと小さく笑いながら有珠ちゃんに聞く


「だめですっ もう足りないんです 定期的にお菓子とデザートだけは買わないとだめなんですっ 」

「有珠のエネルギーはお菓子さもんなー 」

灯がちょっとだけからかうように冗談まじりで話す


「はぃっ お菓子は命ですっ」

その言葉にまっすぐ幸せそうな笑顔で返す有珠ちゃん


私達三人をよそに、有珠ちゃんはフロア内にある大きなお菓子屋さんに立ち寄った

すぐさま慣れたように大きなカゴの中いっぱいにお菓子が次々に入れられていく


ふと棚についていた値段の札を見ると、どの駄菓子もコンビニで買う定価よりもいくらか安い値段で印されていた


「なんかここのお店安いね 有珠ちゃんはいつもここで買ってるの? 」

「ぁ、はぃっ ここが一番安いのでとってもお世話になってるです 」

そう言いながらたけのこの里をカゴの中に入れていく


「あら? 有珠ちゃんはたけのこ派なんですね 」

「はぃっ たけのこさんはチョコが多いのでポイント高いですっ 」

そしてさらにもう二箱カゴの中に入れられる


その後もチュッパチャップスとチロルチョコの箱買いは当たり前に

チョコパイに極細ポッキー、キットカットにアーモンド、コアラのマーチに


そしてお菓子コーナーを過ぎてそのさらに奥に続くと、今度はデザートコーナーが私達を待っていた


迷わず有珠ちゃんはまたもデザートもカゴの中に入れていく

ワッフルに焼きプリン、シュークリームに一切れバームクーヘン、ミニロールケーキにチョコショコラに


どうやら有珠ちゃんはチョコ系のお菓子がとくに好みらしぃ


「関係ないのですが、たまにゆりさんの髪がとっても甘くておいしそうです 」


「ぇっと、そうだね… チョコ色って… よく言われるね… 」

幸せ色すぎる可愛い有珠ちゃんの純粋無垢な笑顔がグサッと胸に刺さる…

「へぇー うまそうだな ゆりの髪 …ニヤリッ 」

「ぅ、うるさぃ…っ 灯はだめっ 」

「なっ、なんでだー!? 」


「……ぽ/// 」


「!? なんでひよりは赤くなってるの!? 」


………

そのあとは

ちっちゃい有珠ちゃんが大きなカゴせっせ運び、いっぱいに盛られたお菓子の山はレジに持って行かれた


これ くださぃっ♪

と、その言葉にレジの店員さんの二度見して驚いた顔が気の毒すぎて忘れられない…


そしてどうしてあの学生カバンにあれだけの量のお菓子やらデザートがすっぽり積み込まれ入るのかわからない…

(プリンとか潰れちゃわないのかな… )



***

-3F-


有珠ちゃんのお買い物に続いて次にひよりのお買い物中


「みなさんに私個人のお買い物に付き合わせてしまって申し訳ありません 」

「気にすんぬー 」

「全然大丈夫だよ 」

「はぃっ 大丈夫なのです 」


てくてく騒がしくフロアに足音を響かせながら

一つのお店の前でひよりは足を止めた


そのお店をぱっと見て理解した…

そういえば‘ひより’のお買い物だったということを…


「「「……… 」」」


しどろもどろする有珠ちゃんと灯もおそらく私と同じ心境にあるに違いない


目の前のお店とは‘アニメイト’

…いわゆる漫画好きやオタクな人向けのお店の前でひよりは立ち止まったのだ

店内をちらっと覗くと、たくさんの漫画にアニメのCDにDVDにグッズに

壁にはアニメのポスターが貼られている

正直…学校帰りに女子が一人ではなかなり入りにくい


そんな三人の気持ちとは真逆に、ひよりは慣れたように平然とお店の中に入り、小さな通路を進んでゆく


通路の両側の棚には漫画がびっしりと置かれている

おそらくアニメの主題歌なのだろうか、お店の中にはそれらしい明るい女性の声でアニソンポップな曲が流れていた


上機嫌にそんな中を進んでいくひよりに、そのあとに黙って困惑しながらもついていく三人…

ひよりが嬉しそうに棚から何冊かの漫画を手に取っていく


(ひよりの読む…漫画 )

