表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
快速四号  作者: ヤーツツ・トモミ
発車前
20/45

第6話ー① ウニの夜

市川の携帯電話にかけながら、そういえば女に電話するのはいつぶりだろうかと思った。

 高校の時、好きな女の電話番号を友達から聞き出すところまでは良かったが、案の定うまく話せず、何度もかけるうちに完全に嫌われてしまったことがある。


 今になって思えば、モテるということは、自分をうまく演じる能力なのかもしれない。

 もちろん、ある程度のルックスは必要だろう。しかしそれ以上に、自分なりに確立したキャラクターを持つことが大事なのではないか。


 笑いのセンスを磨いたり、時には下ネタを言っておちゃらけてみたり、時には真剣な顔を見せてみたり……。

 そうやって他人に受け入れられやすい自分を、必死に作り上げる。


 人が外見に注目するように、性格についても、結局見えているのは表面だけだ。

 計算して作られたキャラクターの裏側は、きっと汚いものも多いだろう。

 それでも人は、外見も中身も整っている方を選んでいく。


 もちろん、それが悪いとは言えない。

 賢い人間はそれを最大限に活用するし、どんなに鈍い人間でも、大なり小なり無意識にやっていることだ。


 恋愛においては、そうやって自分を高く見せたり、逆に低く見せたりしながら、相手と付き合うための心の駆け引きが行われる。

 そして、それが恋愛のひとつの醍醐味なのかもしれない。


 ――だが。


 そこまで考えたところで、高橋は吐き気にも似た苛立ちを覚えた。

 どうして人は、そんな面倒くさいことをするのだろう。

 いや、しなければならないのか。


 それは、より素敵な人と付き合うためだろう――と、心の奥から声が聞こえた気がした。


 そうなのだろうか。

 だったら俺には、一生恋愛なんて面倒なものはごめんだな。

 もっと素の部分で恋愛ができたら素敵なのに……。


 ……おいおい、それはさすがに都合が良すぎるだろ。


 もっとも、今から俺は市川と恋愛をしに行くわけじゃない。

 話の薬――いや、情報を手に入れるために、彼女を利用するだけだ。


 それでも、何年ぶりかに女をデートに誘うような感覚があって、少し可笑しかった。


 市川との待ち合わせは、ターミナル駅前。

 地元では「ウニ」と呼ばれている、大きな噴水がシンボルになっている場所だ。


 彼女は、この治験のことを誰かに話したくて仕方なかったのだろう。

 一度閉ざしていた口が外れると、堰を切ったように、高橋に向かってしゃべり始めた。


 プロ意識の低さには正直笑ってしまうが、そのおかげで、平凡な人生を送ってきた俺のもとに、とんでもない情報が転がり込んできた。


 ――《究極の安楽試薬》。


 それは、今の高橋にとって、一億円ほどの価値があるように思えた。


 今、俺が本当に恐れているもの。

 それは死そのものではない。

 死に至るまでの、あの耐え難い苦痛だ。


 その答えが、今、目の前に現れた。

 それさえ手に入れば――。


 高橋は、自分でも驚くほど大胆な計画を思いついていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