『初夜、眠りの罠と牙の静寂』
太陽が3つ沈み、空に5つの月が浮かぶ――異世界の夜が訪れた。
森は静寂に包まれるが、それは決して安全の証ではない。
レオナルディアは、眠るという行為のリスクを知っている。
軍人として、そしてサバイバルのプロとして。
この世界では、目を閉じること自体が命取りになりかねない。
「警戒態勢を取りつつ、休息を……よし、まずは拠点だ」
倒木と自然の地形を利用し、半地下型の簡易シェルターを構築。
出入り口には糸と鈴による原始的な警報装置を設置し、トラップも二重三重に仕込む。
昼間よりもさらに罠の数と質を増やし、狭い範囲で確実に殺傷できるよう、調整を重ねる。
カーバンクルはレオナルディアのそばを離れず、時折小さな鳴き声を発する。
ピクシーは頭上を旋回しながら警戒を分担してくれる。
それぞれに鑑定をかける。
* **カーバンクル**:光属性の小型幻獣。小規模の魔力波で敵を威嚇・麻痺。回復促進の加護あり。
* **ピクシー**:風属性の低級精霊。移動速度と警戒能力に優れ、感情伝達に長ける。魔法適性は成長依存。
戦力としては心許ないが、彼らの存在はこの不気味な森での大きな精神的支えとなる。
「さて、装備も増やしていこう」
森で採取した木材と魔物の骨を加工し、小型の弓を一本と、槍を二本作成。
矢には毒草から抽出した神経毒を薄く塗り、即死性は無いが確実に弱らせる効果を期待できる。
装備作成スキルの取得通知も届いた。徐々にだが、力が形になりつつある。
夜間の襲撃を避けるため、小型の魔物は見つけ次第狩り、すぐさまストレージへ格納。
餌の匂いを森に残さぬよう、徹底して処理する。
周囲に痕跡が残っていないか、入念に確認を終えた後。
ようやく、レオナルディアは体を横たえた。
「こんな世界で、俺が一番望むのが――睡眠とはな」
満天の異なる星空の下、異常に静まり返った森で、
彼はこの異常な世界で初めてまともな眠りに落ちた。
> ――サバイバルは何度もしてきた。
> だがこれは、やばい世界だ。
> とりあえず、生き延びること。それが全てだ。