グランデール再び(3)
耳を突くような爆音。
一瞬遅れて聞こえてくる瓦礫が崩れる音と逃げ惑う人々の悲鳴。
僕は宿屋の窓を開け、身を乗り出してあたりを確認する。
「ここからじゃ、何も見えないか。」
街の西方面での爆発なのであろう、東側に面したこの部屋からでは状況が全く分からない。
2度、3度と同様の爆発が起こった。
これは事故とかそういうレベルの話じゃないぞ。
「急いで住民を避難させるんだ!」
この街の自衛団と思われる男たちが、プレートメールに身を包みガチャガチャと金属音を鳴らしながら宿屋の前を通り過ぎた。
「フロー、ちょっと様子を見てくるよ。」
僕は窓から庇に移り、そのまま通りに飛び降りた。
「ロゼライトさん、私も行きます。」
そう言って僕のあとに続こうとしたフローであるが、お酒が回っているためうまく歩くことができないでいる。
「大丈夫、ちょっと見てくるだけだから。」
フローに、トゥラデルとアクアディールに伝えるように言うと、僕は先ほど男たちが走っていった方向に急いだ。
泣き叫ぶ子供、肩から血を流してうずくまる老人、足を引きずりながら避難する女性。
爆発の中心に近づくにつれて崩れた家屋が増えていき、被害が尋常ではないことを思い知らされる。
爆発音がして、新たに建物が崩れた。
同時に聞こえる子供の叫び声。
「誰か、誰か助けて下さい。」
母親と思われる女性が狂ったように助けを求めるが、誰も足を止めようとしない。
それはそうだ。誰もが自分の事で精一杯なのだ。
「手伝いましょう。」
僕は女性に近づき、崩れた瓦礫に手をかけた。
瓦礫の下からは男の子の泣き声が聞こえてくる。どうやら運良く瓦礫の隙間に入っていて、致命傷にはなっていないようだ。
僕は自分に力を『付与』し、崩れないように注意しながら瓦礫をどかしていく。
2つ目の大きな瓦礫をどかした先に、泣きじゃくる5歳ぐらいの男の子を見つけることができた。
「良かった。大きな怪我はしていない。」
崩れた瓦礫の一部がつっかえ棒のようになり空間を作ってくれていたのだろう。
「ありがとうございました。本当にありがとうございました。」
女性は何度もお礼を言うと、男の子を抱え足早にこの場を後にした。
爆発音、同時に感じる空気の振動。
「近い!」
次の瞬間、街道沿いの建物が弾けるようにして飛散した。
あたりに散らばる瓦礫
いや瓦礫だけではない。瓦礫に混ざってボロキレのように宙を舞うのは鎧に身を包んだ人間だ。
石畳に打ち付けられピクリとも動かない人たち。
「何て事を・・・。」
空気がザワつく。
ねっとりとした空気が体にまとわりついているように感じ、指先ひとつ動かすのも躊躇うほどだ。
僕はこの雰囲気を知っている。
魔族だ。
「剣よ。」
闇の魔術で『創造』した無数の剣を浮遊させ、僕はその中の一本を手に取った。
街の破壊が人の所業でないことは明らかだった。
「姿を見せた瞬間にこの剣を突き立ててやる。」
ずっしりと重い空気。
空気が重いというのも変な表現ではあるが、この表現が一番しっくりくる。
別の言い方をすれば「圧迫されている」とか「息苦しい」とかになるのであろうが、それだと言葉が足りないように感じるのだ。
唾を飲む音がやけに大きく感じ、暑くもないのに汗が顎を伝って石畳にいくつかの水跡を作る。
もうすぐだ、もうすぐあの建物から姿を現す。
僕は建物の中が見やすいように一歩、二歩と注意深く位置を移動した。
全神経を崩れた建物の中に集中させ、いつでも剣を発射できる態勢を保つ。
あたりの音が遠くに聞こえる。
集中力が極限まで高まっている証拠だ。
さあ、姿を現せ。一瞬でケリをつけてやる。
「オ前、知ッテイルゾ。」
耳元で声が聞こえた。
な、何で・・・?
吐き気がするような圧迫感が後方より広がり、自分の考えが甘かったことを思い知らされた。
「剣よ、奴に・・・。」
剣を飛ばすイメージを完成させる前に腹部に強い衝撃を受た僕は、先ほど魔族によって壁を破壊された建物の中へ吹っ飛ばされた。
肺の中の空気が全て吐き出され、胃液が逆流する。
くそっ、息が吸えない。
背中を打ち付ける前に土の魔法で体の強化を行ったため何とか致命傷は免れたが、腹部に受けた衝撃は僕の動きを一次的に止めるのに十分なものであった。
「オマエ、賢者ダナ?」
人よりふた回りは大きい魔族が、瓦礫を避けるようにして建物の中に入ってきた。
僕はその姿に見覚えがあった。
見間違うはずがない。あいつは王都の襲撃の際にテレーズ王女とシャルロット王女が打ち破った魔族、グランデールだ。
「魔人、覚醒サセナイ。賢者、殺ス。」
なるほど。フローを覚醒させないために賢者を探していたというわけか。
確かにテレーズ王女とシャルロット王女に護られているフローよりも、野にいる賢者を探したほうが簡単に事が済む。
魔族がこの辺りで賢者を探していたということは、僕の故郷周辺にもう一人の賢者がいる可能性が高いという予想が間違っていなかった事の裏付けになるのは、僕たちにとって有益な情報だ。
「賢者、殺ス。アノ御方喜ブ。」
グランデールが口角を上げた。
知性は低そうだが、グランデールの力は脅威だ。
しかし、王都襲撃の時は文字通り手も足も出なかった僕の力も、あの頃とは比べ物にならないほど強くなっているはず。
僕は痛む腹を押さえて立ち上がった。
「炎よ。」
僕は全身に炎を纏い、右手に炎を纏った棍を創造した。




