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どうしてこうなった?

 どうしてこうなった? そうジラハルは、毎朝の日課のように別宮の寝室で頭を抱えることとなっていた。


 ことの発端は、スラム街から子を攫ってきた事に端を発し、その後、性病罹患者という悲しい現実にぶち当たり、『ゴブリンの生殖の謎を解明する』という建前の元、私兵を得て迷宮探索をさせた事による。


 発案当初から『どうせまた俺の希望を刈りに来るんでしょ? わかってる。知ってるよ』と諦観していたジラハルの期待通り、確かに『繁殖の早さ』自体は妊娠期間以外に全く人と変わらぬと言う調査結果に終わる。


 元々、建前としての調査の為『適当で良い』と、ジラハルの私兵となった元近衛兵達。平民上がりの彼等は上級階級者の同僚、上司にまで雑用としてこき使われていた彼等にそう伝えていたのもあり、そんなものだよね。で、ジラハルの中では終わっていた話だったのだ。


 そう、平民上がりで、前職場では散々な仕打ちを受けていた彼等で無ければ。腐った貴族の子らなら調査を本当に『適当』に行い、お茶を濁して終わりのはずだった。


 だが、ジラハルの提示した迷宮探索の方針は、スラムから攫ってきた子らの為の万能ポーションをできる限り集める事であり、その他の換金可能品は全て調査した者たちで割り振って構わない、その代わりちょっとゴブリンの調査をついでにしてくれればいいから、という緩い命令であり。


 もちろん、月給は別に有り近衛と同等、装備や回復ポーション代もジラハル持ちで、安全第一、結果より命大事に。を強く求めていたのである。


 その為、私兵達は五人交代で、別宮警護、迷宮探索に力を入れたのである。そう、入れすぎたとも言える。なんなら、スラムから攫ってきた少年少女達にまで、護身や剣術の鍛錬を自主的に行うくらいには。


 結果、迷宮の探索は進み、万能ポーションはスラム街どころか王都の市民街全員に配れる程に集まるまでに半年と時間を用さなかっ。それはジラハルにとっては珍しく『あれ? 刈り取りにこないの?』と困惑と喜びを与え、安堵のため息を吐いていた。


 だが、病気の心配が無くなり、いざ少女達に手を出そう……と、したジラハルはまたも別の絶望の底へ叩き落とされるのである。


 それは、やる気に満ち溢れ、才気に満ちた私兵達の『頑張りと適当な調査』によってもたらされたのだ。


 そう、元来の言葉通り、適度な力を持って事に当たる、という適当な調査によって。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ジラハル様、ゴブリンの調査に新たな事実が判明しました。さらに、ゴブリンだけでなく、これはもしかしたら魔物全てに共通するのでは無いか、という裏付けも王都近隣の森にて確認できました」


 そう報告を受けたのは、調査開始から半年のことだった。季節は変わり、夏も終わろうとしている時期である。そして、順調に回復し、可愛くなっていくスラム上がりの娘らにいつ手を出そうか、と空になった食器を片付け、食後の茶を淹れているメイド姿の娘達に頷き、思案していた食事後のタイミングだった。


「サウムか。まだゴブリンの調査してたのか?」


「? 中止せよ、との御命令は受けておりませんでしたので……」


「そう——、だったな。報告を聞こう」


 ジラハルはどことなく嫌な悪寒に襲われながらも、頷き報告を聞く事にした。


「まず、迷宮内にてゴブリンのメス……ソレも孕んでいる個体を複数体発見していたのは覚えておいででしょうか? そちらの追加報告となります」


「うむ、続けよ」


「はっ、その後母体ゴブリン達は迷宮内の水脈へと集まり、大きな集団を形成し、二月ほどで子を産みました」


「思った以上に早いな……」


「その後、集まった母ゴブリンと子ゴブリンは授乳などせず、代わりに母ゴブリンは水脈周りに生えた苔をむしり、その雫を子に飲ませていたのです」


「ほう……」


「食事はソレのみだったのですが、わずか二週間で子ゴブリンは成体ゴブリンへと変わらぬ大きさになり巣立っていきました。コレを発見し、その苔を調べたところ森の至る所でも確認できていた普通の苔だったのですが、別に調べさせた所、他の魔物、ホーンラビット、オーク、フォレストウルフ等、王都周りの魔物は全て産まれてすぐより、この苔を絞ったり、そのまま食べさせたりして、同じく二週間程で成体と同等に成長していたのです」


「ん? は? なんだって?」


「もう一度ご報告致しま——」


「いや、いい。二週間で成体に? それ、もし人にも対応していたら……」


「残念ながら、スラムより攫ってきた子らには成長は見られませんでした。ですが、絞った水は甘く美味しかったです」


「え? なに勝手に人体実験してるの? って、サウムも飲んだの?」


「人体実験とは? いえ、私も含め別宮勤めの者は全て飲ませていただきました。毒の可能性も含め、万能ポーションを準備して複数回に分け、様子を確認し、数日毎に人を変え調査いたしました。別宮勤めの者全てが調査協力希望した為、報告までお時間を要したことに対してのお叱りは後ほど、受けさせて頂きますので、まずはご報告から先にお聞きください」


「わ、わかった。皆無事なら良い。続きを申せ」


「はっ! 先程、人には効果が無かったと、申し上げた事に繋がります。別宮に飼っている、卵、肉用の鶏に試した結果、雛から卵を産むまでに成長に掛かる期間が、圧倒的に早くなりました。ジラハル様の慧眼による着目に、驚きを隠せませんでした」


「世辞は良い。早くとはどの程度だ?」


「僅か、一週間にございます」


(ん? なんだって? 一週間!? たったの七日間!?)


