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アブノーマル  作者: 秋田こまち
第一章
8/17

第八節 桐生礼華はどこに消えたのか?

前回のあらすじ

暴走事件の犯人が未だ捕まっていない中、桐生礼華は謎の二人組にいつの間にか拉致されてしまった。目的を聞いても、後でわかるとはぐらかされてしまう。一方その頃結月は新書の発売日に風邪を引いて高熱を出してしまい、天音に看病してもらうことに。


いつもに増して長いです。思わず筆が弾んでいつの間にかこうなりました。

[序]

「お母さんが、消えた・・・?」

『はい。朝起きた時にはもう』

 携帯から聞こえてたのは、礼華の侍女の声だった。

「消えたって、屋敷の中とかは・・・」

『探しているのですが、それでも見つからず・・・』

 現在警察が捜査しているというが、一向に見つかる気配はないという。

「ま、街の中とかは・・・」

『まだ捜索できていません』

「と、都内全域は・・・」

「流石に無茶がすぎるだろ」

 部屋から結月が出てくる。

「起こしちゃいました?」

「ちょっとね。携帯貸して」

 結月は、天音から携帯を受け取ると、スピーカーに切り替え、机において話し始めた。

「状況は?」

『ど、どちら様で・・・』

「良いから早く」

 拡声機から、高い声が聞こえてくる。

 侍女によれば、朝起きて、一通り屋敷を掃除した後、朝食の用意をしたとき、机に、

『桐生礼華はいただいていく』

 と書かれたはがきサイズの手紙のようなものがおいてあったという。

 そんなことはないだろうと、寝室で寝ているはずの礼華を起こしに行ったところ、寝台には誰も眠っておらず、布団をめくってみても、何もなかったという。

 侍女はいち早く警察に通報。先述の通り、現在屋敷の中を捜索しているとのことだった。

「や、やっぱり都内全域を・・・」

「範囲が広すぎる。もう少し絞ってからのほうが良いと思う。もしかしたら、ただ屋敷抜け出して街にいるだけかもしれない」

「本当に敷地内にはいないんですね?」

『その可能性が高いかと・・・・』

 一体どこに行ったのか。天音は自分の母がさらわれるという、初めての事態に、不安を隠せなかった。

[一]

「もし書き換えたとして、あなたは何をするの?」

 礼華は問う。

「だから後でわかるって言ってるだろ?」

「名前は?」

朱憐(すれん)

 少年はやる気のなさそうな声で返す。

「じゃあ一つだけ教えて」

 勇気を出して振り絞る。

「仕組みを書き換える・・・結界の構造を変えるってことでしょ?どうしてそんな事するの?」

「そんなの決まってるだろ?」

 少年は、礼華の方を振り向き、言った。

「嫌気が差したんだよ。この国、いや、この世界に」

 


