追い出され、出会う
幸せだった
母と神使である父はとても優しく、兄にも妹にも恵まれて、誰もが羨むような家庭だったと胸を張って言える。
そう、家庭だったと
「これより、祝福贈呈の儀を始めます」
10歳の頃、大聖堂にて行われた祝福贈呈の儀。
10歳になれば誰でも受けることができるこの儀式、私は神官の前で膝をつき、祈りを捧げる形で手を組む。
「ハルノード嬢の祝福は──────」
「⋯⋯⋯⋯ぇ?」
この時に与えられた祝福が、私、フェリシア・ハルノードの人生を大きく変えた。
─────────────────
「追い出されちゃった⋯⋯」
あれから8年。地獄のような家からとうとう追い出された。
ポツンと家だった場所の目の前に立って風に吹かれる。
ボロボロの服を着て、ボサボサな髪ないかにも訳ありな少女。
大通りに行くと、周りから怪訝な目で見られる。
「あの子って、ハルノード聖爵家の⋯⋯」
「あぁ、あのギフトの⋯⋯」
憐れむような目。嘲笑を含んだ声。
私の居場所は、どこにも無かった。
隠し持っていたお金で馬車を捕まえようと思ったが、馬車を泊めてくれる人は居なかった。
「⋯⋯とりあえず、ここから離れよう」
子供から投げられた石で怪我した箇所を治癒して街を出る。街を出れば草原が広がる。
そよそよと吹く風に心地良さを感じながら歩く。
今は夕暮れ時だ。早くしないと夜になり、魔物が現れてしまう。
とりあえず木がある場所にさえ行くことが出来れば上で眠る事が出来る。
それしても⋯⋯
「遠くない⋯⋯?」
草原の奥にある森に行こうとしていたのだが、思いの外遠かった。それはそれは遠かった。夜になっても着かない程には遠かった。
「念の為結界を張っておこう」
ポゥと身体の周りに淡く弱い光を纏う。これで魔物が近づけば感知する事ができるし、暗いところでも視界が明るくなる。いわゆる暗視の効果だ。
「これで大丈夫だけど⋯⋯私攻撃魔法教えられてないからな⋯⋯襲われたら持久戦になっちゃう」
どうしようかなと考えている、ピリッとした感覚が肌に走る。魔物が近くにいる証拠だ。
「どこっ」
辺りを見回すがそれらしき魔物は見えない。
結界が反応したのだから居るのは確かなのだが⋯⋯。
「ん、あれ?あそこに居るのって⋯⋯」
ふと目に入ったのは、大きな木の下に居る、生き物らしき姿。あれが反応したのだろうか。
「てことは魔物だよね。⋯⋯でも、様子が」
すこし心配になり、木の下へと走る。
「怪我してるっ⋯⋯」
そこに居たのは2匹の魔物。二又に別れた尻尾が特徴的な、猫又だった。
2匹は深めの傷を負っていて、特に黒い猫又は重症だ。白い猫又を守るようにフェリシアを睨んでいる。
「酷い怪我⋯⋯」
「フシャーっ!」
怪我の様子を見ようと手を伸ばすと黒い猫又が毛を逆立てて威嚇する。しかし、怪我が痛むのか威嚇が弱い。
「大丈夫、安心して。危害は加えないから。治せるか確認させて」
そうは言ったものの
「⋯⋯治癒魔法って、魔物に使っても大丈夫なのかな」
今まで魔物に治癒魔法を使った事が無かったから大丈夫なのか分からない。
魔物を嫌う国だった為、そのような文献も見た事がない。
治癒魔法を躊躇っていると、白い猫又がなく。
「にゃ⋯⋯」
「⋯⋯分かった」
白い猫又に頷き、フェリシアは治癒魔法を使う
「ヒール」
優しい温かな光が黒い猫又の怪我を包み込む。
じわじわと怪我は治っていき、光が消えると同時に怪我は跡形もなく無くなっていた。
「良かった⋯⋯。うん、綺麗に治ってるね。じゃあキミも」
そう言って白い猫又にもヒールを使う。黒い猫又よりも怪我が少なく浅い為すぐに治った。
「ふぅ。これで大丈夫だよ」
「にゃ⋯⋯にゃにゃ」
白い猫叉がフェリシアに話しかける。
『お姉さん、私たちの言葉が分かるの?』
可愛らしい声とともに聞こえる言葉。魔物が話すわけのない人語。
そう、フェリシアが授かったギフトは
───『対話』全てのものと対話ができる能力だ
初投稿失礼します。不定期で更新する予定なので、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
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