10:名案と迷案。
十分して、本当に少年が戻ってきた。
「陛下、どうぞ」
「ん。助かった」
私は一ミリも助かってないというか、余計なお世話だこの野郎な気分だけど、少年のせいじゃないから我慢。
それよりも気になっていることがある。
少年が拠点に戻り荷物を用意して、ここに戻ってくるまでで十分。
そもそも、少年に買い出しして来てもらえばいいんじゃないの?
てか、レオと少年が一緒に城下町暮らしすれば解決じゃない?
そう率直に聞いた私、悪くないと思うのよ。
「…………」
「良くないです?」
「……良くない。国民たちの生活を実際に見る必要がある」
キリッとした表情で言われたけれど、たぶん遊びに出掛けたいだけだと思う。
「そもそもだ、サウルと暮らしても楽しくない!」
誰よ、サウルって……と思ったけど、ビシーッと少年を指差しているから、彼のことなんだろうな。
指差された少年はというと、酷く迷惑そうな顔をしていた。まって、それどっちに対する表情なの?
「そうだ! サウルもここに住めばいい――――」
「陛下、お言葉を遮って申し訳ございません。嫌です」
――――ハッキリ言った!
レオってもしや、王城でも扱い雑なの? いやでも、少年が来たときはちゃんと傅かれてたし。今も一応は臣下の礼をしてもらえてるし、まぁまぁ慕われてるのよね?
「ちなみに、レオがサウルくんのいるとこ――――」
「リタ様、お言葉を遮って申し訳ございません。嫌です」
レオと同じ扱いをされた。
あと、これはレオが嫌われているってことでいいのよね? ね?
仕方なしに、付け髭レオとお出かけ。
髪の毛をわざとボサボサにして、鼻下にモサモサの付け髭。そして、服装はレオを拾ったときの服。
一緒に歩くのがちょっと恥ずかしい。あと、買い物に来た市場で「誰? その人」ってずっと聞かれるのが面倒。
とりあえず全員に、『親戚のおじさん』と答えた。
「おにいさん!」
「――――って言ってるけど?」
「気のせいです」
市場の馴染みの店で野菜を買っていると、レオが興味深そうに赤黒いというか赤紫というかの、丸い果物を見つめていた。
「これはなんだ?」
「ああ、マンゴスチンだよ。たまーに南国の行商から入ってくるのさ」
「ほぅ」
チラッとこっちを見てくるので、食べてみたいんだろうな。ひとつください、とおばちゃんに伝えると、レオがニコニコとしていた。
「食べたことないんですか?」
珍しくはあるけれど、手に入らないわけでもなく、しかも結構安価な果物だ。
レオは「たぶんない」というなんとも雑な返事だった。
ふと思ったのは、すでに剥かれて提供される立場の人だということ。珍しめの果物や野菜は原型を知らないパターンがあるのかもしれない。