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カエルになりたかったお姫さま

作者: 國居

 ラブリオーラ王国の第ニ王女ブルニルダは、幸せなお姫様でした。

 「オギャーッ」とこの世に生まれ落ちた瞬間に、婚約が決まったからです。

 相手は、二つ年上のダッラピッコラ公爵家の令息オルランドです。

 当たり前ですが、王家と公爵家の結びつきを深めるための政略結婚です。


 ブルニルダが十六歳になる日まで、死神に目をつけられず、二人が共に生き延びたなら結婚させよう、ということで両家の話はまとまりました。

 もちろん、生まれたばかりのブルニルダの了解などは得ずに――。


 *


「ねえ、マヤ。わたくしとオルランドは、本当に七日後に結婚するのかしら?」

「ブルニルダ様は、六日後に十六歳になられるのですから、このままならそうなりますね」


 ブルニルダの腰まで届く金色の髪を、丁寧にくしけずりながらマヤは答えました。

 ダッラピッコラ公爵家へ降嫁するブルニルダに、王宮勤めの侍女であるマヤは、ついていかないことになっていました。

 極細の金糸のような美しいこの髪に触れられるのも、あとわずかです。


「このままならね――。ということは、つまり、わたくしが病に倒れたり、いなくなったりしたら、そうはならないわけよね」

「何をおっしゃるのですか、ブルニルダ様! 病に倒れるだの、いなくなるだの、そんな縁起でもない!」

「いよいよとなれば、そういうことも考えなくては――。だって、わたくし、オルランドと結婚したくないのですもの」

「え?」


 マヤがブルニルダ付きの侍女になって、三年が経ちます。

 この三年間、月一回、王宮の庭の四阿(あずまや)で開かれるオルランドとブルニルダのお茶会に、マヤは毎回付き添っていました。

 お茶の準備がすんだ後は、少し離れた場所からそっと二人を見守ってきました。

 二人はいつも微笑みながら、楽しそうに語り合っていました。

 マヤから見ても、若く美しい二人は、たいそう似合いのひと組でした。


 それなのに、結婚したくないだなんて、マヤにはブルニルダの気持ちがわかりません。

 でも、一つだけ思いついたことがありました。


「ブルニルダ様、それは、いわゆるマリッジブルーというものかもしれませんね」

「マリッジブルー?」

「五年前に嫁いだわたしの姉から聞いたのですが、結婚する日が近づくと、新しい暮らしや結婚式への不安から、気持ちが落ち込んでしまうことがあるとか――。それを、マリッジブルーと呼ぶのだそうですよ」

「マリッジブルーねぇ……」


 王女であるブルニルダは、王宮の外へ出ることなどめったにありません。

 避暑や避寒のために、年に数度王家の離宮に滞在することはありましたが、それ以外では旅をすることもなければ、よその家に泊まったこともなかったのです。


 ですから、ブルニルダは、王宮を出て公爵家に行き、そこで暮らすことをずっと楽しみにしていました。

 そして、宝石がちりばめられた豪華な衣装を身にまとい、たくさんの人に囲まれて、神殿で婚姻の儀式に臨むことにもわくわくしていました。

 結婚に対して、不安を抱えたり、気持ちが落ち込んだりするということは、いっさいなかったのです。

 マヤが言う、マリッジブルーというものが、自分の身に起きているとは思えませんでした。


「それとは、ちょっと違う気がするわ。実はね――、先月のお茶会でオルランドから、『愛しいあなたと、来月には結婚できるのですね。わたしは、今とても幸せです』と言われたの」

「まあ! それは、ようございました。オルランド様は、義務ではなくブルニルダ様への愛を拠り所として、結婚されようとしていらっしゃるのですね。素晴らしいことですわ!」


 政略結婚には、愛など必要ありません。

 もちろん、結婚した後、夫婦の間に愛情が芽生えることはありましたが、オルランドとブルニルダのように、結婚前に何度も顔を合わせ、親交を深めた上で結婚するということはまれでした。

