3:偽名は国王と同じレオンハルト。
ドヤ顔をしてここに置けとか曰われても――――。
「嫌ですけど」
「なぜだ!?」
何故かおじさんは驚愕といった表情。
「なんでそんなに驚いたんですか……普通に嫌でしょうよ。知らないおじさんを家に置くとか」
「お兄さん!」
「そこ?」
「君はいくつだ…………というか名前は何だ? 名乗れ」
「人に聞く前に、お前が名乗れぇぇぇ!」
「イタァ!」
イラッときて近所の悪ガキの頭を小突くレベルで、ベチコーンと頭頂部を平手打ちしてしまった。
「レオンハルト。レオでいい」
どうせ偽名だろうけど、国王陛下と同じ名前とかどんだけ尊大なのよ。
「はいはい、レオね。私はリタよ」
「ふむ。で、年齢は?」
「普通、女性にズバッと聞きます?」
「聞くだろ」
聞くのか。貴族と平民では違うのかなぁ? いや、一時期私も貴族的な地位にはいたけど、幼い頃だったしなぁ。
てか、勝手に貴族って確定させてるけども、おじさんって何者?
「二四歳ですよ」
「なんだ。そんなに変わらないじゃないか」
「いや、随分違いますけどね!?」
――――八歳も違うし!
「まあいい。とりあえず、雨も止まないし、服もない。今日はここで寝る」
「いや、何を決定事項のように――――」
「その寒空の下に、放り出すのか?」
レオがウルッとした瞳で見上げてくる。立てば私より背が高いのに、アイロン台に座っているから、頭は私の胸くらいの高さになっている。
「いだぁ!」
ベチコーンと、叩きやすかった。
「いま夏だし!」
「夏も終わりぎわだろうが」
「それでも夏は夏! もぉぉぉ。一晩だけですからね!?」
「……まあいい。感謝しよう」
「上からか!」
レオとギャーギャー言い合いつつ、なし崩しに宿泊を許す羽目になってしまった。
寝床は絶対にベッドは使わせないからね! と言うと、何故かキョトンとされた。
「普通、女性の寝室を奪うなどという下劣なことはしないだろう? ……もしや、平民はするのか?」
人の家に居座ろうとしているヤツが言うセリフなの!? とか思ったものの、素直に二人がけのソファに寝ようとしていたので、グッと黙った。
毛布を差し出すと普通にお礼も言われた。
段々と、貴族と平民の気遣いとか、『普通』というのが分からなくなってきた。
「明日の朝食も楽しみにしているぞ」
寝そべってそんなことをドヤ顔で言われたので、また頭を平手打ちしてしまった。
とりあえず、朝ご飯を食べさせて、ズボンを調達したら出て行ってもらおう。
そんなことを考えつつ、部屋のドアに鍵を掛けてベッドに潜り込んだ。