20:焦るレオンハルト。
□□□□□
正直、リタを襲いたかった。
あまりにも無防備で、死ぬほど可愛かった。
だが、それで手に入る未来は、最悪なものになると知っている。
既成事実も、うまいことやれば、なんとかなるだろうが。リタの経歴を汚すだけ。
私の地位が揺らぐことはない。だからこそ、今じゃない。
正直、踏み止まれたのは奇跡に等しい。
男の本能とはこうも恐ろしいのかと、まざまざと知ることになった。
安心しきった顔で眠っているリタを目の前に、鼻息が粗くなるばかりで眠気が来ない。
こっそり色々と触ったが、高揚感はなく罪悪感で、色々と萎えた。
「まずい。本気で拙い」
真っ暗闇の中、急いで身支度を調え、リタの家を飛び出した。
「サウル! サウル、いないのか!」
サウルの拠点というか実家の扉をガンガンと叩く。
リタの家から数十メートル先がサウルの実家だったことに、有り難みと謎の悔しさを感じるが、今はそれどころではない。
「……はいはぃ…………どぉぞ」
寝ぼけ眼のサウルを急かし、王城に帰ると伝えると、「あれ? 振られたんですか?」と残念そうな顔で言われた。
「違うわ! 早急に手はずを整える」
「なんだ。囲い込むんですね。承知しました」
わりと王城は近い。なので、普通に変装して、普通に歩いて帰るのだが、リタは歩いて帰れと言って追い出さなかったな。優しい。
「陛下っ!」
王城の門に着いた瞬間、騎士たちに四方八方を囲まれて物凄い勢いで、部屋まで護送された。
そして叩き起こされた宰相に、二時間以上も文句を言い続けられた。
「で、ロヴィーサ姫は?」
「明後日の朝に港に到着されます」
向こうの国王とも話し合って婚約を破棄し終えているのに、今更なんだと言うのだ。
そもそもが、あっちもこっちも虫除けの意味での婚約だったじゃないか。まぁ、あっちは国王がそのつもりで、ロヴィーサ姫はちょっとお花畑だが。
内々の話でほぼ知られてないからこそ、成り立っていたが、ここ最近は『陛下の結婚は諦めたほうがいい』という風潮になってきたからこその破棄だった。
「くそ。なんという迷惑な……」
「陛下に言われたくございませんなぁ」
「煩い。一度寝る」
「私も寝ますよ。全くもって、迷惑な方々だ。始業時間は遅らせますからね?」
再び宰相にグチグチと言われた。
否定はできんから聞くが。