 結婚式の日まで、相手には一度も合わないということさえありました。


 愛がある結婚であることを、ブルニルダに堂々と伝えたオルランドの誠実さに、マヤは感動すら覚えていました。

 政略結婚であっても、ブルニルダは幸せになると確信することができました。

 それなのに、当のブルニルダは、鏡の中で眉をひそめています。


「オルランドは、背が高く美しい顔立ちをしている上、歌やダンスも上手だし、博士たちと話し合いができるほど賢い頭をお持ちの本当に素晴らしい人なの」

「さようでございます。あのような方に愛されるなんて、なんと幸運なことでしょう!」

「ええ、そうよね……。世の中には、わたくしより美しい人も、わたくしより歌やダンスが上手い人も、わたくしより賢い人もたくさんいるわ。それなのに、どうしてわたくしがオルランドと結婚しなくちゃいけないのかしら? あんなに素敵な人は、わたくしなんかと結婚するべきじゃないわ!」


 えっ? えっ! ええ~~っ!?

 ブルニルダの話を聞いた途端、マヤは激しいめまいに襲われました。

 マーブリングのインクのようになったマヤの脳内に、一つの用語が浮かび上がりました。


 ―― 蛙・化・現・象!



 なぜ、マヤはそんな用語を突然思いついたのでしょうか?

 答えは簡単です。マヤが、異世界からの転生者だったからです。

 マヤが、異世界で生きていた頃、「蛙化現象」という用語が話題になっていました。

 その記憶を持ったまま、マヤは転生してきました。


(ブルニルダ様は、オルランド様が大好きで、お二人で会うことをとても楽しみにしていらっしゃった。いつだって、自分が思いを寄せる人が、最高の男性であることを誇りに思っていらっしゃった。ところが、憧れの人であるオルランド様が、特別優れたところのない自分を愛していると知った途端、急に変な人に思えてしまったのだわ! これぞ、蛙化現象!)


 もちろん、ブルニルダだって十分に美しく、それなりに賢く、歌やダンスもそこそこに上手でした。周囲から見れば、二人は、これ以上ない最高のカップルと思えました。

 でも、王女でありながら、自分自身を過小に評価しすぎる謙虚なブルニルダは、自分のような取り柄のない者と結婚しようとしているオルランドを許せなかったのでした。


「マヤ、病に倒れることも、いなくなることもできないのなら、わたくしは、せめて別のものになりたいわ。オルランドが、結婚を諦めてくれるような姿になることはできないかしら?」

「そ、そんなことを、お、おっしゃられましても……」


 ただの侍女でしかないマヤは、困ってしまいました。

 でも、城内には、密かにブルニルダのことを慕う騎士や侍従がいないとも限りません。

 自分が何も手を打たなかったために、思い詰めたブルニルダが、そのような者と駆け落ちでもしてしまったら大変です。


 ブルニルダの寝支度を整え、彼女を寝台に横たわらせると、マヤは静かに部屋を出ました。明日の朝、ブルニルダがまだ寝ているうちに町へ出てみようと思っていました。


 以前、王宮の掃除をする者達が、声を潜めて話すのを聞いたことがありました。

 王都の「あいまい横町」と呼ばれる一画に、様々な薬を調合してくれる異国の薬師が店を営んでいると――。

 そこならば、ブルニルダが望むような効果を示す薬を手に入れることができるかもしれません。


 翌朝、変装しひっそり王宮を出たマヤは、「あいまい横町」へ向かいました。目当ての店は、簡単に見つかりました。

 店には、こんな店にぴったりの小さな黒衣の老婆が一人座っていました。

 老婆は、マヤを見ると、しわだらけの顔をにっこりさせながら言いました。


「いらっしゃいまし。お待ちしておりましたよ。お望みの薬は、すでに用意してございます」

「えっ! わたしが来ることや何を欲しがっているかを、あなたはご存じなのですか?」

「ホッホッホッ! ここは、そういう店でございますから」


 マヤは、老婆から薬を受け取り、思っていたよりもずっと少ない代金を払い、急いで店を出ました。そして、王宮へ戻るやいなや目覚めたばかりのブルニルダに、薬のことを話しました。


「まあ、それでは、この薬を飲めば、わたくしは、オルランドが結婚を諦めてくれるような姿になれるのね?」

「それは、どうかわかりません……。ただ、老婆は、『この薬さえ飲めば、姫の願いは叶い、万事上手くいきますよ』と申しておりました。老婆が、不思議な力を持っているのは間違いございません。あとは、ブルニルダ様がお決めになることです」

