18:冗談。
勘違いされたくないと言うレオ。
その意味がわからず、ぽかぁんとしていると、するりと頬を撫でられた。
「婚約者がいる身なら、異性の家に入りこまないし、好きにならない」
――――ん?
「は? え? なんで?」
「あんな姿だったのに拾ってくれて、食べ物も風呂も寝床も与えてくれたんだ。惚れないわけがないだろう」
「いや、チョロすぎますって」
「リタの前に何十人も通り過ぎたし、数人はポケットを漁って行ったぞ」
いやまぁ、裏通りですし。治安はそこまで悪くはないものの、絶対に安全なわけでもないですし。
酔っ払いからお財布を盗る人もいるでしょうね。
「雑巾で顔面拭きましたけど?」
「地味に臭いタオルだと思ってたが……やはりあれだったか」
掃除道具を置いている場所にレオが視線を動かした。バケツに掛けてある雑巾を見てる気がする。はい、あれです、すみません。
「あと、食事って言っても、余ってたパンとかスープとか」
「美味かった」
ふわりと微笑んだレオは、とても温かで柔らかい顔で、心臓がドキリと跳ねた。
でもやっぱりそれだけで好きになられたとか言われても、いまちい信用できないというか実感がないというか、『なんで?』としか思えない。
「この数日、ともに過ごしてきて、なんの気遣いもしてこないリタと過ごすのはとても心地よかった」
「いや! めちゃくちゃ気遣ってましたけど!?」
「んははは。必要以上に、だな。私の立場からそうせざるを得ないのだろうとは思っていたが、予想より雑だったぞ?」
いやまぁ、それは……レオが勝手に居座るから。こっちも開き直るしかなくない?
「傅かれるのも、媚び諂われるのも、強請られるのも、疲れた。リタといると、素の私として過ごすことができる」
国王って大変そうだなぁとは思ってた。
やっぱり精神的にもきついんだろうなぁ。
「で、いつまで頬を撫でてるんですか?」
「…………このままブチュッと」
「殴りますよ?」
「既に手の甲を抓っているだろうが」
いやまだ殴ってはないし。
そういうとこだと言われてキョトンとしていたら、トンと唇に柔らかな何かが触れた。
ゆっくりと離れていくレオの顔。
「好きだ」
「っ――――」
「ほら殴れ。不敬罪で逮捕して王城に連れてく。そんで私の部屋の隣にぶち込む」
「そんなん言われて、誰が殴るかっ!」
「いでっ」
――――あ。
つい。やっちゃった。
レオはケタケタと笑ってるけれど、私は笑い事じゃない。
「冗談だ」
ぽんぽんと頭を撫でられた。苦笑いで。
その表情に、少しだけ寂しさを感じた。