32:小悪魔らしい。
それぞれのソファで俯せになってのんびりすごして、お腹が減ってきたねという話になった。
「そろそろ出掛けます?」
「ん!」
レオ希望の屋台飯を食べるために、市場にお出かけ。
久々に付け髭をしたレオを見て、なんだか可笑しくなった。
「いつまで笑っているんだ」
「だって……あはは」
「くそ。次はカツラにして髭なしにする」
レオがちょっといじけながら、前髪をかきあげた。
わざとモサモサにして顔を隠すようにしていたけれど、ちょっと暑かったらしい。
「うん、そうしてください。今の見た目じゃ手を繋げないですし」
「っ――――小悪魔がいる」
このまえ、市場の人たちに親戚の叔父さんだと紹介してしまったから。
レオとの間を半身開けて歩いていたのに、レオがピタッとくっついてくるので、ちょっと押しのけつつ歩いていた。
「リタちゃん、おじさんがまた遊びに来たの? って、なんだかしょんぼりしてるわよ?」
「気にしないでくださーい」
変に目立っていたのか、通りがかった野菜屋のおばさんに声をかけられてしまった。
小声でレオに、叔父さんなんだから距離っ! と文句を言うと、レオがギラリと睨んできた。
「リタが煽ったのにか? 付け髭取って、髪を整えるぞ?」
「いや、最低ですからね?」
「ラブラブしたいっ!」
煩悩まみれなことを言われた。
「もぉっ! 家に帰ったらします――――」
「聞いたぞ。撤廃させないからな? 聞いたからな!?」
グイグイと近寄ってきて、何度も言質を取ってくるレオの顔面を押し返しながら、お昼を食べる予定のお店に向かった。
「リタちゃん! いらっしゃい」
「こんにちは、ルークさん」
「…………また、リタちゃん」
通りがかる店々で名前を呼ばれるたびに、レオがボソボソうるさかった。
貴族は下の名前を呼ぶ際は、ほぼ許可制だからだとは思う。平民にはそういうルールは一切ないけども。
「私はミートボールとライ麦パンね」
「マッシュポテト大盛りでだろ?」
「ええ!」
レオは何にするか聞くと、私のおすすめがいいと言われた。
「じゃあ、トナカイのシチューかなぁ。ここの全然臭みとかなくて食べやすいですよ」
「ん」
あとは二人でつまむ用に、白身魚のフリットも。
注文をして料理を待っている間、レオはなぜか店員のルークさんをじっと見つめていた。