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3 離れる

 水面の彼の瞳と、清美の視線がぶつかった。


「嘘つき!」


 手に持っていた弁当の包みがこぼれ落ちて砂へ少し埋まる。


「清美さん!!」


 佐久朗の叫びは、泡のように水面を滑って砂浜へと届きはしたが、清美の心には届きはしなかった。




 ※ ※ ※




「おうどうした清美、悪いもんでも食ったか?」


 川岸を、とぼとぼ歩いていると釣り人の(ヌシ)である源さんが、清美へ声をかけてきた。


「……なんでもないわ」

「なんでもないって顔してねぇがなぁ」


 言うと源さんは、自分の座っている岸壁の、隣に空いている場所をペシペシと手で叩いて清美を誘った。

 一人になりたくない気持ちもあって、彼女はそこへと吸い込まれるように座る。


 川は河口近くなこともあり、ゆらゆらゆっくりと揺蕩(たゆた)って流れている。

 二人は見るともなしにそれをみながら、しばらく静かに魚を待っていた。

 不意に源さんの釣竿がしなった。

 どうやら魚がかかったようである。


「よっしゃ」


 源さんは慎重かつ大胆に、魚に合わせてちょっと泳がせてみたりリールを巻いたりして、かかった相手をだんだんと自分の方へと手繰り寄せた。


「まるであたしね」


 ぽつり。

 その様子を眺めていた清美がもらす。


 それと同時に魚が勢いよく跳ね、魚影が夜の川うえに姿を表し鱗が月の光を反射してぴかぴか輝いた。


「こりゃ食べ応えがあるな!」


 源さんは喜んだ。

 清美は逃してはいけない、と思って彼が用意していたタモを手に持ちアシストするため立ち上がった。

 そして近づいた魚に向かって、網の部分を入水させると、えいやと持ち上げる。

 ビチビチと抵抗を続ける魚は清美の体よりも大きかった。


 二人がかりで魚をあげ、クーラーボックスに投げ入れると源さんがきいた。


「騙されたか」


 確信だった。

 清美は思わずボロボロと目から水分を一生分かというくらい出して、泣いた。

 泣きながらことの顛末を話した。


「トカイのやつか。あいつらにゃ心ってもんがねぇのか」

「私も悪かったの……言葉を鵜呑みにして。同族なんだから、ペンギンになって陸にいなくちゃおかしかったんだもの」

「いんや、ちゃんと説明しなかったそいつが悪い。なんだって同族なんちゅう嘘を……そういや、似た容姿にあっちの街の長のボンボンがいやがったな。何でも一目惚れした相手と付き合いたいのを反対されて家出したとか。まさかな」

「そんなイイトコの人が私に会いにくるわけないわ」


 そう、くるわけがないのだ。

 あちらの「トカイ」と、清美のいるこちら側「イナカ」は今敵対している。

 昔と違って気候や植生の変化著しい現代。

 なんとか星を生き永らえさせよう、と決め段階的に生活のレベルを昔に戻しつつある「イナカ」。

 最後となるなら一足飛びに進化してしまおう、とする最先端の生活を進める「トカイ」。

 様式のあまりに違う両者はそれはもう分断され、相容れないものとなっていた。


 川を挟んでこちらとあちら。


 そもそも清美は、植生の様変わりしたことに対応進化したいわゆる「進種(しんしゅ)」だ。

 それも枝葉の、滅びゆく側。

 環境がさらに変化し、その適応から外れてしまったはみ出し者。


 父も死んだ。

 友人も。

 母も。


 次は私なのだろう。

 清美は今生のみの自分を、ただ楽しもうと思っていた。

 けれど。

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