5:本人だった。
レオは自身の正体について、なんか、薄々、色々、諸々、出してはいた。
ヒントは沢山あった。
そもそも、本人が隠す気がないし。
だけど、そんな可能性があるとか思わないじゃん? 国王陛下がなんで路地裏で泥まみれで倒れてんの!?
「家出した」
「……」
私は今日初めて、人は理解不能な言葉を聞くと、思考回路が停止するのだと知った。
――――国王が、家出。
「一応、置き手紙は残したし、先三ヶ月の仕事は済ませたし、顔を出す系の公務もこの時期はない」
「……夜会」
「元々そんなに出席していない」
確かに。
国王陛下は夜会にあまり出られないとか聞いたことがある。
「……………………で?」
「で? で、とは?」
「出ていかないんですか?」
「ん。ここに住む――――いだぁぁぁ!」
つい、出来心で。
国王陛下とわかってても、昨日からのやり取りの流れで頭頂部を全力平手打ちした私は悪くないと思う。
「路頭に迷ってる国王を助けろ!」
「どんな任務ですかそれ! てか、国王が路頭に迷わないでくださいよ!」
「国王だって、一人の男だ。路頭にくらい迷わせろ。私をここで養え!」
「アホかぁぁぁぁぁ!」
「いだっ!? また殴ったな!?」
家出の理由も、路頭に迷っている理由も、全く分からない。
けれど、淑女の一人暮らしの家に居座ろうとかする国王なんて嫌だ。
断固拒否だ!
元いた場所に捨てたい――――。
「おはよう!」
「………………おはよう、ございます」
「朝飯はなんだ?」
「…………………………働かざるもの、食うべからずです」
「ふむ」
――――やっぱ、いるよね?
昨晩、元いた場所に捨てようとしたけれど、全力で拒否られた。物凄くゴネられた。外でも同じように叫ぶぞとか脅された。
考えるのが面倒になって、「うるさい!」と怒鳴って、頭頂部をまたベチコーンと叩いて、ふて寝した。
とりあえず、追い出そうと思って『働かざるもの』を言ってみたら、テーブルの上に手のひらサイズの革袋が置かれた。ズシャッと聞いたこともない音を出して。
「……財布?」
「ん!」
「パンパンに入ってますね?」
「ん!」
「じゃあ――――」
キラキラとした顔で見てくる国王陛下。
お金を出せば、解決するとか思っているな? 世の中、そんなに甘くないと思い知らせてやる!
国王陛下に対して、この思考回路が正解なのかは謎だけども。それとこれとは別だと思いたい。切に。
「――――それ持って、宿屋に行ってください」
城下町なので、高級から低級まで、様々な宿屋がある。あれだけパンパンな財布だ。たしょう高級なところでも、半月は平気だろう。
「ぬあっ!? 鬼か? 鬼なのか!?」
「シバキますよ?」
「もう叩いてるからな!?」
イラッとして、またもや頭頂部に攻撃してしまっていた。
ってか、国王陛下なのに叩かれてていいの?
ってか、国王陛下を叩いてるけど、これ大丈夫なの!?