33:屋台メシで。
料理が運ばれてきて、さあ食べよう! とフォークを持ったけど、レオはルークさんの後ろ姿を見続けていた。
「レオ、食べないの?」
「あいつ……リタのことが好きだよな?」
「それはないでしょ。彼女さんいるし」
「は? じゃあなぜあんなに親しく話しかけてきた!? なぜ肩に触れた!?」
触れたってか、『よう!』くらいのポンと叩く挨拶で、日常的すぎて気にもしてなかったんだけど。
レオはとても気になるらしい。
「でも、レオも大概じゃない? あの状況で居座ったし。半裸で人の前に出て来たし」
「うぐっ……」
「ほら、食べますよ?」
レオが口を尖らせながら、トナカイのシチューをモグッと食べて、固まった。
そして、物凄く綺麗な所作なのに、物凄い早さでシチューが消えていく。
「何だこれは。美味すぎるだろう……は? どこかのシェフか?」
「え……普通にあのおばさんが作ってますけど?」
おばさんはルークさんのお母さんで、若い頃からここで屋台をやっているのだと言っていた。
昔ながらの気風のいいおばさんで、疲れ果てて食べに行くと、決まって励ましの言葉とちょこっとおまけをしてくれる。
「リタ」
レオが急に真面目な顔になり、前のめりで話しかけてきた。
「もしや、屋台にはこのレベルの店がゴロゴロいるのか?」
通りがかったお店の何カ所か、とてもいい匂いがしていたのが気になってはいたらしい。
そして、ここで食べて、もしやあの店も……となっているよう。
「王都の城下町なだけあって、かなりレベルの高いお店が多いですよ」
「戸建ての店を持とうとはしないのか?」
市場の屋台は、割と簡単に組み立て解体ができるようになっている。お店によってはタイヤを付けて、移動を簡単に出来るようにしているとこも。
戸建ての店舗に関しては、店主によりけりだと思う。ここのおばさんなんかは、市場のこの賑わいが好きなのと、屋台だからこそ経費が抑えられるから、値段を上げずに済むという理由で、ずっとここにお店を構えているらしいし。
「なるほど。それぞれの考えも確かにあるな」
レオは今まで、あまり城下町や平民の生活に入り込んだことがなかったらしい。
視察はしていたものの、変装して入り込んでいる今とは全く違ったのだという。
「もっと色々と見て回るべきだな」
「そですね。国は国民がいるからこそ回っていますし」
「……鋭いな」
なぜかレオにちょっと怖がられてしまった。