 優作の事務所には閑古鳥が鳴いていた。

 愛音は出かけており、今はいない。

 残念なことに、読書は趣味ではないし、蔵書もそんなにない。こういうときは寝るに限る。

「そんな時に何のようだ。アンタ」

「失礼。昼寝中だったか」

「いや、惰眠を貪るよりも話してたほうが少しは楽だ」

 優作は姿勢を正し、依頼人候補に向き直る

「で、ご依頼は?重要な依頼なんだろ?」

「察しが良いな

 少し人探しを頼みたい」


 設楽端白は箒で人里の上空を飛び回っていた。

 人里は一見都会のようで、しかし都心のような大型モニターなどと言った近代的な設備はなく、ただ、一昔前のような、木造や煉瓦造りの店が並ぶ繁華街である。

 端白は暇だった。それはもう、意味もなく空を飛び回るくらいには。

「賑やかだなぁやっぱり。人里はこうでないと」

 ついこの前被害を受けたばかりだというのに、もうすっかり街並みも人の流れも回復してきている。

 腹が減ったので着地して近くのうどん屋に向かう。

 端白はうどん派だった。どうやら蕎麦だとコシがなくてつまらんらしい。結月は切れやすくて食べやすいので僅差で蕎麦の方が好みと言っていたが。

「よ。おっちゃんやってるー?」

「おお端白ちゃん。今日も元気だね」

 大将が元気よく返す。

「ご注文は?」

「いつものー」

「あいよっ!」

 近くのカウンター席に腰掛ける。

「すまない、私も同じものを」

 隣に一人の女性が腰掛ける。

 やけに整った顔に、結月に似た白髪。そこにいたのは礼華の式、綺蓮だった。

「何のようだ?あんた」

「何のことだ?私はただきつねうどんを食べに来ただけなんだが」

「・・・残念ながら私が頼んだのはたぬきだ」

「いや、この店の品書きにたぬきうどんはないはずだ」

 近くにあったお品書きと書かれた紙を取る。そこにはたぬきそばはおろか天ぷらそばも書いていなかった。

「この店は天ぷらは全て個別で注文することになっている。そうだろう?」

「・・・そうだけど」

 何故そんなことを知っている。

「昔来ていたからな」

「そうなんだ。そうなんだ!?」

「生前に少し」

「前は人間だったんだっけ?」

「一度死んだ身だからな」

 端白は思考を放棄した。

「あと、お前きつねうどん好きだろ」

 端白は虚を突かれたような表情をする。

「な、何でそれを・・・」

「この前結月から聞いた」

「あいつッ!?」

 向き直る。警戒は解けなかった。

「・・・で、何のよう?」

 綺蓮は懐から茶封筒を取り出す。

「依頼がある」


 頭がうまく回らない。

 一体彼女は何処へ行ってしまったのか。

「お母さん・・・」

 天音は必死に考えていた。しかし、いつまで経っても答えにたどり着かない。

「一体どうすれば・・・」

 呼び鈴が鳴る。

 一体誰だろうか。

「いいよ。私出る」

「いや、こんな時に動くのは・・・」

「なんか重要なことかもしれないじゃん。行ってくるよ」

 結月はポケットに小さな拳銃を忍ばせ、階段を下っていく。

 扉を開ける。

「ごめん。欲しい参考書があったから買いに来たんだけど・・・何かあったの?」

 深緑の長髪、白いセーターに長いスカート。

 扉の先には愛音が立っていた。

「何?どうしたの?」

 結月は一瞬顔を歪めた。

「・・・・尻尾見えてる」

「え?」

 相手が振り向いた隙に、ポケットから拳銃を取り出し、腹部に押し付け、

 撃発。

 レミントンデリンジャー。レミントン社製の小型護身用拳銃。

 .41口径の非殺傷弾頭が二発、愛音の腹部に炸裂する。

「いった」

「誰だアンタ?」

「誰って、この間こっちに来た愛音だよ。忘れちゃったの?」

「愛音さんに店の場所教えた覚えないんだけど」

「・・・優作くんから聞いたの」

「優作さんには風邪を引いて休むって伝えたはずなんだが」

 銃身を上に折り曲げ、薬室から二発分の薬莢を落とす。

 素早く装填。対象に向かって構える。

「誰?何の用?」

「わかった、わかったからその銃を下げてくれないか」

 突如、煙が周囲を包む。

 結月は警戒を深めたが、それはすぐに解かれることとなる。

 煙の中から現れたのは綺蓮。

「何だアンタか」

「ああ。・・・そういえば、ここには天音様がいるんだったか」

「そうだ。大体聞いてる。まあ、このまま返すのもあれだし、アンタからもなんかあるんだろ?一旦上がってくれ」

「ああ。失礼する」


「で、何のようだ?」

 結月は、お茶が注がれた湯呑みを机において言う。

「もうすでに聞いていると思うけど、礼華様が何処かに消えた。探すのを手伝ってないか。報酬はざっと三十万」

「さ、さんじゅっ」

「依頼したのはお前で三人目だ」

 余りの額に、結月は目を丸くする。

「その報酬、何処から出てるんです?」

「勿論礼華様のお財布からです」

「ゆるすぎません?紐」

「私が掴んでるので」

 指を動かす。

「す、すごいよ天音。両手で数え切れない」

「まあ両手で数える程度の数ではないですねえ」

 興奮が冷めた結月は茶を啜る。

「けど、私今動けないよ?まだ熱下がってないし・・・」

「風邪でもひいてるのか?」

「それはさっき言ったろ」

 心配したような表情になる綺蓮。

「じゃあこの話はやめに・・・」

「それは無理」

 結月は立ち去ろうとする綺蓮の袖を掴む。

「最近誰も来ないんでね。生活費がもう。それに寝てばっかりじゃ暇なんだ。行かせてもらう」

「待て。けど熱があるなら安静にしなければ」

「けどじゃあ誰に頼むんだよ!?ここまで来たってことは警察じゃ人手がたりないんだろ?けど、アンタは他の人間に依頼してない。ただでさえ人手が足りてないんなら一人でも多く行かないと・・・」