「わたくしの心は決まっているわ。マヤ、お水をちょうだい。今すぐ薬を飲みます!」

「ブルニルダ様……」


 小さな薬包を広げると、ブルニルダはためらいもせず入っていた丸薬を口に放り込み、マヤが渡したカップの水で喉の奥まで流し込みました。

 その後、フウッと大きな溜息をつくと、再び寝台に横たわり、あっというまに眠りについてしまいました。

 マヤは、ブルニルダの身に起こることを何一つ見逃すまいと、寝台のそばでじっとその寝姿を見つめていました。


 *


 その日の夕刻、一日中部屋から出てこなかったブルニルダを案じた王様とお妃様が、部屋を訪ねてきました。

 彼女に付き添っていたマヤは、「今朝ブルニルダ様を起こしに来たら、このような姿になっていました」と言って、寝台の上掛けをめくりました。

 寝台の上には、手のひらに載るほどの大きさのカエルが座っていました。


「な、なんと!? こ、これが、ブ、ブルニルダだと申すのか!?」

「アア~~ッ!!」


 王様は、その場に座り込んでしまいました。

 王妃様は、目を回し倒れてしまいました。

 廊下に控えていた侍従や衛士たちが、何かあったのかと騒ぎだしました。

 しかし、彼らは姫の部屋に許可なく入ることはできません。

 すぐにおのれを取り戻した王様は、この異常な出来事を誰にも知られたくなかったので、急いで立ち上がると廊下にいた人々に、心配することはないので静かに待つようにと命じました。


 王様は、寝台のそばに戻ってくると、マヤにこの珍事についての説明を求めました。


「朝、お起こししようと上掛けをめくると、寝台の上には夜着が広げられていて、その上にこのカエルがおりました。お部屋の中をくまなく探しましたが、ブルニルダ様はどこにもおられませんでした。夜の間に部屋を出た様子もございません。

理由はわかりませんが、おいたわしいことにブルニルダ様は、このカエルに姿を変えてしまわれたと考えるべきなのではないかと……。」

「ブ、ブルニルダよ! なにゆえ、そなたが、このような目に合わねばならないのだ!?」

「オルランドとの婚儀が控えているというのに、なぜ、こんなことに!?」


 王様も王妃様も、悲痛な面持ちでカエルに問いかけましたが、カエルは、「ケコッ」と鳴くばかりでした。

 王家の姫がカエルになるなど、あってはならないことでした。「神罰」「呪い」など、王家の存続に関わるような噂が流れては大変です。このことは、けっして公にすべきではないと二人は考えました。


 しかし、婚約者であるオルランドやダッラピッコラ公爵家には、本当のことを知らせ、協力を仰ぐべきであろうと王様は思いました。

 彼らの力や知恵も借り、なんとしてもブルニルダを元の姿に戻さねばなりません。

 翌朝、王様は、婚儀の打ち合わせを理由に、オルランドとダッラピッコラ公爵夫妻を王宮へ呼び出すことにしました。


 王宮へ駆けつけた公爵一家は、謁見の間に向かおうとしましたが、宰相に呼び止められて、ブルニルダの居室へ連れて行かれました。

 王様は、最も信頼がおける家臣である宰相にだけは、真実を伝えていたのです。


「ブ、ブルニルダ様! なぜ、あなた様が、このような目に合わねばならないのでしょうか!?」

「オルランドとの婚儀が控えておりますのに、なにゆえ、こんなことに!?」


 王様から説明を受けた公爵夫妻の反応は、王様や王妃様と同じようなものでした。

 しかし、オルランドだけは、誰もが思いもしなかった言葉を口にしました。

 彼は、カエルをうっとりと見つめながら言ったのです。


「ああ、ブルニルダ姫! なんと可愛らしい! あなたは、カエルになっても、本当に愛らしくていらっしゃる!」


 マヤも含め、その場にいたオルランド以外の全員は、ぽろんとこぼれ落ちるのではないかと思われるほど大きく目を見開きました。


 オルランドは、カエルが座る寝台の前にひざまずき、凜々しい声で言いました。


「ブルニルダ姫、あなたは、いつもわたしを励まし、褒め称え、愛しんでくださいました。わたしは、あなたに相応しい婚約者にならねばと思い、あらゆることで一流になるべく努力を重ねてきたのです。

