表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

p.5

 ぼくらはレストランを出た。ぼくと離れる決断をした彼女が、またぼくの隣に居てくれる。そのことにぼくは浮き足だった。


 浮かれたぼくよりも少し先を行く彼女はタクシーを拾うと、運転手に声をかける。その後彼女に促され車に乗り込むと、タクシーはゆっくりと走り始めた。


「そう言えば、レストランの方は良かったの?」


 今更ながら、支配人としての彼女の仕事を邪魔してしまったことを悔やんでいるぼくは、不安げな顔で尋ねた。


「大丈夫よ。今夜はもう客が来ないだろうから」


 彼女はいたずらっぽく笑った。


「でも……」

「気にしないで」

「本当に?」

「ええ」


 彼女は笑顔のまま、きっぱりとそう言い切った。彼女はそのまま黙ってしまうと、窓の外へ視線を流した。ぼくはそんな横顔をじっと見つめていた。


 やがて、彼女は静かに口を開いた。


「ねえ、わたしたち、これからどうなるのかしら」

「わからないよ」

「そうよね」

「でも、君さえいればぼくは幸せだ」

「わたしもよ」


 彼女は再び外を見やった。その横顔はどこか強張っているように見えた。もしかしたら、彼女はこれから先のことが不安なのかもしれない。今はぼくがどんなに言葉を重ねても、きっと彼女の不安を拭い去ることはできないだろう。でも、これから二人で日々を重ねて行けば、きっと……。


 ぼくはそう思い口をつぐんだ。窓の外を流れる街の灯りをただ黙って見つめる。そのうちに、ぼくは眠ってしまったようだった。


 肩を揺さぶられ目を覚ました。窓の外を見ると、自宅前だった。呆然と窓の外を見つめていると、初老の男性の心配そうな声が車内に響いた。


「ぼっちゃま……」


 我が家の執事を務める男の声だった。


「どうして……?」


 ぼくの掠れた呟きが聞こえたらしく、彼は答えた。


「あの方が、連絡してきたのです」

「そうだ。彼女は?」

「既にお帰りに」


 その答えを聞いて、慌てて車を降りた。路地に彼女の姿を探したけれど、どこにも見当たらない。辺りはすでに真っ暗で、月明かりだけが頼りだった。ぼくは必死に探した。だが、彼女は見つからない。


 ぼくの目に涙が滲んできた時、背後に人の気配を感じた。振り返ると、そこには父の姿があった。


「父さん!」

「おまえは、こんなところで何をしているんだ? それに、こんな時間までどこへ行っていた?」

「それは、その……」

「まさかとは思うが、あの女と一緒にいたわけではあるまいな」


 父は射るような眼差しを向けてきた。ぼくは思わず目をそらし俯く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