「わ、私が行きますっ!」

 手を挙げたのは天音だった。

「私が、結月くんの代わりにその依頼引き受けますよ!」

 どうせ結月は無理矢理にでも行こうとする。そのせいで体調が悪化したらどうする。

「だめ。ただでさえ天音は要人なんだから、家で安全に・・・」

「結月くんの方が安静にしなきゃだめでしょう?」

「私の代わりなんざいくらでもいる。だから駄目。家にいて」

「病人にだけは言われたくないですね」

 結月は少しだけ引き下がる。

「できるの?」

「もちろんですよ。私、結月くんの助手でしょ?」

 綺蓮は結月に囁く。

「そうなの?」

「え?知らん」

[二]

 捜索は困難を極めた。

 住居周辺をいくら探しても、何の情報も出て来ず、本人も見つからない。

 消えたのが朝方ということも関係しているのだろうか。

 端白は空から居場所を探しながら、優作、天音が集めた情報をまとめていた。

「本当にどこに居るんだろう・・・」

『こっちは駄目だ』

 耳につけられた小型無線機(インカム)から、優作の声に似た機械音声が流れてくる。

『こちらも駄目ですね』

「そっかあ。ちょっと範囲広げる?」

『その方が良さそうですが・・・』

『本部と警察にどう伝達するかだよなぁ。・・・ちょっと俺からなんか言ってみる』

「頼んだ」

 プツリと通信が切れる。

 情報が足りない。

 何処にいるのかわからなければ、携帯も持っていなかったので連絡することもできない。

 捜索範囲は広がっていき、やがて千代田区から二三区全域にまで広がっていった。

「ここにはいないか」

 優作は竹ノ塚駅のロータリーにいた。

 竹ノ塚は優作達の住む舎人、入谷方面よりも開発が進んでおり、団地や低層のビル、大きなスーパーなどもあってとても賑わっていた。

「いましたか?」

「いや、見つからない」

「そうですか」

 天音は普段の表情を取り繕っていたが、その奥には不安が浮かんでいた。

 ふと、思い出す。

『何かあったらすぐに言って。飛んでいくから』

 と、結月に言いつけられていたことを。

「結月くん、呼んでみます」

「けど、あいつは今風邪で・・・」

「・・・止む終えません」

 天音は、結月にショートメールを送った。

「・・・で、だ」

 もう一つ重要な問題が残っている。

「結局何処にいるんだ?」

―――どうしよう考えてなかった。

「だと思った」

「ど、どうしましょう。今もこうしている間にお母さんは・・・」

 慌てる天音。落ち着いてなどいられなかった。


「非常事態・・・か」

「行くなよ?」

「行くって言っちゃったから。行ってくる」

 結月の細い腕を掴む。

「駄目」

「何で」

「風邪こじらせて、もっと天音様心配させちゃうよ?」

「約束だから。あっちも、それをわかってる」

 手を振り解く。

「それにそっちからみても、私はただの退治屋。捨て駒でしかない」

 ワイシャツを羽織る。

