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アブノーマル  作者: 秋田こまち
第一章
6/17

第六節 怪物 下

10秒でわかる前回のあらすじ

サラッと生えてきた死霊術師の笹木が結月を半殺しにした。


今回も割と台詞多めです。クリスマスと年末になんとか間に合わせたいなぁ。

[破]

「面白いことしてんな。アンタ」

「お前から見たらそうかもしれんが、こっちから見たらそうでもないぞ?」

 紫髪の少年が話しかけてくる。

「そうかね?だってアンタ、今めちゃくちゃ楽しそうな顔してたぞ?」

 赤髪の悪魔は、少し間を置くと、口を開き始めた。

「ああ。そうかもな。今こうやって、奴らを蹴落としているのは実際すごく楽しいよ」

「お相手さん、割とマジらしいけどな」

 赤髪の悪魔は、急に唇を引きつらせて笑顔になった。

「あっちからしたらそうかもしれないけど、こっちから見たらただのゲームなんだよ。これは」

 少年は、赤髪の悪魔の前に立つと、一つ提案した。

「なあ、それ俺も仲間に入れてくれないか?」

[三]

 一時間後。退治屋組合足立支部。

「やっべえよやっべえよ」

「どうすっぺどうすっぺ」

「おおおおおちっ、落ち着けお前ら!」

「「お前が落ち着け」」

「皆さんそんなベタなリアクションしてる暇ないですよ!どうにかしないと、これ以上被害が・・・」

 足立支部は現在の被害件数を見て混乱に陥っていた。

 数十分前急に発生した、体が実体を持った靄でできた謎の妖怪(以下靄人間)の暴動に、今回新たに発生したナナの暴走。

 本部からなにか連絡があるはず。そう思っていたのだが、いつまでたっても連絡は来ず、着たかと思えば第三種配備を敷き、住人の避難は本部の人員で行ったという。支部が動く必要はない。そういう知らせだった。

「「「何でよりによって三種なんだよ!せめて二種にしろ!」」」

「本部の人がなんとかしてくれるって言ってたじゃないですか」

 警報。

 眼の前のモニターは赤く染まり、でかでかと緊急事態の四文字を浮かべている。

「今相手してるのは笹木だ。あいつ一人で対処できる相手じゃない。それに本部の人間は信用ならん。実際

本部がちゃんと仕事をしないからこうなってるんだ。 

 普段の奴らなら余裕で制圧してるし、こんなに被害が拡大することはないはず・・・」

「カメラの映像を出してくれる?」

 デスクのモニターに映し出されたのは、ナナに軽々と蹂躙される本部の人間。

「どうするかっきー!これ以上被害出すわけにもいかないでしょ?彼ら投入するしかないんじゃない!?」

「・・・もう少し考えさせてくれ」

「どうする?時間ないぞ!?」

―――駄目だ。落ち着け柿沼。餓鬼共を出すほど切羽詰まった状況では・・・いや、十分詰まっているな。本部はこのまま黙ってこの蹂躙劇を見ていろというのか?

 そんなこと、できるはずがない。

 残念ながらこのまま見て見ぬ振りができるほど、柿沼達は上に忠実にできていなかった。

 他の組合員は運悪く皆有給を取っており、今ここにいるのは柿沼たちを含めた八人。

「・・・とりあえず人を動かそう。今それができるのは俺達だけだ」

 職員たちは全員頷くと、各自の作業に取り掛かった。

「そうと決まれば皆呼ぶよ!柿沼!手ぇ貸しな!」

「言われなくても。俺らは足立支部(こっち)やるから、狭山は入谷(あそこ)の奴らに連絡頼む。新田はあいつを起こしてやってくれ」

「了解。さぁ、忙しくなるぞ新人!」

「は、はい!」


「何?、あの嬢ちゃんがやられたって!?」

「そりゃそうだ。今はあん時よりは弱体化してると言ってもおかしくないからな」

 本部の判断とは逆に事の重要さを理解した柿沼達が人員を配備している頃、足立支部に集まった退治屋たちは結月がやられたという話題で持ちきりだった。

 

「そういえばこれ、あいつにとって初めての大きな事件になるんじゃ?」

「確かにそうかもな」



「ここで間違いない!?」

『そのはずだけど』

「ホントに!?」

『ああ。木の下あたりに寝っ転がてるんじゃないか?』

 優作が階段を駆け上ると、血痕が石畳から点々と伸びていた。

「・・・・新田さんナイス推理」

 血痕を辿って行くと、そこには木にもたれかかった結月。

 首筋に指を当てる。

 そもそもの体温が低いため体温ではわかりにくいが、確かに脈拍はあり、規則的に呼吸もしている。

「結月、起きれるか?」

 ぺちぺちと軽く頬を叩く。

「んぅ?・・・すぅ・・・んぅ・・・・みけぇ」

「みけ?」

「みけね・・・こぉ・・・すぅ・・・」

 どうやら三毛猫を飼いたいらしい。

・・・これ、どうやって起こそう?

