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「だけど……!」
「それに、わたしには結婚間近の婚約者もいる。あなたも知っているでしょ。もう、わたしたちは会うべきじゃないのよ」
「それでも、ぼくは……君のことが……」
「ありがとう。でも、わたしはこれ以上あなたを苦しめたくないの。ごめんね。本当にごめんなさい。あなたは、お父様が認める、ちゃんとした人を見つけて幸せになってね。さようなら」
彼女は一方的にそう言うと、電話を切ってしまった。ぼくは何度もかけ直したが、彼女が出ることはなかった。ぼくはただ呆然とするしかなかった。それからどうやって仕事をこなしたのか覚えていない。
だが、気がつくと彼女のレストランへ来ていた。中を覗くと客の姿が多く、ウェイターが忙しそうに働いている。しかし彼女の姿は見当たらなかった。
ぼくは店内に入り、ウェイターに声をかけた。
「すみません。支配人は今日は……?」
「申し訳ございません。本日はお休みをいただいております」
「そうですか……」
ぼくは落胆した。彼女と話したかったが、いないのならしかたない。ぼくが帰ろうとした時、背後から呼び止める声が聞こえてきた。
「あの、お客様? 支配人からこちらをお預かりしておりますが……」
振り返ると、ウェイターは一通の封筒を差し出した。
「これは? 彼女が?」
「はい」
ぼくはそれを受け取り、急いで封を開けた。中には手紙が入っていた。そこには綺麗な字が並んでいる。
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あなたはきっと会いに来るでしょう。その時のために、ここに手紙を残しておきます。
あなたと一緒に過ごした日々は、わたしにとって宝物です。
本当ならば、あなたの気持ちを受け入れるべきではなかった。そうすれば、あなたを傷つけずにすんだでしょうから。
でも、あなたがわたしを愛してくれたように、わたしもあなたにどうしようもなく惹かれてしまったの。あなたの優しさに。あなたの笑顔に。出来ることならばあなたを手に入れたいと思ってしまったの。そんなこと叶うはずもないのに。
あなたは、わたしが居ればいいといってくれたけれど、きっと、いずれ、家とわたしとの間で思い悩む日がくる。わたしがあなたの笑顔を奪ってしまうことになる。わたしにはそれが耐えられません。ごめんなさい。
だから、どうか、わたし以外の人と幸せになってください。
わたしたちの道は二度と交わることはありません。だから、もうここへも来ないでください。さようなら。
あなたを心より愛しています -----