枸城結月のショート講座 霊格について
「そもそも、霊格ってなんなの?」
「わかった。まずそこから説明しよう」
「やけに乗り気だな」
軽く結界を張る。
結界の中には五つの机が並び、壁の真ん中に黒板が張り付いていた。
結月は黒板に文字を連ねていく。
「いい?霊格っていうのは、その人……というより妖怪かな?の固有能力、そのベース。力の源って言ったらわかりやすい?その妖怪の能力は霊格の性質で決まる。霊格ってのは精神と密接に繋がってて、強い精神的ショックを受けると簡単に壊れちゃう。壊れたら自我を失って暴走しちゃうんだ。何か質問は?」
二人が手を挙げる。
「はい西園寺君」
「なんでそれが壊れたら暴走するんですか?」
「お、いい質問ですねぇ」
「何今の声」
「答えは簡単。制御が効かなくなっちゃうから」
「制御?」
黒板の中心に能力と大きく書きはじめる。
「さっき、霊格と精神は親友って言ったでしょ?」
「密接に繋がってるとは言ってた」
「妖怪の能力は強い精神力によって出力を抑えてるのよ」
能力の二文字を大きな楕円で囲み、その中に精神力と書かく。"精神力"の中には"能力"に向かって三方向から圧力をかける様に短い矢印が伸びている。
「その精神力の圧力が、なんらかの影響で外れていく。簡単に言えば精神攻撃、メンタルブレイクね」
「なんか違う気がする」
矢印を一つづつ丁寧に消していく。
「そうすれば、何も抑える物がなくなる。それで霊格のエネルギーが体を侵食していくわけね。そういう時、自我はとっくに機能しなくなってるの。何処ぞの賢者サマは割と持ち堪えたみたいだけど。けど、持って一日。それ以上は外部からの干渉がなければ戻らないのよ」
「外部からの干渉?」
「端白はわかる?」
「……?」
急に聞かれても思いつかないものは思いつかない。
端白は頭を抱え、左右にうねりながらうんうんと唸り声を上げ始める。
「壊れたのは正確に言えば精神の方だ。霊格じゃあない」
「……!」
ようやく思い出す。
「魔術協会の専門分野……創造魔法の亜種?」
「そ。再構築の魔術って呼ばれてる奴だね」
再構築の魔術。
魔術協会の専売特許、創造魔法に属する魔術の一つ。壊れたものを"なんでも"再形成して戻すことができ、直せないモノは無いとされている。
「私としては創造魔法より再生魔術の発展系説を推したいんだけど、それはそれ、これはこれ。けど、これもちょっと意味わかんないんだけどね」
「どういうこと?」
「じゃあ…そうだな…雨傘君。精神疾患の治療には、何が必要?」
「……メンタルケア?」
「その通り。例えた方が考えやすいね。
一人の妖怪の女の子が、その霊格崩壊を起こしたとする」
黒板に一枚の画像が貼られる。
映っているのは小さい少女。額には二本の角の様な物が生え、周囲は炎に包まれていた。
「何これ」
「実際に起きた時の写真だよ」
結月は前を向く。
「んで、それを治す為にもし、無理矢理継ぎ接ぎしたとて、それは本当に治せているのか?もしかしたら、知らない内に全く別の人格がひょっこり生えてきたりしててね。
もしそうしたら、本当に残ったそいつはその少女と同じって言えるのかな?」
「どういうこと?」
「見た目は同じ。けどそれは本当に本人?創作物では基本的に人格が変われば別人として扱われるよね」
「うん」
「人の精神って、そうやって魔術で簡単に治せる物じゃないと思うの。桐生礼華だって、数週間は廃人みたいになって何もできなかったけど、それは例外の話。普通数週間なんて短期間じゃ治らないと思う。そこら辺は素人だからわからないけどね」
結界を殴りつける。
「さ、終わり終わり。めんどくさいし、詳しいことは専門家に聞いてね」
その言葉が耳に入った時には、景色はいつもの新月庵に戻っていた。
今月から私も新学年です。
なんで卒業式の時に雪降ったんだ?