『起きないのか?』

「あれ、声に出てました?」

『ああ。はっきりな』

「マジっすか」

 どうしたら起きるのだろうか。自分では考えられなかったので、大人しく大人に頼る。

「どうしたら起きますかね?」

『近くで発砲してみたらどうだ?』

「・・・・やってみるか」

 なお結月の鼓膜の耐久性は考えないものとする。

 近くの植木に照準を定め、発砲。

 火薬の乾いた音が空気を通じて、結月の鼓膜を震わせる。

「―――ッ!?敵襲!?」

「あ、起きた」

『言ったろ?』

 素早く起き上がった結月は、ある程度周りを確認すると、

「・・・・・・・気の所為か」

 再び寝る姿勢に入った。 

「まてまてまてまてまて!」

「んぅ?・・・・あれ、優作さん?どうしてここに?」

「お前を起こしに来たんだよ!」

 結月は首を傾げる。

「起こしに?わざわざこんな遠くまで?」

「どこが遠くだ徒歩十五分だぞ」

「徒歩十五分で地獄に行けるの?すごいね」

「どこが地獄だ。普通に舎人公園じゃねえか」

「・・・・舎人公園?」

 もう一度辺りを見渡す。

「ホントだ」

「ようやく理解したか」

 小さな声で呟く。

「また死に損なったか・・・・・」

 その目は虚ろで、光が灯っていなかった。

「・・・結月?」

「ん?どうしたの?」

「・・・・いや。なんでも」

 すぐにいつもの顔に戻った彼女は立ち上がり、階段に向かって歩いていった。

「さて、ちょっと荷物整えに行こうかな」

「割と緊急なんだけど」

「大丈夫。すぐ追いつくよ」

[四]

「撃っても撃ってもきり無いわね。なんだって私が」

 前から別の退治屋の言葉が聞こえる。

 何故こんなにもこの先輩方は弱いんだろう?

