『戦支度 森の軍人工房』
まだ霧が残る朝の森。
レオナルディアは陽の向きと風の流れから安全圏を見極め、谷に面した岩陰に腰を下ろした。
木々に囲まれ、死角が少ない地形。ここを、一時的な拠点とする。
「さて――狩る準備といこうか」
背後に作った即席の枝ブロックに背中を預けながら、ストレージから折り畳み式の軍用ナイフとマルチツールを取り出す。
まずは弓。
使えそうな木を数種類選び、ナイフで慎重に芯を削っていく。
湿度、柔軟性、繊維の密度――素材の“手触り”で全てを判断する。
「これは……ヤチグリ系の樹木か? 火には弱そうだが、しなりは悪くない」
数時間の作業。
太陽の動きでおおよその経過時間を測る。
ついに、**一本の長弓と三本の木製矢**が完成。
> 《スキル獲得:装備作成 Lv1》
> 《効果:簡易武具の作成効率上昇、耐久性+15%》
(これでいい。精密性はまだ無いが、威力は十分)
同時進行で作った槍も、ストレージへ収納。
次に、植物採取に取りかかる。
森に自生している十数種類の草花。
葉の形、根の太さ、匂い、樹液の色――
一つずつ手に取り、**脳内に響く鑑定結果**を確認していく。
> 《鑑定:薬草(中級)/毒草(軽度)/幻覚性植物(警戒)》
> 《収集数に応じて錬金術スキルツリー解放》
「……やっぱりな。軍医の講習が役立つとは」
かつて軍で学んだ戦地薬学の知識が、ここで活きてくる。
毒も薬も、使い方次第で“武器”になる。
錬金キットの代用品として、空き缶と蒸留水を活用し、**簡易調合に成功**。
> 《スキル獲得:錬金術 Lv1》
> 《効果:回復薬(小)、毒薬(微)などの初級調合が可能に》
「初級とはいえ、回復薬と毒薬が作れるなら十分だ」
ラベル代わりに紐の色を分けて小瓶に収納。
すべてストレージへ整理して、次の瞬間――
――ガサリ。
木々の奥、音が鳴る。
レオナルディアは即座に弓に手をかける。
**矢は三本。毒塗布済み。罠もある。戦える準備は整っている。**
(よし……狩りの時間だ)
今やレオナルディアの表情からは、転生直後の混乱は完全に消えていた。
代わりに宿るのは――**“狩る者”の目**だった。