ですから、あなたがどのような姿になろうとも、それがあなたである限り、わたしは生涯慈しみ慕い続けて参ります。何も心配はいりません! どうか、予定どおりわたしと結婚してください!」


 今度は、マヤを除く五人が、白目をむいてその場にくずおれてしまいました。

 恋する者の眼差しで、カエルを撫でようとするオルランドを、マヤは慌てておしとどめました。


「オルランド様、触れてはなりません! ブルニルダ様とはいえ、カエルはカエルなのです。皮膚には、毒があるかもしれません」

「おおっ! なんと悲しい! ブルニルダ姫に、触れることも叶わぬとは!」


 オルランドは、懐から取り出した手巾で、そっと涙をぬぐいました。

 倒れた五人を介抱しながら、マヤは、ひっそり小さな溜息をもらしました。



 *


 それからまもなく、ブルニルダが病の床にあることが公にされ、内外の要人を招いての盛大な婚儀や祝宴は、延期されることが国民に伝えられました。

 ただし、ブルニルダの快癒に繋がればということで、ごく内輪で婚儀だけは執り行うことになりました。


 オルランドは、毎日のように王宮にやって来ました。

 そして、王様や王妃様に会い、婚儀の打ち合わせをすすめました。

 すでに用意してあった結婚指輪は、金色のリボンを通して、カエルの首にかけることにしました。国一番のレース職人が編み上げたレースの手巾で、ベールのようにカエルの体を包み、花嫁衣装にすることも決まりました。


 その一方で、広い人脈を持つダッラピッコラ公爵は、高名な学者魔術師を屋敷に呼んで、何者かに変身した人間を元に戻す方法を探っていました。

 しかし、ブルニルダを人間に戻すことができないまま、時は過ぎていきました。


 そして、とうとう神殿での婚儀の日がやってきました。

 密やかに行いたいという王様の希望で、婚儀は、夜おこなわれることになりました。

 神殿の飾り付けも、マヤともう一人の侍女が花を運んできて、簡単にすませました。

 参列者は、王様と王妃様、公爵夫妻、そして、王太子である第一王女とその夫の六名でした。


 王様からことの次第を知らされた第一王女と夫は、最初はたいそう驚きました。

 しかし、二人ともブルニルダのことを心から愛していたので、喜んで婚儀への参列を承諾しました。

 神殿の老神官も、「長生きはするものでございますな」と言って、ほかの神官は婚儀に関わらせないことを約束し、快く進行役を引き受けました。


 日没と共に、いよいよ婚儀が始まりました。

 マヤは、レースの手巾に包まれたカエルを金の盆に載せ、拝殿の入り口に控えていました。月もない夜の拝殿の奥では、大きなろうそくがただ一つ点されていました。

 その前には、祭儀用の衣装を身につけた老神官と白い礼服を颯爽と着こなしたオルランドが、ブルニルダの到着を今か今かと待っていました。

 マヤは、カエルを驚かさないように、ゆっくりと拝殿の通路を進んでいきました。

 そして、黄金の盆をオルランドの横に差し出しながら、「えいっ!」と言って伸び上がると、ろうそくの灯りを吹き消してしまいました。


 突然あたりが真っ暗になり、拝殿内は騒然としました。

 しかし、そこにいたのは、ちょっとしたことでは動じないような方々ばかりだったので、たちまち落ち着きを取り戻すと、神官が熾火入れを探し、もう一度ろうそくに灯をともすのを静かに待っていました。