薄々嫌な予感はしていたけれど

「ひより? ひよりは…その、どんな漫画買うの? 」

「はい、私ですか? そうですね、私はだいたいですが いつもこんな感じです 」


そうして手に持っていた漫画を見せられると


弟は女装っ娘

委員長はめがねっ娘

鬼畜にぃにぃとボク

百合いちご物語

七日の夏のソラ


(……… )

女装をしたワイシャツ一枚の、恐らく弟?…なのだろうか、が表紙の漫画や、女の子二人がぎゅっと制服姿で抱き合う表紙の漫画に……


「いたってノーマルな内容ですのでゆりちゃんにもぜひともおすすめですよ 」

「そ、そっか… ぁ、でも今は大丈夫かも…っ また今度にしておくね… 」

「そうですか…そうですよね 」

少しだけ残念そうなひよりにちょっとだけ罪悪感を感じてしまう…

「…ごめんなさぃ 」

「ふふっ いえいえですよ ではこれ、買ってきますね 」

「ぁ、ぅん 」


………

……

「ひよりってさ、実はけっこう変わってるよな 」

「有珠も同感なのです… 」


レジで会計をするひよりを、一線おいた灯と有珠ちゃんのこっそりとした視線がリアル過ぎて

…少しだけ笑いそうになってしまった自分がいた


外での絶望作戦の後だからこそ、その平和な風景はよけいに…


***

-6F-

ビックカメラ


店内がワサワサした空気と活気ある店員さんの声の中、今度は灯の買い物の番だ


「灯? 灯のお買い物は? 」

「なはー あのねー ヘッドホンを買おうかと思ってるさ 」

「ヘッドホンでしょうか?? 」

「うんっ ぃやほら、一応うちら軽音部だしさ? BUMPのライブ前だし、折角だからこの期にイヤホンからヘッドホンにしようかなって 」

「にゃんにゃんおー ぃいですねーっ 」

(にゃ、にゃんにゃんお…!? )

日に日に変わっていく有珠ちゃんの言葉はもはや人間のものではないような…


「灯はどんなの買うかもう決めてるの? 」

「ぅーん、なんかよくわからんし 適当に見て決めるさよ 」

「適当はあまりよろしくありませんよ? 音質や重さ、燃費にフォルム、メーカーや機種、それに聞く音楽によっても選ぶヘッドホンの種類は変わってきますから 」

「さ…さすがひよりだ めっちゃ物知り」

「ふふっ いえいえ 普通ですよ 」

「有珠はウサミミの形がオススメです♪ 」

「却下! 」

「はぅぅ…~   …ぐすっ 」


「ぁ、有珠ちゃんっ ほ、ほら見て見て チョコロールっ 」

軽く涙目の有珠ちゃんに慌てて自分の髪をチョココロネのように巻いて見せる

「はわわっ ゆりさんの髪 とってもおいしそうなのです♪ 」

またぴょんぴょんとうれしそうに跳ねる有珠ちゃん


(ふぅ… 私、なにやってるんだろぅ )


「あたしは普通に聞くのロックとかだし、やっぱベースとかちゃんと聞けて音割れしないやつかなー んで、あんま重くなくて邪魔になんないやつっ 」


「でしたら、これなどはどうでしょうか? 」

そっとひよりが灯の横でサポートする


こうして見るとやっぱりひよりは本当にお世話が好きで、大人っぽくて、そして…誰よりも優しいのがわかる  気がした


一応タメの、横で子供が付けるようなウサミミヘッドホンをしてぴょんぴょん喜んでいる有珠ちゃんと見比べると…

というか、有珠ちゃんは制服を着ていても未だに小学生にしか見えない私はおかしいのだろうか?


