9:朝食を食べつつ。
朝起きて、二人分のバターロールをトーストして、二人分のスクランブルエッグを作って、二人分のレタスをちぎって…………って、私なにやってんだっけな?
「サラダはレモンドレッシングがいい」
「ありません。オニオンドレッシングで我慢してください」
「む。はい」
――――素直だ。
レオをチラッと見ると、慌てて頭頂部を隠された。……なんでだろうね?
「そうそう、今日なんですけどね」
バターロールの真ん中にナイフを入れ、その切り目にスクランブルエッグを挟みながら話していたら、レオも真似しだした。
「聞いてます?」
「ん」
「私、今日はお休みなんですよね」
バターロールにガブリとかぶりつき、もぐもぐ。
「うん?」
「食材の買い出しついでに、レオに必要そうなものを買ってきますね」
必用なもののリストアップとお金をください、と言いつつバターロールの続きをモグモグ。
「私も行く!」
「却下」
「なぜだ!」
レタスをフォークでドシュッと刺しつつ、顔がまるっきり国王だとツッコミ。
「しまった。ヒゲを剃るんじゃなかった。ちょっと離席する」
レオがバターロールを慌てて食べて、うまっ! とか言いつつ、玄関の外に行った。そして数秒ほどで戻ってきた。
「なにしに出たんです?」
「影にすぐ来るようサインをな」
「ふーん?」
玄関に何かをすることで、簡単なメッセージを伝えるようにしているらしい。
鉢植えを室内に入れたら、王城に一度戻るから迎えに来い。
ドアノッカーに造花を挿したら、超特急で来い。
「鉢植え、雨の日は室内に入れてますけど?」
トレニアは多年草で割と放置してても平気だけど、雨の日は一応室内に入れている。
「ぬあっ!? メッセージを変更せねばならんな」
「まぁ、そのままでもいいですけど」
影さんが迎えに来てくれるんなら、都合がいい。
「酷い!」
そんな話をしながら朝食を終わらせ、お皿洗いをしているときだった。レオが。
私は監視しつつ、お皿拭き。
ドアノッカーが鳴ったのでハイハイと小走りで玄関に向かうと、知らない男の子が立っていた。
ニコッと笑い、ペコリと頭を下げ、家の中に勝手に入ってきた。
「え? ちょ?」
「陛下、お待たせいたしました」
少年がレオの足元で片膝をつき、頭を下げて命令を待つような姿勢だ。
わー、本物っぽい! と思ったけど、そう言えば本物だった。
「変装セットを持って来てくれ。付け髭とかあるといいけど。ある?」
「ございます。十分ほどお待ち下さい」
そう言うと少年は立ち上がり、また私に向かってペコッと頭を下げて、出ていった。
十分で戻るってことは、すぐ近くに待機拠点かなにかあるのかな?