41:面倒な手順を踏むために。
サンタヴォリ侯爵家での生活は、普通に楽しかった。
王妃になるための教育の合間に、ミランダ夫人から聞くレオの幼い頃の話を聞いたりもした。
乳母の娘として見てきたので、内側にだけ見せる姿だからこその、酷さ。
それはもうやんちゃでやんちゃで大変だったと、拳を握りしめて言われた。
そして、若かりし頃のミランダ夫人は、盛大にキレ散らかしていたらしい。今もキレ散らかしているけども。
「あんのクソガキはね、王妃陛下に渡すからって、王妃陛下が大切にしていた花壇を丸裸にしたり、アホなのよ!」
「なぜに丸裸……」
「全て鉢植えに移し替えて、部屋に持っていったのよ。足の踏み場もないくらいにね」
今は亡きレオのお母様は、レオが幼い頃からずっと臥せっていた。だからこそ、鉢植えにして見せたかったんだろうけど……やりすぎよね?
「極端なのよ。政治はできるけど、中身はアホよ」
「……知ってます」
驚くほど、アホの子なんですよね。と言うと、ミランダ夫人がキラキラとした顔になった。
上手に手綱を捌きなさいよ、と。
そんなこんな楽しい日々が三カ月続いた。
そして、婚約式を行うことに。
「めんどくさい」
「手順は踏みませんと」
国王の格好をしたレオをじっと見つめる。
こうしてると、本当に国王陛下なんだなぁと思う。
十三歳という子どもと大人の間のような年齢の時から、この国を背負い導いてきた人。臣下からも国民からも信頼が厚く、突飛な行いも皆が笑って許してくれる。
トゥロさんは部下は血反吐ものだよ!? とか言っていたけど、わりと楽しそうに笑っている。
「ん? どうした?」
私は朝早くから準備を済ませていたので、着替えているレオを眺めていた。
「カッコイイなぁって。そうやってれば」
「くっ、倒置法。一瞬期待した!」
「五割は褒めてるわよ?」
「ぬぐぅ」
レオの着替えを手伝っていた侍従が苦笑いをしつつ、着替えを進めだした。
「陛下、お時間が押しますので、お願いいたします」
「んー、着る着る」
たぶん、どうせ許可を出すのは自分なのにとか、雑なことを考えていそうなレオ。
返事はしたもののヌルヌルと動いて面倒そうにしているので、ちょっとお尻に火をつけてみようと思った。
「そういえば、婚約式ってキスするんだっけ?」
「いえ、しま――――」
「するっっっっ!」
――――簡単にかかるわね?
「じゃぁ、早く着替えてくださいよ。私けっこう楽しみなんですよね」
「んっ!」
こういう時のレオは、本当にチョロい。
ただ、こういう時の私は、後のことをちゃんと考えられていない……。