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「命の天秤」

 矢を放つたび、風が巻きつき、空気を裂く音とともに一体、また一体とモンスターが崩れ落ちていく。


 ピクシーが薬草の香りを風に乗せ、味方の疲労を癒やしながら、簡易の目くらまし魔法を散らし始めた。カーバンクルは青い瞳を輝かせ、足元から浮かび上がらせた小石を空中で回転させ、次々と敵に向かって弾き飛ばす。


 ──次の瞬間、風切り音。石弾がモンスターの頭部を的確に貫いた。


「ヘイトがこっちに向いたら、即撤退する……」


 森の陰から状況を見極めるレオナルディアの脳裏には、軍人時代に何度も口にした信条がよぎる。


 助けたいという感情と、自分の命を天秤にかけるとき、選ぶべきは「生き残ること」。だからこそ、今は“やれるだけやる”に留める。


 ふと、戦場の冒険者の一人がこちらに気づいた。男は怒りと意思を宿した瞳で周囲を睨みつけると、赤いオーラをまとい、突如として叫びながら突進した。敵の注意が彼に集中する。


「今だ」


 レオナルディアは残りの矢を撃ち尽くすと、即座に背から槍を引き抜いた。全長の半分に切った手槍──投擲用に削り出した骨と木の複合素材。


 一本、また一本。飛翔するたびに敵の肩、頭、背を撃ち抜く。合計三十五本──すべてを投げ終えた瞬間、レオナルディアは迷いなく前へ出た。


 残るは近接戦。音もなく背後に回り、首を裂き、骨を砕き、刺さった槍を引き抜いて再利用する。呼吸のリズムと動作が完全に一致し、流れるような一撃が敵を次々と沈めていく。


 気づけば戦場にはもう、立っているモンスターはわずかだった。


 残党を掃討するように、冒険者と残りの護衛が最後の突撃をかけ、戦闘は終わりを告げた。


 深手を負った冒険者に歩み寄ると、肩から背中まで裂けた傷が痛々しい。迷わず回復薬を取り出し、直接傷口に流し込む。煙を上げるように薬が浸透し、男の呼吸がゆっくりと落ち着いていく。


「……助かった。お前……一体……」


 男の声はかすれていたが、敵意はなかった。


 レオナルディアは答えない。ただ、空になったストレージの底を一度見てから、静かに周囲に目をやった。


 まだ、夜は遠い。だが、次に動くのは、敵か、味方か――。


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