21:ボロボロで。
◇◇◇◇◇
「えっ……どうしたのよ!?」
「好きな人に振られまして……泣いてたらこうなりました」
どうにか泣き止んで、フラフラのボロボロで出勤したら、お局様に本気で心配された。
目蓋はパンパンに腫れてるし、目元も眼球も鼻も真っ赤。
「貴女、好きな人って――――」
「えっ!? まじで? お貴族様の?」
「迎えに来てくれるっていう?」
「お貴族様? 迎え?」
急に同僚たちがワッと寄ってきた。
挨拶や軽い世間話はするものの、そんなに身の上話などしたことない人たち。
なんのことだと話を聞いてみたら、ものすごい勘違いをされていた。
もともと貴族だったのは知られている。雇われた時がその伝手だったから。
ただ、何故か婚約者がいていつか迎えに来てくれるとか、昔なじみの貴族の彼氏がいるとか、なんかそんな噂があったらしい。
「いえ、貴族の繋がりとかなくなってまして、完全に平民なんです」
「振られたって彼も!?」
「っ…………」
レオはそれどころじゃない大物だった。どう誤魔化そうかと焦っていたら、「傷口に塩っ!」とお局様が叫びながら聞いてきた子に拳骨を落としていた。
なんだか知らないけど、ごまかせたみたいでよかった。
「大丈夫? 今日は休んでてもいいのよ?」
「いえ、働かせてください」
しゃかりきに働いて、忘れたい。
早速、洗濯回収用のカートを持ち、騎士棟巡り。
昨日と打って変わって、とても静かだったことから、レオが戻ったんだなとわかった。
じわりと滲み出てくる涙を拭い、洗濯物が入れてある袋を回収して回った。
洗濯場に一度戻って、次は使用人棟。
そこでサウルくんを見かけたので、顔を隠して逃げた。
きっと通常業務に戻れたんだろう。
「ふぅ……」
こぼれ落ちたため息は、夏の終わりの蒸し暑さに混ざって流れていった。
秋になったら忘れられる? 冬になったら?
今はまだ無理な気がするけど、季節が巡っていけば、いつか思い出に変わるのかな。
レオが出ていった二日後、王城はレオの婚約者の来訪に沸いていた。
夜会や茶会が行われ、その洗い物に追われる日々。
忙しさのおかげで、仕事中は心の痛みを忘れることができた。
家に帰ると、リビングには向かい合わせに置かれたソファ。
寝室には二つ並んだベッド。
お風呂上がりは古いソファに座り、寝るときはレオが使っていた方のベッド。
二回というか一回半くらいしか使ってないのに。
――――女々しい。