………

……


「よしっ! これにするさ! 」

結局、30分近く迷った末に灯のヘッドホンは決まった

白色で、灯のふわふわのショートボブが崩れず邪魔にならないサイズの比較的最新のモデルだった

ウキウキ無邪気に舞い上がる灯は、やっぱりどこか可愛くて

…見ていて、胸に秘める好きという感情がはっきりと自分でもわかってしまった


だから急に灯と目に合った瞬間、当たり前に目が合った瞬間


不意に急に恥ずかしくなってしまって

意味もなく…制服のプリーツスカートのポケットに手を入れようとなんかして

なかなかポケットが見つからなくて


よけいに恥ずかしくなった…だけだった



***

-7F-

無印良品


「ゆりー? ゆりは何を買うんさ? 」

「ぁ、ぅんっ 私はたいした物じゃないんだけど 」

「なんだぁ? 言ってみぃ? …ニヤリッ 」

「ぁ… 本当にたいした物じゃくてね? ほら今私の家っておにぃもいなくて一人暮らしみたいな感じだから、その…シャンプーとか洗剤とか… 」


「なんだよー、エッチ系とか恥ずい系じゃないんかよー、彼女としてはつまんないぬ…」


「どうせ…私はつまんないもん、というかだから私は灯の彼女じゃ…  」

( まだ…なぃんだからね )


その素直すぎる言葉が出そうなところで、私は慌ててゴクリと飲み込んだ

いつだって、灯に言えるのは本音の一歩手前だった


「ふふっ いつもゆりちゃんは大変ですね 」


「ぅん、そうだね 」



………

……

そのあとは、私個人的な日用雑貨を買って、全員の用事は終わった



「そういえば、駅前に当たらクレープ屋さんができたらしぃのですが最後に行きませんか? 」

「いいさねーっ めっさ腹ぐーぐーだ 」

「有珠もっ 有珠もぐーぐー♪ 」

「久しぶりの駅前だもんね 私も行きたいな 」

「よかったです、ありがとうございます 確か2階にできたはずですよ 」



………

……

四人でフロアを歩きながら

灯と有珠ちゃんがぐーぐー やら ぐるぐる やら Google やらわけのわからないメロディに乗せてちんぷんかんぷんな歌を歌って

その後ろにひよりも少しだけ一緒に口ずさんで


私も…頭の中で一緒になって大声で歌った


…………

………


新しくできたというだけあってか、今の時間帯なだけあってか、その小さなクレープ屋の前には私たちのような学生がたくさん並んでいた

肌が触れないように…そっと並んで


四人全員違う種類のクレープを頼んだ


ひよりは抹茶クレープ

灯はデラックスロイヤルクレープ

有珠ちゃんはチョコバナナクレープ

私はイチゴクレープ


注文を受けて目の前でクレープの生地をくるくると器用に焼く店員さんの姿に、有珠ちゃんの目が輝いているのがキラキラと微笑ましかった


「はむっっ …ん~っ♪ 甘くておいしいのです♪ ショートケーキくらぃおいしぃのです♪ 」

(どういう…例えなんだろぅ )


小さな口いっぱいに夢中にクレープを頬張る有珠ちゃんの頬っぺたには生クリームがぺったりとくっついていた

「あらあら、ほら有珠ちゃん じっとしててくださいね 」

「ん… 」

ひよりがそれをハンカチで優しく拭き取ってあげる

その光景を横で見ていると、胸の奥がどうしてかじわりと優しい気持ちになった


「ゅ、ゆり! あたしらもあれやりたぃっ 」

「!? ぜ、絶対だめっ 灯はひとりで食べれるでしょ! 」

「わ、わかんないじゃんっっ 」

「わかってよ… 」


灯だけこのクレープ屋さんで一番大きなクレープを買ってしまい

明らかにひとりでは食べ切れず

結局、全員で食べやっつけた


…デラックスロイヤルクレープ


全員が食べ終わり一息休んだ後

………

「さて、そろそろ帰りましょうか 」

「はぃ、 今日はとっても楽しかったですっ 」

「あたしもさー、また来ようなー 」

「ぅんっ、またみんなで来て遊ぼうね 」


クレープの包み紙を捨てるごみ箱を探しながら

私達は本当に幸せ色の中にいた


…目の前のクレープ屋にあったごみ箱になんて気がつかないまま




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