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アブノーマル  作者: 秋田こまち
第一章
9/17

クリスマス短編1 小さいブルーベリーパイ

メリークリスマス。

 十二月二十四日。

 子どもなら誰しもが浮かれるであろうクリスマス・イブ。まあ外の世界の子どもたちは大抵学校でげっそりしているのだが。

 そんな日、雪が降る夜の新月庵にて———


「パイ食えパイ食えパイ食えパイ食えパイ食えパイ食えパイ食えパイ食えパイ食えパイ食えパイ食えパイ食えパイ食えパイ食えパイ食えパイ食えパイ食え(以下略)」

「何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何!?」

 唐突なパイの押し付けが始まっていた。

「何だよどうしたいったい!?」

「優作お前パイ食え!」

「何で!?」

 潰されそうになっている優作に、台所から天音が答える。

「今日、私と一緒にブルーベリーのパイを作ったんですけど、作りすぎてしまって」

「ああそれで」

 納得したような顔。だが、すぐにまた疑問が浮かぶ。

「けど、何でブルーベリーパイ?」

「さあ。私も突然作ろうと言われただけなので・・・そういえば今日ちょうどクリスマスですね」

「・・・くりすます?くりすます・・・・ああクルシミマスか」

「チガイマス」

「「けど実際そうとも言う」」

「お前らクリボッチから開放されただけまだマシだろおッ!」

 バンと勢いよく扉が開くとともに、端白が怒鳴る。

「まあ・・・そう」

「一応ボッチは解消されたなあ」

 ただの居候ですけどね。

「結月くんってクリスマスにどんな印象があるんですか?」

「ん?ケーキ屋繁盛の日」

 まあ、皆そんな気はしていた。

「みんな予約して買ってくからさ。自然とそういう印象がついちゃうんだよね」

「結月君は何か買うんですか?」

「完全予約制クリスマス限定ミルクレープ一切れ。今年は忙しくて予約できてない」

「プレゼントとかは?」

「あ、ウチ(サンタ)いないんで」

「サンタが親なんて悲しいこと言わないでください」

「そうなの?」

「知らないの?」

「知らなくていいんですよそんなこと」

 ふと優作が口を開く。

「なんか個人的な偏見だけど端白ってそういうネタとか知らなそう」

 おい思春期男子。

 結月さんなんか言ってやってくださいよ。

「やってみるか」

 おい思春期女子。

 天音は端白に近づくと、

「端白ちゃん。■■■■(ピー)とか(自主規制)(ピー)とか(この発言は(ピーーーーーーー)賢者によって(ーーーーーーーー)検閲されました)(ーーーーーーーー)とか知ってます?」

