希望が、見え……
探索者という、希望を打ち砕かれたジラハルは『このままではいかん』と、少しでも何か出来る事はないか……と考える。
そこで思いつくのは、こう言う場合の定番である情報の書き出しを行う事にした。
まず、一番最初に来る死期は学園入学から半年。つまり、約五年後、正確には四年と八ヶ月程。死因は不明。ヒロインの一人ニーシャルートを通った場合、迷宮探索後王都へ戻ると葬儀の真っ只——書き出してみて、ジラハルは頭を抱えた。
(これ、情報になってねぇ……ただのテキストやないか……って、待てよ。ニーシャルートって事はニーシャと主人公がイベントを通して仲良くならなければワンチャン生き残れる?)
そう考え、ジラハルは主人公とニーシャとの邂逅を思い出す。ニーシャは約二年後にブラン国によって滅ぼされる国、ホランド国の第二王女であること、そして、姉のアリーシャ第一王女と共に捕虜とされ、ジラハルの専属侍女として隷属化されている事。
さらに、入学間も無く、衆目の元で二人を鞭打つジラハルの蛮行を目にした主人公が決闘を申し込むも、ジラハルは鼻で笑い『なんだ、こんな醜女を気に入ったのか? ちょうど飽きたところだ持っていくといい、あまりに具合が良くないアソコだが、この様に鞭で叩くかナイフで切れば中々良い声で鳴くぞ。まぁ、平民には過ぎたものだが、それも一興か』と、下衆なセリフと共に、主人公へ払い下げよろしく蹴り飛ばすと言う胸糞展開から始まる事。
さらには外道なジラハルの手により、『ゲーム世界樹の樹の下で』におけるヒロインとして、唯一二人とも非処女でもあった。
出逢うその時には、既に二人は笑う事すらなく、感情そのものが消えていて、主人公が手を尽くし、ゆっくりと彼女の心を癒しトゥルーエンドへと繋がるという
また、姉アリーシャと妹ニーシャは、ルート分岐が最初の選択肢の違いだけであり、この最初の出逢いでルートが決まり、アリーシャルートとニーシャルート、その他ヒロインルートの三種に別れるのだ。そう、姉妹二人と仲良くなる……というルートは存在しないのだ。
(アリーシャ、ニーシャ二人を陵辱せずに抱き込めれば……もしかしたら俺は死なない?)
ジラハルの前世の記憶では『世界樹の樹の下で』特に自身の推しである二人が自身の生存における希望足り得るのでは無いかと考える。
一人ずつしか救えなかったゲーム内、ファン達からも追加ディスクや、追加シナリオとして姉妹ルートを望む声が多かったのだが、結局製作側からの答えは『この作品はコレが完成系であり、追加は行わない』と声明文をネット上に表明しファン達も涙を呑んで二時作品へと走ることとなったが、コレは別の話である。
話は戻り、ジラハルの転生という、あり得ない事が自身の身に降りかかり自身の生存には既に諦めを示していたわけだが、ここに来て前世の毒にも薬にもならないただのゲーム好きな男が、推しである二人と同じ世界にいる事、が暗闇の中唯一光を放つ小さな星の様に一種の救いをもたらしたのだ。
つまり、ゲームには姉妹ルートは存在しないと言う僅かな希望が見えた瞬間でもあった。
(だが、待てよ。例え今から二年後に彼女らを下賜されたとして、どうやって姉妹ルートに入るっていうんだ?)
ゲームでは彼女達二人は、見た目がこの国の美的感覚には合わず、よって国王たるジェラッドの眼鏡にかなわずジラハルに下賜された。そして、表向きは侍女として、だが、本質的には隷属化し奴隷として、ジラハルの玩具にされ僅か二年の間に心を壊されてしまい、表情を失ったとされる。
二人のトゥルーエンドのCGはそれぞれが、ユーザー間では女神の微笑みと言われるほど幻想的な笑顔と、無邪気な笑顔だった事を思い出すジラハルは、書き出した紙を握り頭を抱えた。
(王女だった二人が、悪評高い国王の嫡子つまり俺のことをどう思うか。間違いなく同類の外道と思われてるはず。なら、その専属侍女なんかになるか? いや、ならなかったから、隷属化を行なった?)
ジラハルは、頭を掻きむしりながら、ゲーム内でのジラハルの蛮行や言動から、何があったかを推考する。
(例え亡国の王女といえど誇りは持っているのは間違いない。拒否をすれば斬首は免れない、として……そうか、死を選んだから隷属化して弄んだのか?)
