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プロローグ

これは去年、まだ俺が中学生だったころの話


――

幼少児の頃から身体が弱かった‘それは’そのせいで昔から近くの病院を行ったり来たりすることが多かった


そして‘それ’には

気がつけば幼いときには母とも父とも呼べる人間もいなかった


そんなだからなのかな

中学生にもなると、そのことでクラスの中ではいつも下に見られることが多かった


ただちょっとだけ免疫力がなくて風邪や病気になりやすくて

ただちょっと両親がいないだけなんだ


けれども、それだけの言い訳でもクラスメイトの中での‘それ’の扱いは

いわゆる‘落ちこぼれ’だった

学校に…居場所なんてない


親もいない、貧しい、友達もいない、身体も弱い…


でもさ、不思議と苦しくなんかなかったんだ

どん底だったよ、それはたしかだ


だけどさ

‘俺’の毎日にはたくさん笑える理由がいっぱいあったんだ


それは俺のたった一人

小学六年生になる弟の存在が強く大きかったのかもしれない


とは言っても、もうホントにこいつがだめだめなやつで

ばかみたいに汚れを全く知らないような瞳で、いつも何するにしても楽しそうにニコッて笑ってて

どんくさくて、ひとりぼっちだと泣いちゃうようなやつだった


病んでる俺とは真逆に、いつも生活に希望を持って生きてるように見えた


この世界で俺が、唯一大切で、唯一守りたいモノ


それがあいつだった


それで…、本当に十分だった


***


………

そんな生活を送って、中学三年生にあがってすぐの春のことだった


俺はまた体調を崩した


今度は症状も重く、病院での長期入院を強いられた

唯一心配だったのは身体のことなんかじゃない

なによりたった一人、一人ぼっちで家で過ごすことになる弟のことだった

またメソメソ一人で泣いてるんじゃないか

一人でちゃんと生活できてるのか


それでもほぼ毎日お見舞いに来てくれるあいつは決まっていつも笑顔だった


小学六年生だぞ…

家では苦しいこともあるはずなのに、俺には心配をかけたくなかったのかなぁ…

弱音の一つだってこぼさなかったんだ


そんな日々の中で、やっとやっとの長い長期入院の末に退院できたときには

外はもうすっかり梅雨も明けて、ひまわりの咲く季節になっていた



***

退院したその日


久しぶりに一緒に並んで歩く家までの帰り道

だめなあいつがさ、満面の笑みで俺に言ってくれたんだよ

……

‘退院お祝いしたいなって’


ただでさえ貧乏でぎりぎりな生活なんだから、俺なんかの祝いなんてする余裕も必要もないだろ

そう言ったら、珍しくそいつが怒ったんだよな


兄ちゃんだからお祝いするの、って女みたいにめっちゃ頬っぺた膨らましてさ


その後に続けて

実は内緒でもうお家で準備しちゃったっ、とかホント幸せそうに笑顔で言ってのけてさ


もう、ほんとにばかだと思った

おおげさなんだよ、たかが俺の退院くらいで

………

まぁ、心の底では、本当にめちゃくちゃ嬉しかった


何処からか響くひぐらしの音色と夏の夕暮れはなんだか切なくてどこか懐かしい

いつもの何気ない家への帰り道だった


……

家まであとたった数メートル手前の横断歩道を青信号で渡った


まさにそのときだった…

この世界で俺が、唯一大切で、唯一守りたいモノ…


そのたったひとつが 俺のすぐ目で前で



 ‘…死んだ…’――


    ― ぃや…‘殺された…’―



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