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アブノーマル  作者: 秋田こまち
第一章
4/17

第四節 おいでませ隠世

毎話オチが雑になるのが最近の悩み

[序]

 その日、優作は夢を見た。

 自分の師に半殺しにされる、懐かしい夢。


 目が覚める。何故か体は重く、背中に何かついているような感覚がある。

 下を見てみると、そこには一人の女性が抱きついていて・・・

 

 早朝六時。

 今日も元気に優作は悲鳴を上げる。

[一]

 愛音はこれから家が見つかるまで当分優作の家に住むことになる。

 ちなみに、優作の家になったのは、新月庵が満員だからではなく、ただ単に優作がじゃんけんに負けたせいである。どうやら先日の決定に納得がいかなかったらしい。

 お陰で上記の通り優作の理性は数日経った今でもゴリゴリと削れている。

「なんでこんなことになったんだ・・・」

―――じゃんけんを提案した優作が悪いのでは?

「う、」

―――言い返せないでやんの。

「るっせ。蹴り飛ばすぞ」

「ひー怖い怖い」

 優作にしては珍しい乱雑な右ストレートを端白はけらけら笑って避けた。直後に左アッパーが飛んできたが。

 鈍い打撃音。

 幸い何も持っていなかったため、茶がこぼれたり食器が割れるなんてことはなかった。

「邪魔」

 が、後ろで茶を運んでいた結月に向かって転げ回った。結月はお盆を机に置くと、反撃の下段蹴りを食らわせた。優作と違って本気ではない。

 何気ない動作でお盆を取り、机に全員分の茶を置いて厨房に戻る。

「優作さん限界だから。端白ちゃんもからかわないであげてください」

「天音は真面目だなあ」

 厨房には、この店の店主、天音とたまたまいた宴会料理のスペシャリストもとい綾が立っていた。

 優作たちは今、人里の居酒屋を借りて先日やってきた女性、愛音の歓迎会の準備をしていた。端白はまあ適当に縛っておけばいいか。

 天音はロープを持って、端白にゆっくり近づいていった。

「ちょ、何する気で」

「え、何って縛るに決まってるじゃないですか」

 作れるものは先に用意しておいたほうが良いだろう。

 南瓜を半分に分けて薄切りにする。

 茄子を二等分し、切り込みを入れていく。

 ピーマンを切り、ワタを抜く。

 さつまいもを薄切りに、フライドポテト用のじゃがいもは棒状に切っていく。

「優作、炊飯押してくれない?」

「ほーい」

 炊飯器のボタンを押す。

「そろそろ迎え行ってくるわ」

「いってらー」

「いってらっしゃい」

 結月は上着を羽織って店を後にした。

 準備は一通り終わった。結月もいなくなった。

 よし。

 優作は立ち上がり、天音の隣に腰をかけて、

「最近どうよ」

 そのまま絡む。

「どう。とは?」

「ほら、結月となんか進展あったの?」

 天音の顔が赤らむ。

「な、なにもないですよ」

 平然を装っているが、耳が赤みを帯びていた。

「え、なんでそんな照れてんのよ」

「え、」

 天音の顔がさらに赤くなる。

 少しカマを掛けてみよう。

「あれ、どうしたの?まさか結月とあんなことやこんな事する妄想でも」

「違います。」

「ほんとにぃ?」

「ちがいますっ!」

 天音は赤くしながら否定する。

「小さい頃あんなに結月に隠れて結婚したいって呟いてたのに?」

