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賢者というのは強いんじゃなかったのか?!  作者: 要
もう一人の賢者
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もう一人の賢者(1)

 朝靄の立ち込める早朝、僕は朝一番の乗合馬車に乗るために王都の南門まで来ていた。

 スピネル王妃には色々と物申したいことはあるが、ひとまず自宅に帰り、今後の身の振り方を考えることとしたのだ。

 自宅のあるエールベーラは小さな村のため、乗合馬車の停留所は無く、近くの街「ミーシュ」から街道を徒歩で移動しなければならない。

「おじさん、ミーシュまで一人お願い。」

 御者のおじさんは僕を一瞥すると、ぶっきらぼうに荷台を指差した。

 こんなに早くの時間に乗合馬車に乗る人はあまりいないのだろう。荷台には人の姿はなく、僕は右前の端の席を確保することができた。

 リリスはというと、僕のポケットに入りぐっすりと眠っている。

 手のひらサイズとはいえ、見るからに魔族の姿をしているリリスの姿は、トラブルの種になることは目に見えている。

 人目につく場所ではポケットや鞄の中に入れておいたほうが安全だと思ったからだ。

 馬が軽く嘶いた。

 そろそろ出発の時刻なのだろう。御者のおじさんが馬に水をあげ、手綱の確認を始めた。

 どうやら今日のお客は僕ひとりのようだ。

 みんなでワイワイ賑わいながら行く旅でもない。このような静かな出発もいいのかもしれない。

「それじゃ、出発するよ。」

 御者のおじさんが、手に持った鞭で軽く馬のお尻を叩くと、馬車に繋がれた2頭の馬はゆっくりと前進を始めた。

 僕は遠くに見える王城に目をやった。

 ほんの数ヶ月の滞在であったが、思えば様々な体験をしたものだ。

 もしかしたらこれで見納めになるかもしれない。最後にしっかり目に焼き付けておこう。

 しかし、そう思って後方に目をやった僕は、視界に入ってきたものに目を疑った。

「すみません、乗ります!」

 そう言って荷台に飛び乗ってきたのは、動きやすい服に身を包んみ、見違えるような格好をしたフローだったのだ。

「あなたが遅れるからこんなにギリギリになってしまったんですからね!少しは反省して下さい。」

 そう言って後方の男を叱責しながらフローのあとに続いたのは、聖騎士であるアクアディール。

「悪かったよ。反省してるから、そのデカイいケツを早くどけてくれ。」 

「なっ!女性に向かってなんてデリカシーのない男なんでしょう!そもそも私のお尻は大きくなどありません。」

 荷台に乗るのに手こずっているアクアディールと口喧嘩を始めたのは、顔を見なくても分かる、散々世話になった冒険者であるトゥラデルだ。

「みんな、どうしてここに?」

 もう会うこともないかもしれないと思っていた面々を見て、僕は目頭が熱くなるのを感じていた。

「ロゼライトさん、水くさいですよ。一人でいなくなるなんて。」

 フローが僕の目の前に座り、覗き込むように睨んで頬を膨らませた。

「ごめん。でも、勝手に出てきちゃってフローは大丈夫なの?」

 自分で質問しといてなんだが、大丈夫ではないことは火を見るよりも明らかだ。

「もうあんなお母様なんて知りません。少しは頭を冷やせば良いんです。」

 両頬をさらに膨らませて腕を組み、子供っぽく怒るフローを見て、僕は思わず吹き出してしまった。

「それで、アクアディールとトゥラデルはフローに頼まれて同行を?」

 僕はフローの後から乗り込んできたふたりに疑問を投げかけた。

 アクアディールは聖騎士としての任務があるだろうし、トゥラデルに至っては冒険者としての仕事をこなさなければ生活が成り立たなくなってしまう。

「もちろんご縁のあったフローレンス様が心配というのもありますけど、今回もシャルロット様から護衛の任務を仰せつかっています。」

 片膝をついた状態で、アクアディールが深く一礼した。

「何、畏まってんだ、護衛を買って出たって話じゃねぇか。結局、嬢ちゃんが心配で付いてきたんだろ?」

「わ、私が任務に私情など挟むわけがないだろう!全く、お前というやつは・・・。」

 アクアディールもフローのためを思ってついてきたっていう事だろう。

「トゥラデルはどうして付いてきたの?」

「俺は酒場で飲んでたらよ、テレーズ嬢ちゃんが問答無用で押し付けてきたんだよ。」

「貴様こそ断ればよかっただろう。」

「ま、そうなんだけどさ、下手な奴が付いてって失敗したじゃ目覚めが悪いからな。」

 口では何とか言っていても、なんだかんだでふたりともフローを心配してるってことだ。

「ふふふ、口ではあんなこと言ってますが、ふたりともロゼライトさんが心配で志願してきたんですよ。」

 フローがそう言うと、ふたりの顔が一気に紅潮するのが分かった。

 まさかとは思ったが、僕のことを心配してくれたというのも案外嘘ではないのかもしれない。

「そんなことよりお前、何で俺に黙って王都から出ていこうとしてんだ?」

「そうだぞ、ロゼライト。相談もなしに去ってしまうなんて水臭いじゃないか。」

 この様な話題の中心に自分がいたことがないのだろう。トゥラデルもアクアディールも、慌てているのを隠せてはいない。

「ところでロゼロイチさん、これからどこに向かう予定ですか?」

 フローがあごに指を当て、首を傾げながら僕の目を覗き込んできた。

「故郷のエールベーラへ戻ってから、この後のことを考えようと思ってるよ。」

 フローは僕の言葉を聞くと「それはちょうど良かった」と呟くと、一冊の本を鞄から出した。

「これは賢者の出生に関する書物で、先日賢者の遺跡で発見されたのですが、驚くべきとが記されてたんです。」

 賢者、つまり僕の出生に関することってことだよな。

「聞きたいですか?」

「そこまで言って、話さないってないからね?!」

 フローはクスリと笑うと、書物の真ん中あたりを開き、ゆっくりと口を開いた。

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