1:おじさんを拾った。
――――聞いてない!
まじで、こんなことになるなんて、聞いてない。
王城で朝から夕方まで、洗濯室の仕事。
実家が没落したものの、知り合いからの紹介でどうにか就けた、王城での仕事だった。
おかげで給金は市井よりいいものの、クッタクタではある。
クッタクタなのに、雨にまで降られて、雨具を被って小走りで家に帰っている途中だった――――。
城下町の定食屋の裏、私の住む借家の玄関から五メートルほどの場所。
ボロボロの服を着た焦げ茶色の髪とヒゲがモサモサなおじさんが、地面に倒れ込んで土砂降りの雨に打たれていた。
あまりにもな風貌にどうしようかと悩んだものの、泥まみれの顔を上げて「腹……減った…………」という呟きを零して気絶した姿を見て………………拾った。
拾ってしまった。
おじさんを!
顔を雑巾で拭い――だって、泥まみれだったから――、朝食の食べ残しなロールパンをそっと口元に差し出してみた。
「ふんむ! …………うまい。空腹だとこんなにも美味いのか、このパンは……」
なかなかに失礼なおじさんだ。
雨が止んだら出ていけと言うと、寒くて風邪を引きそうだとか、風呂に入りたいとか曰いだした。
泥まみれで家の中に居座られるのも嫌だったので、仕方なくお風呂を貸した。
体格はそこそこムキっとしているものの、王城で見る騎士様ほどではなかったので、私の服の一番ダボッとした寝巻きのワンピースを置いておいた。たぶん、入るだろう。
男物の服なんて持ってないから、泥まみれの服が乾くまでそれで我慢して欲しい。
――――何やってんだろ私。
王城の洗濯室でバタバタと働いて、家に帰ってまた洗濯。
ボロボロに見えていた服は、泥を落とすと思ったよりも質のいいものだった。凄くシンプルで平民服に寄せた作りだけど、高級さを隠せていない。
おじさんの尊大な話し方からして、もしかしたらお忍びで城下町を散策していた貴族なのかもしれない。
「おい、これは私の服か?」
「ぎぃえぁぁぁぁぁ!」
焦げ茶色のモサッとした髪の毛とヒゲモサおじさんが水を滴らせながらワンピース片手に、素っ裸で出てきた。腰にタオルは巻いているから、かろうじてモノは見えていなかったけども。
「うるさい。で、これは私が着るものなのか?」
「…………はい、そうです」
何故に、ピシャリと怒られたの?
「ふむ。まぁ、いいか」
いいのなら何故に素っ裸で出てきたの……。
色々と文句を言いたいけれど、とりあえず服を着てほしい。だから、何も言わないことにした。
水浸しにした床は後で拭かせよう。
今作も、日3回更新予定です。