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p.8

 ぼくは読み終えると同時に泣き崩れてしまった。涙が止まらない。


 どうして、どうしてこんなことに……。


「あ、あの、大丈夫でしょうか……?」


 心配そうな顔でウェイターがぼくの顔を覗き込んでくる。ぼくは慌てて立ち上がった。


「いえ、なんでもありません。失礼しました」


 ぼくは逃げるようにして店を出た。そして走り出す。あてがあるわけではない。とにかく、どこか遠くへ行きたかった。どこがいいかなんてわからない。でも、今は彼女から離れることが一番大事な気がしたのだ。他でもない彼女が望んでいることだから……。


 ぼくは走った。無我夢中で。いつの間にか雨が降り始めていた。ぼくはそれを全身に浴びながら走る。彼女のことを想い、彼女のために……。


 やがて体力の限界が訪れた。立ち止まり、膝に手をつく。呼吸を整えようと息をするたびに喉の奥が焼けるように痛む。


 ふと視線を上げると、そこは小さな公園だった。ぼくはそこでしばらく休んでいくことにした。


 濡れた服の冷たさが体温を奪う。だが、それでも構わなかった。今は何よりも彼女のことだけが頭にあったからだ。


 ぼくは目を閉じた。瞼の裏に浮かぶ彼女の姿を心に刻みつける。そして、ゆっくりと目を開いた。


 その時、目の前に彼女が立っていた。


 ぼくは驚きのあまり声を失う。彼女は傘を差し出し、微笑みを浮かべていた。


 ぼくは立ち上がると、彼女の元へと歩き始めた。一歩ずつ、確実に距離を縮めていく。ようやく手が届きそうになった瞬間、彼女は消えてしまった。辺りを見回すが、どこにも姿はない。幻だった。


 ぼくは嗚咽した。彼女を失った悲しみに打ちひしがれていた。


「泣かないで」


 ハッとして振り向くと、そこにいたのは小さな少女だった。背丈は百センチほどだろうか。まるで天使のような女の子だ。


「君は……?」

「はい。これあげる!」


 少女は手にしていた物を渡してきた。それは赤い傘だった。


「えっ?」

「おにいちゃんに、わたしてって!」


 ぼくは戸惑いながらもそれを受け取った。


「えっと……誰が……」

「きれいな、おねぇちゃん!」


 少女は嬉しそうに笑うと、「ばいばーいっ!」と言って駆けて行ってしまった。


 ぼくは手の中の傘を見た。途端に胸が熱くなる。これは彼女のお気に入りのものだ。


「やっぱり……ぼくたちは離れられないんだよ」


 ぼくはそう呟き、彼女の愛情の傘を差した。


 いつかまた君が会ってくれるその日まで……。離れていても、ぼくはずっと君を愛し続ける。

完結しました☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大人の、とでもいうのでしょうか。 学生にはない、切ない恋が、淡々と、でも情熱的に綴られているのが、なんとも言えない雰囲気で好きです。大人って、感情だけでは動けない時があるんだよね…。 [気…
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