「それとも、生前の娘に似て情でも湧いた?」

「ッ!?」

 綺蓮は以前まで人間で、ちょうど結月達と同じ歳で、結月に似た娘がいた。

 だが、ある件を境に一度死んでしまい、その後、式神として蘇生させられてから一度も会った事がないという。

 結月は手早く用意を済ます。

「行ってくるよ」

「・・・わかった」

 諦めたのか、呆れたような冷たい声で返す。

「必ず戻ってこい」

「善処はする」

 壁にかけられた箒に思い切り魔力を込める。

 結月は、文字通り竹ノ塚まで飛んでいったのだった。


「Q.で、何処にいるんですか?」

「A.こっちが聞きたい」

 結月は着いて早々頭を抱えた。

「結局かぁ」

「そうですね」

「何とか情報がほしいもんだが・・・」

 結月は一旦箒を駐輪場の下に立て掛ける。

「駄目だね、なーんも考えらんね。どうせいるであろう端白に任せたー」

 優作は、結月に向かって何かを投げる。

「無線とカメラだ。使ってくれ」

「優作さんのは?」

「だいじょぶ。俺のは別にあるから」

「そう。ありがとう」

 結月は素直に受け取ると、耳に装着し、集声機(マイク)の位置を調整する。

「とりあえず。天音といっしょにカラオケの方探すわ。優作さんは商店街(カリンロード)の方見てきてくれる?」

「了解。行ってくる」

「任せた」

「あいよ」

 

「端白。情報」

『ほーい。急遽自主的に休日返上することになった悲しい悲しい結月ちゃんの為に一から確認するね』

「やかましい」

『まず桐生家がある千代田区皇居前。自宅の敷地内にはいなかった。それはすでに共有されてる情報だね。一応北の丸とかもまわったけど、誰も見てないってさ』

 端白が相も変わらず陽気な声で話す。

「そういえば、そもそもの犯人がわからないんだった」

『それ以外もだいたい同じ。どこにもいない』

『足立、荒川も今のとこそんな感じだ』

 本部からの短い返答の後、優作が淡々と話す。

『ただ』

「ただ?」

「結月くんがくる直前に質問した紫髪の人がやけに怪しくてですね」

「ほう」

『答えるとき、滅茶苦茶わざとらしく目をそらしてだな。逃げるように去っていったぞ』

 柿沼が抑揚の無い落ち着いた声で話す。


 話によるとこうである。

 天音達は、何も情報を掴めていないため、駅の近くにいた人達に話を聞いていた。

 花屋のお姉さん。

 某フライドチキン店のバイトのお兄さん。

 伊勢屋のおばあちゃん。

 コーヒー豆店のお爺ちゃん。

 唐揚げ屋のおっちゃんに昼から居酒屋で飲んでいたお兄さん方。

 誰もが、「知らない」と答えた。

 何も掴めていないまま帰るわけにもいかないので、なにか聞き出そうと必死になっていると、眼の前にやけにキョロキョロと周りを見ているナナと似たような髪色を持つ少年がいた。

「すいません。ちょっとよろしいでしょうか」

「な、な、ななななんだ?」

 そんな驚くことなくない?

