『牙、そして血の兆し』
森の空気が一気に重くなる。
気温も風も変わっていないのに、何かが潜む気配が肌を刺す。
レオナルディアは息を殺し、背を低くして身を潜めた。
遠くでモンスター同士と思われる争いの痕跡が見え、血の匂いが漂う。
足跡と引きずられた跡――これは生々しい。
迂回しながら静かに移動する。だが、その途中でピクシーがふわりと近づいてきて、空中でくるくると旋回し始めた。
何気なく鑑定をかけると、そこには上薬草が群生していることがわかった。
ピクシーはその薬草の上で小さく踊るように舞い、意思が伝わってくる。
「……助けを求めている?」
森の奥へ案内されるように後を追うと、そこに傷ついた小さな幻獣――カーバンクルが蹲っていた。
体に傷があり、足に蔓植物が絡まって動けずにいる。
レオナルディアは持っていた薬草を鑑定し、回復薬を調合。
即座にカーバンクルの傷に塗布すると、魔核がわずかに光り始めた。
カーバンクルはゆっくりと頭を上げ、レオナルディアのほっぺたをペロリとなめた。
尻尾をくるくると振りながら、感謝と信頼の気持ちを伝えてくる。
> 《スキル:テイム Lv1 → Lv2 に上昇しました》
テイムが完了した瞬間だった。
ピクシーも嬉しそうに空で踊り、レオナルディアに安心を与える。
再び周囲の警戒を強めながら、レオナルディアは心に誓う。
「今はまだ狩られる側だ。だが、準備が整えば狩る側になる」
ピクシーが軽やかに空へ舞い上がり、進むべき方向を示す。
今日の生存は、まだ始まりに過ぎない。