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快速四号  作者: ヤーツツ・トモミ
発車前
11/45

第3話ー③ ノンレムの扉

「……ノンレム睡眠に入りました……」


「早いな……何分だ?」


「三分四十六秒です」


「間違いなく、薬の効果が出ているな……。やはり、直接血管に入れたのが大きいか……。かなり量は抑えてはいるが……」


「経口型にした方が良かったのではないでしょうか?」


 堀越が脳波計を確認しながら、大森を仰ぎ見る。


「試作品はできているが……あれをそのまま投与したところで、意味がないだろう。経口型に比べれば、多少危険ではあるが、より正確なデータを取るには、こっちの方がいい。結果も早く出るしな……」


「しかし、副作用が出ては、後々面倒なことになりませんか?」


「多少の副作用が出ても……」


 大森は、残り少ない髪の毛を器用にU字型に整える。


「……仕方ないだろう。計画から、だいぶ遅れている。田所さんに顔を合わせる、こっちの身にもなってくれよ。それに、契約書にも副作用のことは、ちゃんと触れてあるわけだしな……ハッハッ」


「しかし……」


「大丈夫だよ……ずいぶん薬の量は抑えてある。心配ない」


 二人から一歩下がったところで、ニセロリ看護師の市川が、緊張した面持ちで立ち尽くしていた。


「あっ……市川君、まだいたのかね。とりあえず、治験は一段落ついたよ。お茶でも入れてくれるかね。堀越君は、何にする?」


「あの……私、新米で、何も分からないんですけど……副作用がどうとか……治験って、安全に行われるものなんですよね……?」


 市川は顔を紅潮させ、大森に少し食ってかかる勢いで問いかけた。


 大森は、またもや髪をU字型に整える。

 ――多分、もうそれが癖になってしまっているのだろう。


「市川君……はは……いや、何だ。少しでも確実なデータを取りたい、という話だよ。もちろん、被験者には十分、安全を考慮した薬の量を投与している。君は、何も心配する必要はないんだよ。さあさ、突っ立っていないで、お仕事お仕事。堀越君は、珈琲かい?」


 大森は、市川の質問を軽く受け流し、堀越の方へ向き直った。


「じゃあ、私は珈琲をいただきます……」


 堀越も、それに応じる。


 それでも、市川はまだ動こうとせず、大森に詰め寄ろうとしている。


「先生、そういえば、お茶っ葉が切れていました。よし……市川君、一緒に買いに行こうか……」


「えっ、でも……それに、お茶っ葉くらい、一人で買いに行けますよ」


「いやいや。他にも、いろいろ買うものがあるんだよ。君の原付じゃ、あまり積めないだろう? 先生……切れかけている薬もあるので、田所先生のところにも、寄ってきます」


「そうか……それは助かるよ……。しかし堀越君、じゃあ君一人でいいんじゃないか? 別に、市川君を連れて行かなくても……」


「少しは、彼女にも仕事をさせないと……。ほら、市川君、行くよ」


 堀越は、大森の言葉を半ば遮るようにして、外へ出た。


 突っかかる態勢に入っていた市川だったが、急に取り残された形になり、


「……じゃあ、私も行ってきますので……」


 そう言って、慌てて堀越を追いかけた。


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