 天音は疑問に思った。

「すみません。こんな人みませんでした?」

「み、見てませんね」

 優作は素早く後ろに回った天音に目配せをする。

 天音は違和感なく発信機を背中に取り付ける。

「そうですか。貴重な時間をいただき、ありがとうございました」

 そして少年は走り去って行った。


「流石に怪しすぎない?」

『『だろ?』』「でしょ?」

『それで試しにさらーっと発信機をつけたわけなんだが、』

「よくバレなかったね?」

『天音の腕が良かった』

 ・・・それも一つの才能なのだろうか。

「で、何処に行ってるの?それ」

『今圧英ビルに入っていったとこー』

「何処それ」

 個人が所有する小さいビルの名前など普通知るわけがない。

『耳鼻科の裏』

「どこだ・・・」

『口頭でいいなら案内する』

「柿沼さんお願いします」

『戦闘になったら教えて。すぐ支援しにいくから』

「ありがとう」

 優作の言葉が珍しく頼りに聞こえる。

 現在地から目的地までかなり遠いらしい。

『そこ左・・・向かって右だ』

「ここ?」

「つ、つかれました・・・」

 柿沼の案内通りに行ってみれば、それらしき小さなビルがあった。

「おっっもっ」

 硝子扉を開ける。疲れ果てた右手では開かず、

 結月は拳銃(カスタムⅡ)を抜き取り、安全装置を外す。弾倉を差し、遊底(スライド)を引く。薬室確認、良好。もう一度安全装置を掛ける。

「私から離れないでね?」

「む、無理しないでくださいね?」

 結月は眼鏡を外し、ジャケットの内ポケットにしまう。

「風邪がなんでぇ。そんなんじゃこんな仕事やってらんないよ」

 結月は一旦拳銃をしまい、懐中電灯を片手に構えた。

『いい加減レイル付ければいいのに』

「うるさい。私はこれが好きなの」

 階段を登る。音を立てないよう慎重に。

 二階、三階には誰もおらず、もぬけの殻と言うにというにふさわしい内装をしていた

 四階。どうせまた誰もいないんだろう。そう思っていたとき。

「――――があって―――が」

「は―――――じゃねえの?」

 声が聞こえる。

「優作さん。出番かも」

『了解。何階にいる?』


『四階』

「わかった。かっきー案内よろしく」

「かっきー言うな」

 優作は柿沼の言う通りに走る。

 硝子扉を開ける。

「重っ」

 開けた先には、なにもない空き家のような景色が広がっていた。

 四階まで階段を登る。

「どうだ?」

「まだ接触はしてないけど、紫の方は反応は見当たらない。赤の方は反応があるから多分魔術師。」

「わかった。一応警戒はしておこう」

「わかりました」

「了解」

 その時。

「誰かいるのか?」

 ビクリと、三人の体が震える。

「聞き間違いじゃねーの?」

「いや。たしかになんか聞こえたんだが・・・まあ良いか」

 三人は胸を撫で下ろした。

 魔術というのは便利なもので、現代技術では難しい空間歪曲型の光学迷彩を完全とはいかないが再現でき、その御蔭で相手に気づかれずに近づくことができた。

「さっきなんか感じなかったか?」

「さあ。きっと神経質になりすぎなんだよ」

 危ない。バレてしまうところだった。

 ゴンという鈍い音が鳴る。

「何か今きこえなかったか?」

「・・・聞こえたな」

 沈黙。

「「「「動くな」」」」

 迷彩を解く。

 朱憐は右手を、紫電はナイフを、結月は右手に、優作は左手に拳銃を構える。

 いつでも発砲できるよう、安全装置を外す。

 両者睨み合う。

 先に動き出したのは紫電。優作に接近すると、ナイフを振り上げ、下ろす。

 だが間一髪。結月の障壁が間に入り、ナイフは弾かれる。

 その時だった。

 発砲音。

 そして硝子の割れる音。

 結界が破れる。

 発砲したのは朱憐。その手には小さなリボルバー拳銃が握られていた。

 通常の銃弾の威力では障壁は破れない。

 なら破れたのは何故か?銃弾に思い切り魔力を込めたから。

 結界の破壊は、難しいようでその実簡単である。魔力塊を円錐状に形成し、それを結界の間にいれ、無理矢理広げるだけ。

 結月の、優作の、礼華の顔が青ざめる。

 咳一つ。

 口から赤い液体が吹き出す。

 視線の先には、


 血に塗れた天音の姿があった。


[急]

 腹部が熱い。

 なにか違和感がある。

 直後。

 景色が急に減速する。

 身体が後ろに引かれる。

 咳が喉を登ってくる。

 咳とともに吐き出す。赤い液体。まるで血のような・・・

 否。それは紛れもなく、彼女の血液。

 感じていた熱は痛み。何かに刺されたような感覚は銃弾で身体を貫かれたもの。

「天音ッ!?」

「あの野郎ッ!」

 体の力が抜ける。下腹部から血が溢れ出す。

「救急車ッ!」

 何が起きたかわからない。

 朱憐が礼華を抱え、窓から飛んで去っていく。それに釣れられ、慌てて紫電も窓から飛び降りる。

「待てッ!」

 優作は叫ぶ。だが、その言葉は届かず、伸ばした手は虚空を切る。

 結月は何処からか手ぬぐいを取り出し、止血を試みる。

「だめだ止まらない・・・」

「あんのド畜生がッ!」

 景色が暗転する。

 盾がある(ゆづきがいる)からと何処か慢心していたのかも知れない。

 人間は、予想外の事態が起これば反応が鈍るものである。

 血は止まらない。

「天音、天音ッ!」

 結月は必死に呼びかけた。

 血はまだ止まらなかった。

そういえばちゃんと名前言ってなかったなと思いまして拳銃にルビを振りました。


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