 本部からわざわざ出向いているのに失礼かもしれないが、それでも端白は思ってしまう。

 少し援護でもしてみよう。そう思って、一射。

「ちょっと、何してんのよアンタ。ただの魔法使いが出しゃばんないで」

 何だこいつ?わざわざ撃ってやったのにエラソーに・・・

 そう思ったが、口には出さなかった。

 仕方ない。言われた場所に戻るか。

 端白は上空へ飛び立つ。


 結月は森の中を駆け抜けていた。

 重いようで中身のない古ぼけた扉を開ける。

「おかえりなさいっ!」

「た、ただいま?」

 その勢いに、結月は思わずたじろいでしまう。

「・・・・・・行くんですか?本当に」

「うん。もとはといえば自分のやらかしだからね」

「・・・ただ負けちゃっただけですよね?」

「そうともいう。けど、結局私が弱かったのが原因だから」

「そうですか・・・」

 天音は、渋々結月に服を渡すと、

「無理だけはしないでくださいね」

 そう言って、部屋に消えていった。

「・・・まあ、善処はするよ」

 結月は階段を上がって自分の部屋に戻ると、今まで来ていた服を脱ぎ、受け取った服を着る。

 シャツとスラックスはよく洗濯されており、今までの汚れが嘘のように消えている。

 キンバーが入ったホルスターとナイフの鞘をベルトに通し、ベルトを締める。なけなしの金で泣く泣く買い直した防弾チョッキと、その上にまた新しいジャケットを羽織る。

 空のマガジンに弾を込め、グリップの穴に差し込む。

 スライドを引き、初弾を薬室に送り込む。

 プレスチェック。良好。

 安全装置をかけ、ホルスターに入れてからコートを羽織る。

 新しいコートは細く、小柄な結月の体には少し大き過ぎたが、とてもあたたかく感じた。

「いってきます」

 扉を開ける。

「いってらっしゃい」

 そう、上の階から小さく返ってきた。


 最前線。

 優作達支部の部隊は分隊を組み、各地で対応することになっていた。

「なんか人多くね?」

「そりゃあお前。千住からも応援が来てるからよ」

「ああそっか」

 他の退治屋たちは呑気に談笑しており、まるで緊急事態とは思えない。

 これがかつて魔境と呼ばれた足立の現地民の力なのだろうか。

 ちなみに、今は治安が悪すぎて足立区は東京のスラム街と呼ばれている。

 未だ結月は来ない。すぐ追いつくとかのたまっておきながら、実際三十分ほど待っている。

「遅いなあ」

 あの馬鹿。もしかしてビビって逃げ出したんじゃなかろうか?そう考えていると、作戦の時間になった。

「一陣くるぞ!!」

 怒号。

 大量の靄人間が、こちらに襲ってくる。

 一撃で倒せるほど脆弱な妖怪だが、この人数は一人では流石に捌ききれない。

 ナイフと拳銃を抜く。

 拳銃で牽制しつつ、相手を絞って行く。

 ナイフで防御しながら、左手の拳銃を収め、手のひらに目に見えない魔力の塊を作り出し、弧に放って振動させる。

 靄人間が霧散して行く。

 背後に気配を感じ、振り返る。

 その時にはもう遅い。

 目と鼻の先にはもう靄人間がいて、優作の頭を爪で引っ掻こうと、腕を伸ばしていた。

 視界が急に減速する。

 死の間際というのはこういうものなのかと、優作は実感する。

 だが、その瞬間に、靄人間は急に腰を反らせ、空中に霧散。

 晴れた視界には、白髪の少女。

「ごめん。遅れた」

「遅えよ。ヒーローにでもなったつもりか?」

「そんな気はないんだけど」

 瞬間、二人の眼の前に猫耳が生えた人間のようなものが現れる。

 紫髪のツインテール。特徴的な猫耳。黒いパーカー。髪の毛と同じ色の瞳。

「・・・なんで戻ってきちゃったの?」

「さあな。自分でもわからん。説明できたとしても、仕事だからとしか言えんよ」

「そう」

 ナナは鎌を構えると、振りかぶって、横に薙ぐ。

 優作はその一撃を躱し、結月は障壁で受け止める。

「モヤ野郎は俺がやるから、結月はそいつ相手してやってくれ」

「わかった」

 拳銃を抜き取り、両手で握る。照準を定め、ニ発。

 腹部に命中したものの、笹木ナナは簡単には止まらない。

 結月に高速で接近する。

 もう一度障壁を展開。

 ナナはもう目前まで迫ろうとしていた。

 片手で構えて、ナナの足元に向けて雑に発砲。

 ナナは弾を避けるように経路を変え、結月の眼の前まで迫る。


 違和感。

 障壁は確かに破壊した。結月は丸腰のはず。

 なら何故、防御行動を取らないのか。


「驚いた」

———本当に驚いた。

 まさかあの笹木がこんなにも、

「こんなにも簡単に引っかかるなんて」

「ッ!?」

 地面から幾何学的な模様が浮かび上がる。

 魔術をろくに学んでいないナナでもひと目見ただけでわかる。

 これは、この起動式は。

「―――誘発式の黒光槍」

 飛び出した槍がナナの体を貫いていく。

 黒光槍とは、通常遠距離への投擲や近接攻撃に使われる魔術である。

 日光等の光からエネルギーを吸収し、そのエネルギーを利用してする。

 地面に設置する設置型の攻撃魔術には二種類ある。

 一つは入力式。設置時相手が射程内に接近してくるタイミングを予測して、そのタイミングに発動するように入力する。または設置後に、相手が接近したタイミングで外部から入力することで発動する魔術。

 予測入力タイプは予測能力と計算が必要となり、外部入力タイプは入力から発動までに少しのタイムラグがある。だが、専用の新規術式を書き起こしているため、

 二つ目は今回の誘発式。

 相手が射程に接近するタイミングを予測する必要がないためその分楽で、入力型よりも汎用性が高く、発動タイミングを予測、計算、入力しなくていい分、設備の防衛や高度な術式を立てるための時間稼ぎなどに使用でき、専用術式を暗記または記録する必要がなく、既存の術式を流用することができる。

 欠点があるとするならば、もともとの起動式から、専用の起動式に書き換える必要があり、その起動式がとても難解であること、そもそも起動式の書き換えを行えなうことができる魔術師が少ないこと。

 だが、ナナは自分を貫いた術式を無理矢理破壊し、こちらに迫ってくる。

 刃は確実に首を捉える。

 だが首には至らない。鎌は、これ以上進まない。

 結月は大鎌の柄、大きな刃の真下を左手でつかんでいた。

 刃は、もう少しで右側から首を刈り取ると言ったところだった。

 結月はもう一度右手で拳銃を構えて、照準をつけないで連射する。

 ナナの顔が歪む。どうやらうまく当たった様だ。

 強引に鎌を奪い取り、遠くに投げつける。

 鎌は優作の周りを一周しながら靄人間を蹴散らし、ナナの手元に帰ってくる。

 もう一度駆け出す。

 下腹部には痛々しい弾痕が七つ。

 結月は弾倉を交換し、追い打ちをかける様にもう七発撃ち出す。

 命中。

 ナナの身体は少しだけ後退し、地面に倒れる。

「・・・ごめんね」

 結月は、ボロボロになったナナに短く謝罪し、手錠をかけた。

 

 

[急]

 薄暗い部屋の中。

「いやあ、こんなこと考えるなんて、もはや人間のやることじゃないな」

「そんなことはない。ただの途中過程だ」

「いや、俺でもこんなこと思いつかねぇぞ?」

「そりゃあお前が・・・」

 バカだから。その言葉を喉仏の辺りで押し殺す。

「何だよ」

「いや、何でも」

「ハハッ、でも、本当に倫理観備わってるか?」

「お前にだけは言われたくない」

 少年は計画書を見ながら言った。

「こんな人間でもやらんこと、温厚な妖怪、しかも国家の重鎮の意思を奪って国家を壊滅させるなんて、こんなの考えられるなんてまるで怪物だな」

「その例えあってるか?」

「わからん」


 余談ですが某バンナムが某スター運営の人気タワーディフェンスゲームとコラボしたデッキとパックを発売しやがったせいで俺の財布はボドボドです。

 サイン入りのチェン隊長欲しい。


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