23:監視対象である。
トゥロさんは、レオの侍従のよう。だって、トゥロさんの助手にサウルくんがいるから。
「年下だが、彼はずいぶんと昔から色々と仕事をしている。良き先輩だよ」
「はい」
「では後を頼んだよ」
トゥロさんがにこやかに手を振って退室したあと、サウルくんと二人きりになってしまった。
「お久しぶりですね、リタ様」
「……はじめまして」
そう言い張ると、サウルくんが苦笑いをした。
確かにそういう体だけど、二人きりの時は別に知らない振りをしなくていいと。
「誰が聞いてるか、わからないから」
「その心配はないんですがね」
「……うん」
それでも他人のふりをしたいのは、逃げ出したいのは、サウルくんの先にレオがいるのがわかってるから。
まだ一ヶ月。
傷は癒えてない。
「なんで?」
「近くで監視をする必要がありますから。同僚になれば早いので」
「そう、だよね……」
そんな理由だよね。
釘なんて刺されなくても何も話さないけど、信用なんてできないよね。
「ここで何をしたらいいの?」
「基本的にはトゥロ様の雑用やこの部屋の管理ですね。各部署への書類届けやお掃除が多めですよ」
そう話していると、部屋の中にあるベルがリンと澄んだ音を出した。
「このベルは執事室です。行きますよ」
「はい」
サウルくんについて少し歩くと、重厚な扉の部屋に着いた。
ノックを三回し、中からの返事を待ち扉を開ける。
「サウル、リタ、この書類を騎士団長と議長室に」
「はい」
サウルくんが書類を受け取り、「行きますよ」と小さな声で言った。
もう仕事は始まっているんだ。経緯がどうであろうと、与えられた仕事はちゃんとやる。
それだけは守りたい。
王城内を歩きながら、サウルくんが目印にしたほうがいいもの、いけないものを教えてくれた。
新しいことを覚えるのは好き。それで頭がいっぱいになるから。余計なことを考えずに済む。
王城内の執務区域で働くようになって半月、その間もレオに会うことはなかった。
洗濯場より始業が遅いけれど、終業は同じくらいだったので、今もあの借家から通っている。
サウルくんは時々ふらっと消えるけど、トゥロさんはニコニコしながら別の仕事だと言う。
きっと、影の仕事。
「彼はよく使いっ走りに取られちゃうからねぇ。もう一人助手が欲しかったんだよ。リタくんは真面目で助かってるよ」
「ありがとうございます」
仕事を任せてもらえること、信頼してもらえること、それは素直に嬉しい。少しだけこの仕事にも愛着を持てそうだった――――。





