16:大混乱している。
一言で言うなら、大混乱。
「――――探せ!」
騎士様の居住区で洗濯物の回収をしていたら、大勢の騎士様たちが血相を変えて何やら探しものをしていた。
すれ違うたびに止まってカーテシーしなければいけないので、めちゃくちゃ大変だった。
「え? 騎士棟も?」
「はい。王城もですか?」
「ええ……噂によると、国王陛下が消えたらしいのよね」
「ゔぇっ!?」
びっくりし過ぎて変な声が出てしまった。
お局様に国王陛下のファンだったの? と聞かれたが、そこは違うと否定はした。
「国王陛下が消えたって……あれ、国です、国は大丈夫なんですかね?」
「んー。陛下って基本的に休みとかないらしくてね、ものすごく働いた後とかに『疲れた! 何日か休む!』って急に別荘とかに逃走するんですって」
「…………へぇ」
なんでか、脳内でリアルにそのシーンが再生された。
お局様いわく、いつもなら数日でちゃんと戻るし、居場所もしっかりと伝えてから逃げるそう。レオ、『逃げる』って言われてるけど、国王としての威厳大丈夫?
「だけど今回は違ううえに、予期せぬ事態らしくて」
「へ?」
「誰も居場所を知らないらしいのよ」
「っ…………へぇ、そうなんですか」
「し・か・も!」
お局様がズイッと近づいて来て小声で教えてくれた。
「陛下の婚約者である姫様が来るらしいのよ、この国に」
「………こっ、婚約者!?」
「あら知らないの?」
レオは婚約自体を拒否しているらしいけれど、幼い頃から結ばれており、相手が解消を拒否しているので、そのまま継続して婚約者となっているらしい。
「ドロドロじゃないですか………」
「そうなのよ! だから逃げたんじゃって言われてるのよ。さすがに国賓を放置するわけにも、逃走がバレるわけにもいかないから、みんな躍起になって探してるんですってよ」
ちょっとゲボが出そうになった。
新しいソファだ、新しいベッドだ、ってルンルンしている段じゃなかった。
まずいまずいまずいまずい。
なにがまずいって、家にいてゴロゴロしてるおっさん、行方不明で大捜索されている国王じゃん?
家にいるってバレたら?
普通に国家反逆罪とかにならない?
この国ではセーフだったとしても、相手国の姫様からしたら、婚約者を寝取った『卑しい女』認定じゃないの?
特になんの感情もないからこそ、ベッドを同室に置いたわけで。
でも外から見たら、ほぼ同衾扱いじゃない?
――――私、殺される!