17:急いで家に帰ったら――――。
なんとか仕事を終わらせて、超特急で家に戻った。
本気で走った。
息も絶え絶えで家に飛び込み、内鍵をしっかり閉めてリビングに入ると――――。
「え……なにやってんの?」
古いソファの足元でサウルが床に這いつくばっていた。東の国の伝統的謝罪スタイル『土下座』で。
レオはソレを完全無視して、ソファに寝転がり本を読んでいる。
「む、帰ったか! 腹が減った」
「いや、サウルくん――――」
「あ? そんなものはこの世にいない」
「「っ……」」
抑えられてはいるものの、男性の怒りを帯びた低い声は、少し怖かった。
それはサウルくんも一緒らしく、床でビクリと震えた。
「レオ……そういう態度とか雰囲気とか出すんなら、出て行って」
震える手足を抑え込んで、ゆっくりと伝えた。
レオの仕事が大変なのは、表面的にしか分からないけれど、人肌寂しかったりするのはわかる。
でもそれとこれとは違う。
ここは私の家だ。
仕事を終えて、身も心も休める場所だ。
それを他人に脅かされたくない。
人の命を左右できる人が、その権力を使う瞬間を見せられたくない……二度と。
「だから、出て行って」
「………………サウル、少し時間をくれ。明日の朝に返事する」
「っ、はい! 感謝いたします」
サウルくんが真っ青な顔のまま私にも臣下の礼をして、家から出て行った。
レオはまだソファに座ったままだ。
「リタ、少し話そう」
「……はい」
レオから出ているのは完全に『国王陛下』のオーラだった。
向かい側のソファに座り、居住まいを正す。
「色々と迷惑を掛けてすまなかった」
「出て行くんですか?」
「……ん。今回ばかりは戻らざるを得ないしな」
困ったような寂しそうな顔で、そっちに座ってもいいかと聞かれて、コクリと頷いてしまった。
隣に座ったレオからじんわりと伝わってくる体温に、鼓動が妙に早くなっていく。
ゆっくりとこちらに伸びてくるレオの右手。
「婚約者様が来られるそうですよ」
「っ! 知っていたのか」
私の頬に触れる直前にそう伝えると、ビタリと止まった。
「ええ。今日知りました。なので、出て行ってください」
レオの右手をそっと押し退けようとしたけれど、反対に押し退けられ、頬に触れられてしまった。
「全てを理解して欲しいとは言わない。が、勘違いはされたくない」
「何の話ですか?」
「アイツとの婚約は解消している」
――――へ?