「な!?」

 耳が赤くなる。

「語ってやろうかお前の赤裸々エピソード」

「お、なにそれ僕も聞きたい」

「私もー」

 厨房に立っている綾と端白まで参加してきた。

「良いだろう良いだろう」

「ちょっ!?」

「「やったー」」

 サラッと話が展開される。酔っているのか、優作の頬は少し赤く火照っていた。

「どうやって解いたんだそれ」

 入り口には、見事に解かれた縄が置いてあった。

「ゆ、結月くんとはなにもないですよ」

 何気ない疑問。

「そういえばさ、なんで天音は結月のこと結月くんって呼ぶの?」

「え?」

「だってさ、他はちゃんとした呼び方・・・というか、性別に合わせてたりするじゃん」

「いや、だってその方がしっくり来ますし・・・」

「まあ、そうだな」

 確かに普段から男物の服装をしている結月に女性らしい呼び方は似合わない。

「いや、女子じゃあるまいし」

「「「「え?」」」

「え?」

 端白が放ったその一言に、皆違和感を覚えた。

 まるで話が食い違っているような、そんな感覚。

「え、結月って男の子じゃないの?」

「え、結月は女子だよ?」

「え?」

「え?」

「え?」

「え?」

 否、確かに食い違っている。

「・・・え、五年間見てきてずっと男だと思ってたの?」

「うん」

「・・・マジ?」

 優作は頭を抱えた。

 確かに当時から男物の服装をしていたが、それでも生活していたら仕草などである程度勘付くものではないだろうか。

「え、じゃあ何で普段男物の服着てるの?」

「あれはただ単に結月の趣味だけど」

「そうなの!?」

 端白は驚愕した。

「いや、逆に聞くけど、皆はいつ知ったの?特に結月が呼んできた見知らぬおにいさん」

 綾は周りをきょろきょろと見渡す。

「いやあんただよ」

「え、俺?」

 コントのようなやり取りをしながら綾は答えた。

「いや、従兄弟だから・・・」

「従兄弟だからって性別はあんまわかんないでしょ。優作さんは?」

「俺が初めてあったとき侍女の服着てたから」

「どんな趣味だよその親!?天音は?」

「私も優作さんと同じです」

 端白は固まった。

 そうだ、こいつらは自分よりも遥かに昔から彼女と関わっている。

 そのことを思い出して、端白は少しだけ孤独を覚えた。

 話題は尽きず、どんどんと暴露されていく天音の赤裸々エピソード。

 だが、そろそろに天音の精神と全員の空腹度が限界を迎える。

 時計を見る。

 十九時五十五分。

 結月が出発してからだいぶ時間が経っていた。

「にしても遅いな・・・」

 その時、優作の携帯に一つの着信が入った。




[二]

 ここまで来るのに何発消費しただろうか。

 スライドが後退しきったキンバーの空マガジンを投げ、新しいマガジンを入れ、スライドストップを下げる。

「服、買い直さないとなあ」

 結月の服は所々破れていた。

「そんなのんきなこと言ってる場合!?」

 反対に、愛音の身体には傷一つなかった。

 結月たちは今、一人の妖怪と対峙していた。

 名前はリケト。この森の近くに住む人食い妖怪の少女である。

「お、っと待ってあぶねぇぇぇぇっ!?」

 結月は自身の障壁で防ぎきれなかった流れ弾を全力で避けた。

「そんなイナバウアーみたいな・・・」

「そうでもしないと当たるの!