 しばらくすると、拝殿横の出入り口に突然小さな光が点りました。

 皆は、いっせいにその光に目を向けました。

 光はゆっくりと移動してきました。

 そして、気づけば、無数の宝石を縫い付けた豪華な花嫁衣装をまとった女性が、手燭を持ってオルランドの隣に立っていました。


「お待たせして申し訳ありません、オルランド! わたくしです、ブルニルダです!」


 女性の正体は、ブルニルダでした。彼女は、大好きなオルランドの晴れ姿を、もっとよく見ようとするかのように手燭を掲げ、彼に向かってにっこりと微笑みました。


 *


 あの日、薬を飲んでぐっすり眠ったブルニルダは、午後の柔らかな日差しを浴びながらすっきりと目覚めました。

 その顔は、前よりも少しだけ大人びて、美しくなっていました。

 両の眼は、知的に耀き、前よりも少しだけ賢くなったようでした。

 マヤを呼ぶ声や手の仕草は、ゆったりと優雅で、前よりも少しだけ歌やダンスが上手になったかもしれないと思われました。


 何よりも大きく変わったのは、ブルニルダの態度でした。前よりも何倍も自分に自信をもち、一国の王女らしく堂々としているようにマヤには見えました。


「ねえ、マヤ。わたくし、なんだか生まれ変わったみたいな気がするの。わたくしは、あの誰よりも麗しく、賢く、優雅なオルランドと結婚するのよね? 世界一素敵な殿方と結婚できるのは、わたくしなのよね?」


 あの薬を飲むことで、本当に生まれ変わったのかもしれない――と、マヤは思いました。

 物憂げな顔でオルランドとの結婚をためらっていたブルニルダは、もうそこにはいませんでした。期待と希望に胸を膨らませ、愛する人との結婚を待ち望む王女が、マヤの前に座っていました。これなら、二度と「蛙化現象」に振り回されることもないでしょう。


(ああ、良かった! ブルニルダ様の願いが叶ったかどうかはともかく、万事上手くいきそうなのは確かだわ。これで無事に婚儀を執り行うことができる!)


 マヤは、謎の薬がもたらした効果に満足していました。

 あとは婚儀に向けてブルニルダを磨き上げ、あらゆる人から褒め称えられる最高の花嫁に仕上げるだけです。

 ところが、その後、ブルニルダがおかしなことを言い出しました。


「わたくしは、以前と少し変わってしまったわ。オルランドは、変わってしまったわたくしを、これまでと同じように愛してくれるかしら? わたくしがどんなふうに変わっても、あの人はわたくしと結婚しようと思うかしら? マヤ、彼の気持ちを確かめる何かいい方法はない?」


 ブルニルダは、まだ十五歳です。身も心も、これからどんどん成長し変化していくことでしょう。いつまでも、今のブルニルダのままでいるわけではありません。

 女性がそうして変わっていくことを嫌がる男もおりますが、オルランドはそういう人物ではないと、マヤは信じていました。

 しばらく考えた後、マヤはブルニルダの耳元に唇を寄せて言いました。


「ブルニルダ様、わたしは、これから庭でカエルを一匹捕まえてまいります。それを――」


 マヤの計画を聞いたブルニルダは、にっこり笑って小さくうなずきました。

 そして、ブルニルダは、部屋にマヤ以外の者がいるときは、大きな衣装箪笥の中に隠れることにしました。


 *



「ブルニルダ! 人間の姿に戻れたのですね!?」

「ええ、でも、またカエルになってしまうかもしれません。いいえ、もっと醜いものやおぞましいものに変わるかもしれません! それでも、あなたはわたくしを愛してくださいますか?」


 オルランドは、ブルニルダが持っていた手燭の灯りを吹き消して言いました。


「こうしていれば、あなたがどんな姿をしているかはわかりません。でも、わたしは、あなたを確かに愛しておりますよ!」

「ありがとう、オルランド! わたくしも、あなたを愛しています。これからも、どうぞよろしくお願いします!」


 暗闇の中で、その後二人がどうしたかは、ブルニルダの足元に座りこんでいたマヤだけが知っています。






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― 新着の感想 ―
[良い点] ああ~なんて素敵な溺愛ストーリーなの~♡(´▽`*) オルランドさん満点ですb [気になる点] でもやっぱり、女は男の愛を確かめるのよね(笑) [一言] マヤ:「実行犯は私ですから……」
[良い点] オルランドの強火っぷり…! なにはともあれハピエンの舞ですー!(鳥獣戯画の蛙がわらわら出てきて舞い踊り) [気になる点] 魔女の薬は結局なんだったんでしょう。 ちょっぴり成長して、ちょっぴ…
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