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ゴブリン狂い

 別宮——王城の敷地内にあるため、どうしても客を招くと王城勤めの貴族達の目に入ってしまう。


 王城への回廊とは別に来客用の出入り口はあるが、それだけで全ての目が欺けるわけでは無い。出来る限り人目を避け、別宮敷地内に馬車を誘導させたが、既に王たるジェラッドに、または宰相に報告は入った事だろう。そう考え、ジラハルは別宮の正面玄関の前へ馬車を停車させ、降り立つ。


 既に知らせを受け玄関前に整列したメイド達が、すぐ様に玄関の両開きの扉を開け、同じ様に降り立った少女、シナリアと老齢の執事を招き入れた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ジラハルは、屋敷に入り直ぐサウムに王の影などの諜報員が潜り込んで居ないかを確認するが、迷う事なくサウムは即答した。


「ございません、敷地に近づいたものもおりません」


 別宮に戻ってから、誰からも報告を受けていないはずのサウムはハッキリと無いと告げ、続ける。


「もし、間者が来ていればサラ達、スラム上がりの子らが並んではおりませぬ故」


 サウムの言葉に、ジラハルは戦慄を覚えるのだった。たった、半年程度。その期間に彼等は、スラム上がりの少年少女に色々と仕込んで居た、その事実と忠誠心の高さ、指導力に。


 ジラハルが引き抜いた別宮へ勤める私兵、その全てが王都内では間違いなく最強に足り得る元近衛達だから納得はできている。


 自身が持たない何かしらの才能を『スラム育ちの少年、少女達が持ち合わせている』事にも前世の記憶がある為、理解はしていた。


 それでも、いや、だからこそ、僅か半年で、その道のプロ足り得る間者の存在を気取れるほどに仕込むのは生半可に成せるものでは無いのも理解しているのだ。


 だが、当のサウムは見上げてくるジラハルの驚愕の視線を受け止めながら、「何か問題でも?」と小首を傾げている。少し納得のいかない気持ちを抱えながら、ジラハルは小さく頷き客人へと向き直った。


「客人をいつまでも立たせてるわけにはいかんな。二人とも掛けたまえ」


「……はい」


「いえ、わたくしはこのままで——」


「俺は掛けろ、と言っているのだ。それともなにか? 俺がお前達に斬りかかるとでも?」


 本来なら、ホワイナル家の老齢執事が言う様に、自身が仕えている家の者と共に座るなどあり得ない。主人を害される恐れや、不測時に直ぐに対応できる位置へ立って居るのが正しい事である。


 だが、ジラハルはそれを認めなかった。認められなかったのだ。本来のそれは、言わば交渉事や他貴族との会談の場としての当たり前であり、非公式の、それも広義の意味で言い方を変えれば幼馴染としての雑談と扱って貰いたいジラハルは、視線を鋭くし否定を許さなかった。


「い、いえっ、決してその様な……で、では失礼いたします」


「よしサラ、例のアレを、お二人に出してやれ」


「かしこまりました、どちらでご用意致しますか?」


「もちろん、目の前でだな」


「はい、すぐに準備致します」


 サラが応接室を出ていくのを見送ってから、ジラハルは目の前のソファーに硬い表情のままみじろぎ一つしないシナリアへと向き直る。


「さて、飲み物の前に、本題に入ろうか。お前たちは俺の巷での噂は知ってるな?」


「その、大変不敬にあたるので、それは……」


「かまわん、ここにはオーク共の耳目は無いし、不敬を問うことはせん」


「ゴブリン狂い……と、聞いた事がございます」


 歳に似合わず、硬い表情のままゆっくりと口を開く。


「はぁ、シナリアよ。硬すぎる、幼き頃より知っている仲だろう。もっと砕けた口調でいいぞ。執事のお前もだ」


 あまりにも歳に似合わず、まとう空気を薄幸さを形にした様に表情と口調の硬さにジラハルは心を痛める。


(このくらいの歳の子はもっと自分の感情に自由で良いはずなのにな。俺の様に転生した記憶を持ってるわけでも無いだろうに)


