25:言葉が紡げない。
トゥロさんの仕事部屋での配送用の封筒入れが終わり、仕事も一段落したので今日は早上がりしていいと言われた。
たまにこういう日がある。
初めの頃は戸惑ったけれど、今は素直に喜んで帰ることにしている。
「さて、明日はリタの休日ですね」
「はい」
「しっかり休んで、また明後日、来てくださいね?」
「……っ、はい」
いろいろ見透かされていそう。面倒な経緯の部下で申し訳ない。
ちゃんと明後日も出勤すると約束して、仕事部屋を出た。
夜市が始まる前の時間に市場に立ち寄り、食材を買って家に戻った。
台所に直行して氷冷蔵庫に色々と入れているときだった。誰もいるはずもないリビングのソファからギシリと音が鳴った。
慌てて立ち上がり振り返ると――――。
「っ…………れお?」
「ん」
古い方のソファに寝転んだ、室内着というかほぼ寝間着のレオ。
「なに…………してるの?」
「……家出してきた」
「っ、また?」
「ん。養え」
「馬鹿っ…………ほんと馬鹿」
ボタボタと涙が落ちて、次の言葉が紡げない。
久しぶり。
元気にしてた?
風邪引いてない?
ご飯は食べてる?
お腹へってない?
夜ご飯作るけど?
食べたいものある?
逢いたかった。
好き。
どれも言えなかった。
ただ、近寄ってきて抱き締めてくれたレオの胸に縋り付いて、泣くことしか出来なかった。
古い方のソファに座ったレオの股の間に座って、後ろ抱きにされた。
「――――いや、だから婚約は解消してたから」
「シーツ……」
洗濯場に来てた致したっぽいやつ。
「流石に知らん! あの日は何人もの宿泊客がいた」
「なんで、何も言わずに出てったの?」
朝起きて、絶望した。
もう二度と逢えない人に恋をした。
なんの約束もなくて、なんの繋がりもなくて。
宙ぶらりんの恋心に、何度も心臓を締め付けられた。
「やっと……忘れようって思えてきたのに」
「やっぱり! サウルがそんな空気を出してたんだよ! くそっ。あいつら覚悟しておけよ」
ぎゅむむと抱き締められ、背中に感じるレオの体温。
お腹に回された腕に手を添えて撫でていると、首筋にチリッとした痛みが走った。
「ひあっ!?」
「こんなに可愛い反応をされるんなら、もっと前から付けておけばよかった」
再び首筋にチリリとした痛み。
何をしたのと聞いても、何も教えてくれない。
「噛んだの?」
「っふはは! いや。私のものだという印をつけただけだ」
「レオのもの」
その言葉が嬉しくて、またポタリと涙が落ちてきた。
「泣くな」
「んっ……嬉しくて」
現実は、そうやすやすと物事が進まないのは知っている。実家が没落した時に、思い知ったから。
これはいつか終わりの来る関係。
淡い霞のような関係。
――――だけど、今だけは。
「好き」
「ん。私もだ」
レオの愛を沢山身体に刻んでおきたい。