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北への道のり

 あの後、シナリアとセブゼンに説明し、新たに魔力を持ったお茶出しとして伴ってきた三人の侍女とサラを含めシナリアの質問が止まらず、このままでは日が暮れる直前まで話し合うと、理解したジラハルは行動を起こす。


 侍女達に対応を任せた時間を利用して、来客を放置してサウムと共に王城へ入り王へと接見を行い、『北のゴブリンとの比較研究』という建前で北のホワイナル領地へと向かう事ができるように手配していた。


 その際に、『食糧は自身の分以上の持ち出しは許さない』そう宰相に告げられたが、ジラハルは眉ひとつ動かさず無知の王子を演じのけていた。『同じ王国内、どこでも食糧はあるのだろう? なぜそんな事を言うのだ?』と逆に問いかけ、最終的に『ゴブリンの食事が合うわけがないか……わかった、コチラで消費する分だけしか持ち出さない』と理解をしたと誤認させている。


 そもそも、食糧は片道一月分、往復で二月分しか持ち出す予定は無かった。なにしろ、例え半年分持ち出そうが既に飢饉を迎えている北の領地にとっては焼石に水なのだから。


 やり取りを終えて、別宮へと入りサウムに用意する物を言付けジラハルは今なお魔法談義に花を咲かせているシナリアの待つ応接室へと戻るのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 門兵に止められ、総数にして十五台の馬車と荷馬車が王都の正門前広場に停車した。しばらくすると、肥え太った身なりの良い男が騎乗しジラハルの馬車横へと駆けつけ、馬から降り、馬車の紋章を確認してすぐに馬車の扉をノックし声をかけてくる。


「これは、ジラハル殿下でしたか。どちらへとお出かけになられるのですか?」


 声を掛けてきたのはボルテ・キャナイ子爵であった。


「ふむ、久しいなキャナイ子爵よ。門兵の真似事か?」


「はははっ、ジラハル殿下、わたしめの仕事は門兵のまとめ役ですぞ。何やら大量の荷を積んだ商隊が居ると知らせを受け駆けつけたまでです」


 問いに対し、肥え太った腹を揺らしながら首を振り、ジラハルの乗る馬車の後ろへ連なるに馬車へと目を向けながら答える。


「そうか、ご苦労な事だ。なに、北へとゴブリン研究に行く為の餌を積んであるのでな」


「ほう、北……ホワイナル領へと向かわれるのですか。ソレにゴブリンの餌と……荷を改めさせて貰っても?」


「構わんよ。所詮はゴブリンの餌。好きにするといい」


 現在、戦争中と言うこともあり、門兵も含め張り詰めた空気が場を占めていた。特に、食糧関係については制限が設けられており、例え王族と言えど違法に持ち出すことはできない。


 だが、当のジラハルはそんな事は織り込み済みであり、確認されても痛くも痒くもないのであった。


 ジラハルの言葉を受け、一斉に荷馬車に掛けられているシートを剥ぎ取っていく門兵達と、現認の為荷馬車へ近づいて行く豚……キャナイ子爵を見つめながらジラハルはほくそ笑む。


「なっ! こ、これは——も、もう良い。おいっ、早くシートを掛け直せ! 臭くてかなわん! それになんだこの樽はっ! ワインの成りそこねばかりじゃないか!!」


 予想通りの展開にジラハルは声を出して笑い、駆け戻ってきた豚……キャナイ子爵に問われる事となる。


「殿下、コレは一体……」


「決まっておろう、ゴブリンの餌だ。牛糞と藁、それと森の土を混ぜ合わせ腐敗させた特製のな。樽は、ワインの成り損ねの腐った葡萄汁だが……なんだ? まさか、ゴブリンに人と同じ食糧を餌として使うと思ったのか?」


「い、いえ。そう、でしたな。ゴブリンの餌でございましたな、いやはや、ゴブリンはこんな物を食べるとは……流石は悪食の魔物と言われるだけはありますな。結構です、どうぞお通りください」


 この世界で、牛糞や人糞などを肥料として使うと言う考えはまだ無く、処分に困り王都外へ捨てたりしている。さらに、発酵という考えもなく、ワインすらも葡萄果汁を腐らせる、と言う言葉を使っており、ワイン生産もまた運でしか無かった。


 それを知ったジラハルは、コレまでワインのなりそこねとしてビネガー化した物を買い集めたり、王都の近隣の村の地下に貯蔵庫を造りワインの生産にも力を入れている。


 ワインビネガーは王国貴族にとってすればゴミであり、失敗作の為安く手に入る、さらには王侯貴族に眼をつけられることも無い為、堂々と持ち出せるという、ジラハルには神のような食品だった。


◇◇◇◇◆◇◇◇◇

 王都から出て十二時間ほど馬車に揺られ、小川の流れる平野部にて馬の休息を取っている。


「ジラハル様、本当にこの荷で北の領民達を救えるのですか?」

 


 そう、不安げな顔で曳いていた馬を外され、停車している荷車の荷を見つめ尋ねてくるシナリアに口元に笑みを浮かべ、ジラハルは頷く。


「もちろんだ。だが、このまま渡しても意味はないがな」


「?」


「わからないのは仕方ないさ。さて、休憩も終わりだ。早く北の領地へ行かねば手遅れになるからな。行くぞ、シナリア」


 短い休憩の間に、例の水と飼い葉を与え終え、すっかりと元気になった馬達を従者と雇った商人が荷車に繋いでいき、すぐ様先頭の馬車から動き出すのを見てジラハルは告げる。


(無理もない、あの水に成長促進の効果が有るのは説明できても、その異常な効果は前世の記憶持ちの俺でも理解不能なのだから)


 ジラハルは心の内でぼやきながら、いまだに不安げなシナリアを置いて自身の馬車に乗り込み、発車させる。


 例の水——何処にでも生えている苔から搾り取れる水。この効果は魔物の成長促進、だけでなく家畜達にまでその効果をもたらした。だが、人の成長促進には至ら無かった……と、当初は思われていた。


 だが、それは前提が違っていたのである。魔物達はどうかはわからないままであったが、家畜の場合、条件が揃っていたから成長促進されたのだと、ジラハルは今では理解している。


 その条件こそが、それは単純にして明快な物だったからだ。条件を見つけた事は必然と言えるし、偶然が重なった結果だ——、そう、ジラハルが例の水を飲んで、その効能が現れたのだから。


 条件となり得る可能性に目をつけ、ジラハルは王都近隣の農家にも協力を求めた。もちろん、例の水は隠した上で——だが。


 実験は成功し、わずかな期間で種から収穫まで持ち込んだ野菜達。だが、コレで全てが上手くいく、なんて事にはならなかったし、ジラハル自身も『そろそろ希望を刈り取りに来るんでしょ? わかってる』と身構えていたこともあり問題にはならずに済んでいる。


 結論から言えば、その暴力的な成長促進のせいで起こる致命的な土壌成分の枯渇により連作は出来ず、一回限りの限定的な手法にしかならない。という、前世の記憶があるジラハルにとっては当たり前の話であったのだから。


 閲覧、ブクマ、いいね、ありがとうございます。


 次回更新は明後日以降となります。よろしくお願いします。

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