「で、ではお言葉に甘えます。街の噂だけでなく、王宮勤めの貴族達もまた社交界にて『ゴブリン狂い』と口にしてましたな。あとは、幼き王都の民を攫い、陵辱している、または実験材料としているなど……まさに多岐にあたりますな」


 シナリアの代わりに答えた、老齢の執事にジラハルは頷き、感想を求める。


「ほぅ、そこまで広がっているか。で、どう思う?」


「どう、とは?」


「お前が、いや、シナリア含め二人が俺を警戒しているのはわかっている。なにしろ、ゴブリンに欲情する様な王子と思われているのだろうからな」


「では、噂は根も葉も無い……と?」


「いやいや、モンスターのゴブリンには欲情などせんよ。ただ、オーク共の目があるからな《そういう事》にしただけだ。俺はシナリアの様なスタイルの娘が好きな変わり者ってだけだ」


(さて、街中と今の発言、過去の態度から、どう反応が来る?)


 そう考える、ジラハルはシナリアの顔色を伺う。


「——っ!」


 シナリアは、眉間に皺を寄せ、今まで節目がちだった顔を上げジラハルを睨みつける。その視線にジラハルは掛かった。と、内心でほくそ笑み、言葉を続ける。


「シナリア、勘違いしないでもらおう。別段、お前に好意を寄せているという訳でも、妾になれという訳でも無い。単純に、肥え太った貴族や王族が嫌いなだけ……おっと、オーク達が嫌いなだけだ」


 敢えて言い間違えた様に見せて、これまでのゴブリン発言は他貴族や王族への建前である、と伝える。


「……つまり、今までのわたくしに対する仕打ちはパフォーマンスだった——とでも?」


 疑いの目は変わらぬものの、目的が見えず怯えていた先程とは違いシナリアはジラハルの眼を見て尋ねた。


「ふむ、少し違うな。俺は気づいたんだよ。富を、食を卑しく抱え込む行いの醜さにな。そして、そのせいで北の民達がどんなに苦しい生活をしているのかをな」


「それを信じろ……と?」


 シナリアはジラハルの言葉を聞いて、眉間の皺をより深くし到底信じられない、と言葉と態度で示す。が、当のジラハルはどうでもいい、と言った具合に軽く肩をすくめただけでシナリアの言葉を否定する。


「いや、信じなくていい。ただ、少し付き合ってもらおう。もちろん、その対価は出させてもらう」


「わたくしが何を求めてるか、それをご存知なのですか? 第一王子たる、ジラハル様が?」


 ブラン王国第一王子、そう聞けば北の貴族の者達は口を揃えてこう言うだろう『無知の外道王子』と、その位に北ではブラン王国の王族の評価は落ちているのだ。逆に中央貴族に聞けば答えは変わる、『優しい王子』と、これは貴族的な言い回しでもあるが、『扱い易い、我々に優しい王子』を耳触りの良い言葉にしただけなのだ。


 だからこそ、シナリアは信じられずにいる。自身が求めてやまないものを、無知の王子が知るわけがないのだ、と。


 だが、それはジラハルの次の一言目から否定される。


「食糧——だろう? 今夏は雨が多く、北は特に日が足りなかったはずだ。そこに来てホランド王国との戦争、南の穀倉地帯が戦禍に飲まれ食糧危機が起こっている。違うか?」


「!? ど、どうして……」


「はぁ、簡単な事だろう、本来王都に居ないはずのシナリアが居る事、商店前で店主と言い争い……いや、交渉か? をしていれば誰でも答えは出せる。で、だ、その食糧難は下手をすれば北の領民の半数の命を奪いかねない程切迫している——と予想している」


「はぃ。父もその様に言ってました」


「ならば、少し俺の戯言に付き合え。ちょうど準備ができた様だしな」



 次は二日後の予定です。


 閲覧、ブクマ、いいねありがとうございます。少し速度感が無い気がするので、かなり端折る様にします。


 もし、次話以降の間のあれこれが気になる方は感想なんかに書いていただけたら割愛部を章終わりなんかに入れていきます。

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