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凡人の就活

 研究室を追い出された俺は、しばらく呆然としていた。そりゃ、リジェクト続きだっ たからさ、「才能ないんですね」ってほんとそうだけどさ、即日クビってまじかよ、あのクソ教授め、、!

 でも、いつまでも落ち込んでいられない。ポスドクの道は険しい。食っていくには仕事を探すしかない。


 ラボで身につけたスキルと、途中までの研究結果を手に、俺は研究関連の求人に応募しまくった。

 大半は書類で落ちたが──奇跡的に一件だけ面接に進めた。



 面接当日。

 案内してくれた秘書風の女性に連れられて部屋に入ると、スーツ姿の男が待っていた。


「ほぅ、生物系の研究……我々の研究内容とも関わりが深い。なるほど、興味深い内容です」


 面接官は書類をめくりながら淡々と質問を重ねていく。

 ここまでは普通の就活。だが、妙に組織名が耳慣れない。どんな研究所なのかよく分からないまま答えていた。こっちは生活費かかってんだ。選んでられねーし。


 面接官が、無機質に質問する。「視覚野への外部インターフェースによる多波長知覚の拡張、興味深いですね」


緊張していた俺は、ここぞとばかりに熱弁してしまった。

「あー……まあ、簡単に言えば人間の目を昆虫並みに拡張する研究です。

紫外線とか赤外線とか、普段見えない波長を“見える”ようにする。センサー頼りにするのとは違って、本当に見えるようにするんです。で、やってて気づいたんですよ。

人間のリミッターって、実は“思い込み”でできてるんだなって。

『見えないはずだ』『できないはずだ』っていう現実認識そのものが、最大のブレーキなんです」


面接官が顔をしかめて眼鏡を持ち上げた。

「……といいますと?」

「研究者なんてみんな厨二病みたいなもんですよ。

でも、我々って長らくこの社会で大人やりながら内心じゃ“覚醒したい”とか“奇跡を見たい”とか思ってる。


 だけど──摩訶不思議なことなんて起きないし、

いきなり能力覚醒なんてしないって内心は分かってる。


 だから“お参りの作法”とかあるんですよ。

あれは“強固な現実認識”をちょっと壊すためのものなんです。

つまり──セルフコントロールを壊す儀式なんですよ。研究でも、ある儀式をすると脳負荷がガクッと下がることは証明できたのですが、なかなか受け入れられなくて」


俺はここまで話して青くなった。オカルトだと思われて、せっかくの面接をフイにしたかもしれない。まずったな、デバイスの触媒についての無難な話を用意してきたのに!!


 そしてさらに一通り形式的なやり取りが終わったあと、面接官がふと顔を上げた。


「私の隣の彼女が、ここまで案内して来たはずですが──特に問題はなかったですか?」


「え? ……いえ、普通に案内していただきましたけど、それが何か?」


 その瞬間、面接官の表情が変わった。隣の女性研究員らしき人と目配せをする。


「採用です。明日からよろしくお願いします。そうですね、具体的な年俸は後ほど提示いたしますが、貴重な才能をお持ちですから、このくらいでどうでしょうか」


 前の貧乏ラボの倍の報酬に、俺は椅子から転がり落ちそうになった。これなら都内のバス・トイレ別の物件に余裕で住める!


「本当ですか!ありがとうございます!」


「まあ、この研究室に行きあたり、ここに来られる時点で、どのみち採用ですがね」


 舞い上がっていた俺はその不穏な言葉の意味に気が付かなかった。

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