「森の中の生存戦略」
姿は見えない。ただ、殺気と足音が森を震わせていた。
レオナルディアは木陰に身を伏せ、湿った土の匂いの中で息を殺す。
視界の奥、木々の間を走る影がある。だが、正体はわからない。
(足音と踏み込みの重さ……最低でも俺より二階級は上だな)
判断は一秒以内。
即座に撤退を決断し、静かに移動を開始する。
「走らない。歩幅を狭く、枝を避けろ」
地面を読む。踏み抜きやすい腐葉土、枯葉の密度、足場の硬さ。
数メートル先に小型の兎型モンスター。こちらには気づいていない。
レオナルディアは音を立てずに接近し、首筋を一閃。
血飛沫すら抑えるコントロール。死体を即座に抱え込み、ポーチから紐を取り出して縛る。
(使える。血で誘導だ)
死体を抱えたまま、風下を読んで投擲ポイントへ向かう。
木々の間にぶら下げるように吊るし、血が地面にポタリと滴るよう細工。
匂いのルートだけで追跡者の意識を逸らす仕掛けだ。
その間にも、ストレージから無臭のワイヤー、スパイク杭、粘着樹脂を取り出す。
走らず、止まらずに設置。
片手でワイヤーを幹に巻きながら、もう一方の手で小枝の角度を変えて視認性を下げる。
後方確認。気配は近いが、まだ視認されていない。
(次は毒性トラップ)
ストレージを再展開。乾燥させた毒草の粉末、罠用の針、圧力板。
低木の下に即席の**「無音・即効性の罠」を設置。すべて歩きながらの作業。**
指先だけでパーツを噛み合わせ、視線は進路から離さない。
一つ、二つ、三つ。
その全てが血の匂いとは別ルートに設置され、逃走ルートの陽動と迎撃を兼ねる。
風下に動いたレオナルディアは、改めて音を立てないまま移動を継続。
罠の設置。誘導。監視。移動。
全てを同時に処理するその姿は、まさに“戦場の職人”。
(まだバレていない。──なら、勝ち筋はある)
この森の中で、最も冷静で最も静かなのは──元特殊部隊員の転生者だった。