禁忌
触れてはいけない。
僕のような半端者が、あなたのような人に触れてはいけない。
誰にでも平等で優しく、温かいあなたの手を。
決して取ってはいけないのだ。
僕に対しては区別していい。
僕のことを邪険にすることが、平等にするということなのだ。
この世に生まれ落ちた罪への贖罪。
僕は独りで生きていく。
何も期待しない、何も望まない。
いや、ただひとつだけ。
どうか僕に、温もりを与えないで。
それだけを願う。
知らなければ、求めることもない。
欲する意味もない。
知らないことは罪ではなく、救いとなる。
僕の周りに人はいない。
あぁ、落ち着く。
無表情でいても「どうしたの?」と、問われることもない。
実に楽だ。
ありのままの自分でいられる。
誰かに合わせて、取り繕う必要もない。
実に晴れ晴れしい。
……本当に、そうだろうか。
僕の心は、本当にこの姿を望んでいるのだろうか。
ドクン、ドクン……心音がうるさい。
まるで、僕が僕を否定しているようだ。
あの人だけではない。
僕は誰かに手を伸ばしてはいけない。
手を伸ばし、相手から触れられることが怖いんだ。
独りでいなければいけない。
僕は誰かに、この弱さを知られたくない。
僕は虚勢を張らなければいけない。
僕が僕であるために。
僕は独りでいなければならないのだ。
触れてはいけない。
僕は自分の本心に、触れてはいけない。