2:思っていたよりお兄さん。
右手にナイフ、左手にフォークを持ってワクワクとした顔のおじさん…………おじさんというかお兄さん(?)に、夜ご飯を出す。
「おぉ、美味そうだな」
「どうも」
おじさんと思っていたけれど、泥を落として髪を整えたら何かちょっと若返った。薄ピンクのワンピースを着た姿がなんだか気持ち悪いけれど、それは仕方がないのでスルーする。
ただ、とてつもなく気になるのは、ヒゲが無かったらそこそこにイケメンの部類に入りそうなのと、どことなく見たことがあるような顔。
王城で見掛けたとか?
でも、私がいるのは裏方だしなぁ?
「ん……む! 美味い! 何だこれは!?」
「それは…………具だくさんのトマトスープです」
貯蔵庫のクズ野菜を経済的に処理するためのスープ。全部細かく切って煮込むだけ。なのに普通に美味しい。
おかずのハンバーグも気に入ったらしい。
「ほぉ。クズ肉もこうすれば食べられるのか。やはり、国民たちはしっかりと自分たちで考えながら生きているな」
――――どこ目線なのおじさん。
「……まだ三二歳だが。ヒゲのせいか? …………まぁ、計画は成功とも言えるか……」
思考が口から漏れ出ていたらしい。やべっ、と思ったけれど、おじさんは気にしていないようだった。
あと、わりかしお兄さんだった。
ぶっちゃけ四十半ばから後半だと思っていたけど、内緒にしとこう。何かブツブツひとりごちてるし。
「さて、ご飯も食べたし、出てってくださいね」
「嫌だ。ノーパンで外に出たくない」
ノーパン…………ワンピース姿なのはいいの?
喉から先に出かけたけど、ぐっと飲み込んだ。
「服が乾いてからでいいですよ」
濡れた服の下にタオルを敷いて、あて布をして熱したコテで押さえたら乾きも早くなるだろう。
アイロン台を準備をして、シャツを乾かしていると、おじさんが手元を覗き込んできて一頻り感心した後に「私もやりたい」と言い出した。
それならと説明しておまかせすることにした。市井で一人で生きるようになって身についた、自分のことは自分でやれ精神。おじさんも自分でやってくれ。
私はお皿洗いでもしよう。
「おおっと、これは大変なことになってしまった」
もんのすごーく棒読みでそんなことを曰いながら、アイロン台に座ってこちらをチラチラと見てくるおじさん。
皿洗いを中断して手を拭いながら近寄ってみると、ズボンの大切なところが黒焦げになって、穴が空きかけていた。
「頑張っていたが、慣れぬ作業だったせいか、こんなことになってしまった。これは大変だ。このままでは私は変質者になってしまう。これはしばらくこの家から出られないな。そうだ、ここに住まうとしよう」
「…………いや、どういう理屈ですか」
「私をここに置け」
――――ストレートに来たな。