 と、とてもお茶の間で言えない単語を軽々と連発した。

「?何それ」

「あこれガチで知らないやつだ」

 沈黙。

 最初に口を開いたのは結月。

「天音。一体どこでそんな言葉覚えたの?」

「———ッ!?」

 ビクリと跳ね、肩を震わせる。

「ゆ、ユヅキクンノヘヤヲソウジシタトキニソウイウウスイホンヲ・・・」

「そうなの?」

「成年同人誌買ったことない」

「違うじゃん」

「け、けど、結月くんのパソコンに確かにメロンが・・・」

「あれはコミケとか例大祭とかで買い逃した本を買ってるの。実際、現地に行くと衝動買いとかしちゃってすーぐ軍資金尽きるから、欲しいものが買えないときもある」

「イベントとか行くんだ」

「優作さんが入ってるサークルの手伝い」

「お前冬コミのやつ書いた?」

「とっくのとうに」

「手伝いどころじゃないじゃん」

「そうかも」

 ちなみに作者は同人の即売会はおろかトレカのイベントにも行ったことないぞ!正直言うとこの前のイベント滅茶苦茶行きたかった。

「ゆ、ユヅキクンノアカウントデイケバスグカエマス」

「・・・・私のアカウントで買ってるってこと?」

「購入履歴見せてみ?」

「ほい」

「もう良いですよ!私がそういうの買ってることは認めるから・・・」

「なるほど。天音は百合物の同人誌を―――」

「わーっ!わーっ!わーーーーーーーーっ!」

「何何、何の騒ぎ?」

 扉を開けて入ってきたのは綾戸。

「あれ、そっちの片付けは?」

「ちょうど終わったとこだよ」

「そう。結月には気をつけろよ?」

「何―――」

「綾戸お前パイ食え!!」

「いや急に何!?どういうこと!?」

「かくかくしかじかまるまるうまうまそびえとのこっか」

「ああ、デーーーーーーーーーーーーーンね」

「それソ連の国歌」

「だってソビエトの国歌って」

「遅れてごめん!ケーキ買ってきたよー」

 再び扉が開かれる。

 そこから入ってきたのは愛音だった。

「ありがとう。じゃ、責任取ってパイ食ってくれ」

「え?どういうこと?」

「かくかくしかじかまるまるうまうまこんぎょこんぎょ」

「な、なるほど?」

「お裾分けに回せばいいのに」

「それだあっ!」

「けど何でブルーベリーパイ?」

「それ俺も気になった」

 結月は、少しだけ

「流れ変わったな」

 遮るな。

 結月は少しだけ暗い表情をすると、 

「私に姉がいるのは話したっけ」

「そうなの?」

「そうそういるの。実はね、昔クリスマスに、親が仕事で忙しくて、けどおねえちゃんはケーキが食べたいって言ってたの。

 私もケーキ買ってあげたかったんだけど、二人共親も待てないほどお腹減ってて、近くにコンビニなんてなかったし、ケーキ屋で買うほどのお金もなかったわけ。家にある材料で作ろうとしても、親がよくお弁当にいれる冷凍のブルーベリーとバターしかなかったの。

 それで、夕飯代を削ってパイ生地買って、生地二等分して、ありあわせで作ったカスタードと砂糖で煮詰めたブルーベリーをその中に入れて、バター塗って、オーブンで焼いて、二人で食べたんだ。

 この季節になるとそれ思い出しちゃって。食べたくなるんだよね。ブルーベリーパイ」

「その結果が・・・あれ?」

「ノーコメント」


 竹の塚警察署 留置所。

 二人の少年が、牢の中に閉じ込められていた。

「さみしいな」

「何が?」

「クリスマスに男二人なの」

「ボッチよかマシだろ」

「違いない」

 紫電はケラケラと笑う。

 すると、刑務官の一人が話しかけてくる。

「なあお前ら。ケーキ食うか?」

「いいんですか?」

「ああ。この前の、お前らの事案を担当した嬢ちゃんが今日余ったからってブルーベリーのパイを大量にくれてな。皆で食べたんだが、ウチ数少ないから、余っちまってな。それで、ちょうど二人分余ったもんだから、お前らにやるかって話になったんだ。食うか?」

「食べます!」

 真っ先に紫電が返事をする。

「では、お言葉に甘えて」

 遠慮がちに朱憐が返す。

「おう。じゃ、取ってくるから」

 ちょっと待っててなー。といいながら、警官は去っていく。

 戻ってきたときには、二人に増えており、二人共、両手に金属製の盆を持っていた。

 置かれた盆の上に乗っていたのは、コッペパンとクリームシチュー、温野菜と、ラップに包まれた小さなブルーベリーパイ。

 パンを千切ってシチューに浸す。クリームシチューは鮭やホタテ、海老が入っていた。

 パイに掛けられたラップを取る。一口齧ると、パイ生地のサクサクとした食感が、砂糖とブルーベリーの甘味を乗せて口の中に広がる。

「うまいな」

「ああ。美味い」

 来年こそはもっと多い人数で冬を迎えよう。

 そう思った二人だった。

本編から数日後の話なので平然と紫電と朱憐が留置所にいます。にしてもおふざけがひどいですね。

深夜にも上がります。


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