22:出世をした。
どうやらレオの婚約者であるお姫様がお国に帰るらしい。昨晩、夜会が開かれたらしく、テーブルクロスなどの洗濯物が大量発生していた。
「あらららら。まぁまぁ……」
「えっ……この紋章って」
そして、その洗濯物たちの中に、何やら初めて致したらしい印の付いたシーツがあり、みんなが騒いでいた。
シーツの端に王族用の紋章があったから。
「でも、陛下と決まったわけじゃないでしょ?」
「でもでも、王城奥の居住区用でしょ?」
「えーっ、でもでもでもぉ」
みんなの噂話を聞きながら無心でシーツを洗っていたら、腕にボタリと水滴が落ちてきた。
いくつも落ちてきて、自分が泣いているのだと気付いた。
家に帰って扉を開く。一瞬だけ期待してしまう。
古い方のソファに、レオが寝転がってないかなって。
婚約者のお姫様が帰ったから、もしかしたら、って。
一週間経っても、一ヶ月経っても、レオは来なかった。
――――これは、末期ね。
恋をした。
恋を自覚するのが遅すぎて、手元には何も残っていない。
レオがいる王城で仕事をするのが辛いなと思った。
唯一の救いは、洗濯場ではレオをみることが一切ないこと。
だから頑張れると思ってた。
「え?」
「だから、大出世よ!」
稀に一般から王城内の使用人に登用される場合がある。希望者が優先なものの、仕事が真面目だとか、何かしらの能力が高いと上司から認められた者とかも。
「希望してませんが」
「貴女を指定して来た侍従の方がいるのよ。自分の補佐にと」
「侍従?」
なぜ自分がと思いつつも、王城の使用人棟入口に行けと言われた。メモには時間と場所が書いてあって、二時間ほどあとだったので、少しだけ仕事をしてから向かった。
みんなにおめでとうと言われたものの、なぜ選ばれたのか一切わからずに、なんとなく気持ち悪さを感じていた。
「やぁ。君がリタだね」
「はい」
バトラー服のようなものを着た壮年の男性がいて、明らかに貴族だとわかった。カーテシーをして挨拶すると、クスリと笑われた。
「堅苦しくなくていいよ。今日からよろしく頼む」
「あのっ」
「うん?」
トゥロと名乗った男性に、なぜ選ばれたのかわからないことや、トゥロさんは誰の侍従なのかと聞いた。
「おや? 知らされてないのかい」
「はい」
「ふむ……まぁ、お考えがあるのだろうね」
とりあえずついてきなさいと言われ、多少疑心暗鬼になりつつも彼の後を歩いた。
どんどんとお城の奥に進んでいく。あまりにも入り組んでいて道を覚えるのがやっとで、周りを見る余裕なんてなかった。
「しばらくは彼について回りなさい。道はそのうち覚えるだろう」
「っ……はい」
トゥロさんの仕事部屋に着き、中にいた少年を紹介された。
「はじめまして、サウルです」
――――サウルくん。