「助けた先にあるもの」
とりあえず、目の前の戦いは終わった。
倒したモンスターの死骸は、すべて《アイテムストレージ》へ素早く収納していく。手慣れた動作で、商隊の誰かが声を上げる前に、血の匂いすら消えていた。
「……いまの、どこに?」
商人らしき男が、乾いた声で呟く。
冒険者たちも、こちらを見て動きを止めている。
(やっぱり、ストレージのことか)
この世界の一般的な“収納術”と違い、俺のそれはほぼ無制限かつ無音、かつ死体の劣化もない。初見で驚かれるのも無理はない。
カーバンクルは地面の影からまだ警戒の目を向けていた。
ピクシーは俺の肩に止まり、くるくると様子を観察している。
敵意――今のところは、感じない。
「助かった……助けてくれたのか、あんたは」
傷を負った冒険者がそう呟きながら立ち上がる。まだ完全ではないが、回復薬の効果は出ている。
俺は言葉を選ばず、淡々と返す。
「たまたま通りかかった。敵が多すぎて放っておけなかっただけだ」
事実だ。俺の目的は、今のところ“生き延びること”と、“この世界の情報収集”だ。
助けたのは合理的判断に過ぎない。
――この世界、ルドゥス・デオルム。
地形は理解してきたが、国家の位置関係や人間社会の仕組みはまだ曖昧だ。
商人や冒険者は、情報の宝庫でもある。
「ひとつ聞きたい。ここは、どこの領地だ?」
俺がそう聞くと、商人が苦笑混じりに答える。
「ここはヴァルグラッド帝国の辺境、“トール=ベン交易路”さ。シルヴァリオンの南端に近いが、完全に帝国の監視下だよ」
帝国領か……噂で聞いていた軍事大国。
つまり、いま俺がいた森は、帝国とエルフ領の狭間だったというわけだ。
「目的地は?」
「辺境都市、バリスタッド。戦地に近いが交易は盛んでね。人も物も、情報も集まる」
(なるほど。いい“足がかり”になりそうだ)
敵意はない。今のところは。
「じゃあ、少しついて行くことにする」
そう言って歩き出すと、商人と冒険者の間に微かなざわめきが走る。
この旅の先、どんな情報と敵と出会うのか――それはまだ、誰にも分からない。