 元はゲーム世界、『世界樹の樹の下で』でもそうであった様に、この世界もまた暦は地球と同じで四年に一度閏年まで設定されていた。人の妊娠期間も変わらず十月十日を目安に、初産でもその前後二週間程に安定している。


「いま、王都近隣の村に住む知り合いの畜産家で他の家畜達も試してもらってますが、まだ三日しか経過しておりませんが、途中経過報告では、既に与えていない個体と比べて三倍以上の速さで成長している様です。コレで、ジラハル様が気にかけておられた下級平民達の食事情も改善するのでは無いかと愚考致します」


 記憶覚醒初日に、王都の市民街が、スラム然としていたのには訳がある。簡単に言うならば、大国との戦争が行われており、王都民ですら徴兵を免れず、また多くの戦死者を平民から出していた事に繋がる。


 そう、ジラハルは知らなかったのだ。二年後にホランド王国が滅ぼされる事を知っていても、まさかその戦が既に開戦されていて、ブラン王国側も余裕がなかった事を。


 特に、ホランド王国はブラン王国より南に位置しており、温暖で大陸屈指の穀倉地帯なのもあり、南を戦場にした事でブラン王国国内の穀倉地帯もまた戦禍に呑まれ、自給率が減り、食糧事情が一気に悪化したのである。


 その煽りを真っ先に受けるのは、国民、それも決して富んだ者達ではない下級平民達なのは火を見るより明らかだった。


 そんな中、よもやの食糧の増産法の確立となり得る報告である。下手にジェラッド王へ報告し、腐った貴族達に広まろうものならジラハルの首は四年を待たずに飛ぶ恐れがあったのだ。そう、虐げられた国民のクーデターが起こる事で。


 現在、国民の敵意は外敵に向けられており、その真核には食糧確保という目的があるからに他ならない。


 これは、ゲーム中のシナリオでクーデターを率いた北の公爵家が謀反するきっかけになったのだから。


 だから、ジラハルは喜ぶに喜べなくなる。事がどう転がるかにより、スラム上がりのメイドに手を出して、孕ませるわけにはいかなくなりそうなのだから。


(クーデターが起これば、確実に処刑コース。それもこの屋敷にいる者全てが巻き込まれるだろう。だが、今皆を解放しても、元の暮らしに戻るだけ……どうすれば……)


「あ、あぁ、大義であった……しかし、なぜ人以外にだけ効果が出るのか。いや、もしかしたら、人にも影響がある可能性もあるのか、量的な問題で何も感じていない可能性もあるな」


 混乱しながらもジラハルは、なんとかサウムに返事をし、疑問を口にする。


「! 流石の慧眼、恐れ入ります。実は、一番量を飲んでいたスラム上がりの侍女、名をサラと申しますが、サラが魔法の発動に成功致しました」


「なんだとっ!?」


 サウムの返答に、暗く閉ざされそうになる心に光が射していく。


 魔力持ちとは、本来血統でのみ発現し、また魔力量もその濃さによるとされ、魔法使い、それだけで巨万の富を生み出す程にブラン王国では重宝されている。


 それほどに希少な為、魔力持ちの貴族は近親婚を繰り返し、濃くなりすぎた血のせいで滅びた家もある。そして、『世界樹の樹の下で』でも魔法を使えるのは、とあるヒロインルートを通った主人公と、ヒロイン二人だけなのである。


 その二人がホランド王国の姫二人だった。


「まだ、安定はしておりませんが、資料を調べさせた所、魔力持ちが平民から出たという記録は過去にも有りませんでした。私も寡聞に聞き及んだ覚えはございません」


「つまり、量を飲み続ければ魔法を扱える様になる……という事か」


「まだ、確定ではございませんが、私や他の者も皆、飲み続けていくと、飲んだ瞬間に身体の奥底から力が湧くような感覚を覚える様になりました。サラも同じ様に感じているとの事です」


「つまり、ソレが魔力である可能性が高い。そういう事だな?」


「はっ、その通りにございます」


「よし、俺も今日からの飲み物は全て、苔の水とするよう取り計らえ」


「かしこまりました」


 一礼して出ていくサウムを見送り、ようやく才能無しのジラハルにも希望が見えたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そして、冒頭に戻るのである。


 時間は朝、不意に布団の中で動くものを感じ、耳を澄ませながらまどろんでいると、徐々に感覚が覚醒してくる。


 特に下半身が。


 襲いくる快楽に僅かに身体が跳ね、暖かく滑り、蠢く何かの中へと欲望を吐き出した。


(な、なんだ? 寝起き夢精!? いや、これは……吸われてる????)


 布団の中の温もりとは別の温もりが、欲望を吐き出し終えた息子を柔らかな布で拭き取る様な感覚で、ようやく自身の下半身にベッドの横から潜り込むメイド服を視認して、更に混乱する。


(なんで!? 待って! どう言う事? ねぇっ、どうしてこうなったのっ!!!!)


 ジラハルの内心の叫びに応える様に、カーテン越しの窓の外では小鳥が短い鳴き声を何度も上げていた。



 

 次話更新は早くても、明後日以降になりそうです。


 応援いただけたら嬉しいです。ブクマ……いいね……待ってます。

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