つまり、二人がジラハルに下賜された時点で既に詰みかねない状態なのである。隷属化=死、と言うジラハル公式とも言える恐ろしい式により、二人が例え感情を無くさずとも、隷属化しただけでも主人公に目をつけられかねない事に戦慄する。
そして、その状態では出逢っただけで迷宮探索後の葬儀ルートが確定しかねない。そのゲーム内での事実が重くのしかかる。
ジラハルは閃いた瞬間に希望を見出したが故に、更なる絶望へと落ちる事となるのだった。
例え、生き長らえる事を目指してなくとも、隷属化した二人を思いのまま抱けたとしても、現実のジラハルが求める『愛のある関係』では無く、ただの肉体関係にしかなり得ないのである。
(ならば、優しく対応し懐柔する……いや、ダメだ。まず、隷属化では無く侍女として仕えることを認めさせないとどの道詰む。どうすれば、侍女として彼女達を仕えさせる事ができる? 考えろ、あと二年しか無いんだ、何か手は無いのか? 噂で流れるほど良いヤツ認定させるのは? ダメだ、父たるジェラッド王に目をつけられ、下手をすれば廃嫡も有り得る。俺が第一王子で、有り得てるのは性格が王に近かったからだ。ここで大きく立ち回りを変えるわけにはいかない……あれ? どうしようも無くない?)
現在までのジラハルは、下のものを蔑み、簡単に処刑していく事に楽しみを覚え、王族の名の下に既に数えきれない死体の山を築いていたのだ。
ソレを父であるジェラッドは痛く気に入り、九歳の時に次期国王として戴冠をさせているのだ。その際に言われた言葉を思い出し、ジラハルは机に頭を打ち付けたくなる衝動に駆られる。
「ジラハルよ、他者の命を弄ぶのは王族として、次期国王としては素晴らしい才能だ。だが、ただ殺すだけでは王足り得ない。奪えるものは全て奪い、自身の快楽を追求する事を覚えると良い」
と、父が子に語るには生々しく、そして外道過ぎる言葉を思い出したからだ。その日の晩に父の寝室に呼ばれ、妾に召し上げられた女達を抱いたり、反抗的な者は容赦なく犯し、殺していく様を見せられた事を思い出したのだ。
その光景に、その時のジラハルは『俺もこうならなければ』と胸を高鳴らせ、自分だけの玩具を手に入れたい。そう考えていた事も転生した記憶を覚醒させたジラハルには辛い記憶として甦る。
(ダメだ——侍女に優しくしているところなんて見られるわけにはいかない……ましてや、敵国だった王女になんて、やはり隷属化しかないのか?)
ここで、どうなりそうかの予想まで書き出し、内容がまとまらない紙を一瞥しジラハルは手元の散らばる紙を集め整える。
(とりあえず王女姉妹ルートのことは二年の間に考えるとして……やはり自身を守れるくらいの力は欲しいな)
ふと、ジラハルが顔を上げれば魔石灯が光を放ち、部屋を照らしている。魔石灯、磨いた魔石は単体で光を放つ。魔石に含まれる魔力が外に放出される際に光を放つからとされている。
使えば使うほど小さくなっていき、最後には何も無くなる。その為、使わないときは密閉した容器に入れておく事で使用時間を伸ばす事ができる。
帰化した魔力光を空間に満たし切った場合、魔石からの魔力圧力(魔圧)と、空気中の魔圧が均衡化する事で消費を抑えると言う理論である。
その特性にジラハルは記憶の何かが引っ掛かり、容器と魔石をしばらく見つめる。
(魔石……魔力……魔圧……魔石は主に魔物や迷宮から産出される魔力のこもった結晶体の総称。魔力とは属性付与される前の魔法燃料。魔圧とは高ければ高いほど高威力の魔法が使える。空気中ではすぐに拡散するから、体内でいかに圧力を高めれるか、いかに早く魔圧を高めれるかに魔法師としての腕が掛かっている)
筋力や運動神経に自信のないジラハルにとって、魔法とは手を出せて力をつけるにうってつけともとれた。その為即座にサウムを呼んだジラハルはまたも絶望に落ちるのであった。
「殿下、魔法とは全ての人が使えるわけではございません。特に身を守るほどとなれば……魔法大国と言われるホランドにも数は少ないと伝え聞きますし……」
(うん、わすれてた。この世界ってただの詰みゲーの世界だったわ)
そう、本日二度目の希望を砕かれたジラハルはソレはもう遠い目をしてサウムに乾いた笑みを向けるのだった。
閲覧ありがとうございます。とりあえずブラッシュアップ品として上げていきますが、ブクマやいいねの数によっては、なろう公開は一章までの予定とします。
一章は読み切り版の二人と出会う辺りになるかとおもいます。展開は大筋は変えない予定では有りますが、既に設定を変えてある為どの程度変わるかは僕にもわかりません。
各話あたりの文章を3000〜5000辺りとしますのでお付き合いよろしくお願いします。