 全く、こちとらあんたみたいな耐久してないんだから」

 一度拳銃を収め、ナイフを抜く。

 相手に急接近。

「手加減してもらわないと」

 更に接近、逆手に握ったナイフを左側に寝かせ、

「困るね!」

 相手の首を、裂く。

 だが、そのナイフはリケトに数ミリ食い込んだまま、その先に進んでいくことはなかった。

「かってえ。どんな硬さしてやがる」

「少なくとも結月には突破できない硬さしてるよ」

 ナイフを引き抜く。

 薄い刃のニムラバスでも切れなかった首に、みるみるうちに欠損部位が生えていく。

「そうかい。ったく、いつもならおとなしいのに・・・」

「最近、新しい人間が来たって噂を聞いてさ」

 もう一度ホルスターからキンバーを抜き、構えて発砲。

 拳銃を斜めに寝かせ、肘を曲げる。両親指を合わせ、もう一度引き金を引く。今度は胸を狙って。

 撃ち出した銃弾は命中せず、リケトは余裕をもって躱した。

 爪で掻き切られそうになる。

 急いで障壁を展開、だが高密度の結界は一瞬で砕け散った。

「マジか・・・」

「なにぼぅっと、」

 腕が上がる。

「しちゃってん、」

 腕に魔力が凝縮、

「のッ!」

「ッ!?」

 追撃。

 放った斬撃は、避けようとした結月の腹を裂く。

 後ろに下がったため被害は抑えられたが、それでもコート、防弾チョッキ、シャツ、防具類はほぼ全て破損した

 どこからどう見ても満身創痍。継戦などできるわけがない。

 これを好機とみたリケトは、一気に標的を変更、少し離れた場所にいる愛音に攻撃を仕掛ける。

 その光景を見た結月は、無理矢理にでも自分の体を動かし、愛音の前に来て障壁を展開。

 高密度の結界は何重にも重ねられ、そう簡単には破れない。

 その障壁をリケトは二撃で叩き割る。だが、破壊される度に下から結月が再び張り直していく。

 次々に割られる障壁。

 どう見ても逃げたしたくなるような状況。

 結月はそれでも戦うことをやめなかった。

 一枚、また一枚と割られ、その度に補填。

 何回攻撃しても、壊れない壁。いや、次々に生えてくると行ったほうが正しいか。

 何度破っても結月との距離は縮まることは無く、その光景に、リケトは苛立っていく。

 だが、結月にも限界というものはある。

 ただでさえ出力が低い結月にこのまま粘って相手の魔力切れを待つことは現在の魔力残量的に厳しい。

 段々と、結界が破れていく。

 生成するペースも落ち、

 このままでは殺される。だが、だからといって凶暴化しているこいつを人里に放つことも出来ない。

「・・・逃げて」

「え?」

「いいから!」

 せめて、愛音だけでも逃がすことにした。結月に、必ず生きて帰るという決意も意思も無い。

 もしも死んだら?そんときゃそん時だ。

「・・・今日が私の命日かもな」

 結月は反撃の姿勢に出る。

 再び拳銃を取り出し、スライドの先端を握って薬室を確認、弾はない。

 マガジンを差し直し、もう一度スライドを引く。金属が擦れる音と共に、真鍮と鉛の塊を鉄の筒に送り込む。

 薬室を確認。今度はしっかりと弾が送り込まれている。スライド後部を叩く。

 両手を斜めに寝かせ、

 障壁が割れるとともに顔を上げ、二発。

 乾いた金属音。

 命中した銃弾は相手の不意を突くことに成功し、リケトは大きくよろめいた。

 がすぐに立て直し、結月の脇腹に回し蹴りを入れる。

 結月は蹴りを躱わすと、斜めに構えて五連射。

 リロード。空のマガジンをしまいさらに連射。計十二発の鉛玉をリケトの図体に撃ち込む。

「お返しッ!」

 反撃。

 再び結月の腹を抉るかに思えた斬撃は、腹部にちょうど作られた障壁に遮られる。

 腹いせの様にもう一度回し蹴りを入れる。

 疲労のせいか魔力切れのせいかはたまた回し蹴りの速度のせいか。

 結月は三メートルほど吹き飛ばされ、近くにあった木に叩きつけられる。

 再び標的を愛音に変更。一瞬で距離を詰める。だが、愛音の周りに小規模の障壁が生成され、攻撃は見事に弾かれる。

「チッ」

 振り向く。そこにはボロボロの姿で地を這いながら前方に掌をかざしている結月の姿があった。いま、このタイミングで魔力が回復したのは奇跡だと思う。その障壁一枚で、結月の魔力は完全に尽きた。

