「狩る者の誓い 〜森の中の軍人、覚醒す〜」
――唐突に、**脳内に何かが流れ込んできた。**
> 《スキル獲得:罠設置 Lv1》
> 《効果:罠設置速度 +25% / トラップダメージ +15%》
> 《派生スキルツリーが解放されました》
瞬間、レオナルディアの心拍が一度だけ跳ねた。
音も声もない。
ただ、**静かに、確実に、脳内に情報が焼きついた感覚。**
(……ゲームのUIみたいなフィードバック。これは、スキル制か?)
現実でもない。幻でもない。
**これは――世界のルールだ。**
「いいだろう。乗ってやるよ」
ふと視線を地面に落とし、そこに落ちていた乾いた小枝を拾い上げる。
かつての軍務で酷使した右手の指が、驚くほど軽やかに動く。
**手先の感覚も、関節の可動域も、明らかに“違う”。**
(身体が……軽い?)
違和感に気づく。
以前の肉体と比べて、**筋肉量は減っている**。
にもかかわらず、**動きは切れ味を増しており、出力も桁違い。**
「……試してみるか」
足元に転がっていた岩を掴む。
片手で、まるで子供がサッカーボールを持つように、**岩が軽々と持ち上がる。**
(少なくとも、40〜50キロ……いや、それ以上か。片手で持ち上がるって、なんだこれ)
冗談のような力。
自分の身体が、別物に進化しているという現実を突きつけられる。
(筋力もだが……感覚器官も強化されてる)
目はより遠くまで見える。音は小鳥の羽ばたきすら拾える。
風の匂い。土の湿り気。血の気配――すべてが、戦場のセンサーとなっている。
だがその進化ですら、あの“何か”には通用しないと本能が告げている。
(あれは、ヤバい)
名前も姿もわからない。
ただ、“それ”の接近に森の獣たちが沈黙し、空気が濁った。
数百メートル先で、**格上同士が殺し合いをしている。**
(どう考えても、俺の今の戦力じゃ歯が立たん)
素直に認める。その上で――思考は、次の戦術へと切り替わる。
**サバイバルの原則はただ一つ。「生き延びること」。**
木々を抜けながら、レオナルディアはストレージを起動。
瞬時に罠素材とツールを並べ、移動しながらの作業を再開する。
罠設置スキルの効果か、作業効率はすでに体感で倍以上。
枝、ワイヤー、粘着、罠の連結――流れるように組み上がっていく。
(よし、トラップ強度も上がってる。反撃の目はある)
手を止めずに、レオナルディアは森の風の音に耳を澄ませた。
(これが、“転生特典”か。……いや、違うな)
これは**自分自身の生存意志の結晶**。
プロとして極限を生き抜いてきた技術と精神が、異世界というルールの中で**武器として再構築された結果**に過ぎない。
「逃げるのは、今だけでいい」
その声は低く、森の中に溶けるように響く。
「今日だけだ。明日からは──こっちが狩る」
次に遭遇したとき。
目を合わせたその瞬間。
**俺が、仕留める側だ。**
レオナルディアの眼差しは、すでに戦術核のそれになっていた。