「邪魔者は居ない・・・ね」

「ヒッ・・・」

 愛音は動けなかった。眼の前には、自身の爪を紫色のエネルギー体で大きくさせている妖怪(バケモノ)が居る。

「どうだろうな」

「―――ッ!?」

 愛音は声がした方向、リケトの頭上に目線を上げる。

「すまん。遅れた」

 そこに浮かんでいたのは、先程まで店に居たはずの優作だった。

「なん・・・で?」

「結月から連絡があったもんでな。緊急事態だと」

 着地。

 拳銃を取り出し、プレスチェック。良好。

 左手でナイフを抜く。

 逆手に握り、振りかぶって、リケトの首にナイフを入れる。

 そのナイフはリケトの腕によって防がれる。

 右手に持ったベレッタを相手の腹部に向けて連射。

 リケトは少し体制を崩す。

 その一瞬の間に優作はもう一度拳銃を構え、連射。いくら小口径とはいえ、大量に浴びせれば結構な火力になるわけで、一マガジン分の9ミリ弾を食らったリケトは、地面に倒れていく。

「ま・・・だぁ・・・ッ!」

「残念だけど」

 リケトはボロボロになりながらも立ち上がる。その間に、優作はナイフを構え、

「ここで終わりだ」

 相手の腹に、突き刺す。

 拘束具で縛り上げて、携帯電話を取り出す。

「もしもし優作です。支部長居ますか?」

 優作は退治屋組合に電話をかける。数分後、優作は電話を切った。

「その、誰と連絡してたの?」

「ん?あー・・・俺等の上司。多分」

「多分って。その人はなんて?」

「すぐ来るって。引き取ってもらったら俺達も行こうか」

「うん」

 優作と愛音は近くの切り株に腰掛ける。

 組合の車は、意外と早く来た。

「ほんとにこいつがぁ?」

「ああ、信じられないけど、被害者だって居る」

 男は愛音に近づく。

「アンタがガイシャか?・・・妖怪に襲われたにしてはやけにきれいな服装してるが・・・」

「結月が直前まで護衛してたからね」

「なるほど」

 組合の使いは納得した表情で頷いた。

「・・・こう言っちゃなんだけど、結月ちゃんってそんなすごいの?」

「一応あんたの周りに障壁が貼ってあるんだが、そいつはこの辺じゃ結月しか作れない」

「め、めちゃくちゃ凄い?」

「「・・・・・まぁ多分」」

「なんでそんな曖昧な回答なの?」

「だって頑張れば誰でもできるし・・・」

「へ、へぇ」

「まあ、こいつはこっちの方で調べとくわ」

「おう。ありがとよ」

 そういえば。

「・・・そういえば」

「んぁ?どうした?」

「その結月・・・どこに居る?」

 顔を見合わせる。

「「・・・あっ」」



[急]

「「「かんぱーい」」」

 それぞれの手には、烏龍茶。

 後ハイボールとビールと焼酎(熱燗)が握られていた。

「・・・みんな未成年だよね?」

「この世界に酒に関する法律はないからね」

「そうれすよー。あいねさんものみましょー?」

「天音ちゃんもう酔ってる・・・」

 綾は周りを見渡す。

「そういえば結月は?」

「あー・・・もうちょっとでくると思うんだけど・・・あ、大将ビールおかわり」

「あいよ」


 一方その頃

「・・・なにしてんの?」

「わかんない」

「・・・どういう状況?」

「見ての通り」

 端白は店の入り口でワイヤーで亀甲縛りにされていた。

「・・・ロープ持ってって他のはわかったけど、縛り方・・・もしかして端白は変態趣味?」

「んなわけあるか。早く解いて」

 扉が開く。

「あら結月くんお帰りなさい」

「ただいま・・・何?これ」

「店の看板犬なんですって。可愛いでしょう?」

 看板犬(はしろ)の前に犬用の器に入った生米が置かれる。

「・・・犬・・・か?」

「どう見ても犬ですよね?」

「いや、その」

「犬ですよね?」

「・・・アッハイ」

「あ、これ人権ないやつ?」

 結月と天音は店の中に入っていく。

「あ、変なこと言ったら結月くんもああなりますので注意してくださいね?」

「え?」


下手なこと言うと飼い犬にされるらしいです。

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