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魔界潜入(7)

 右手に想像された闇の剣は、禍々しい魔力を纏っていた。

 これはテレーズ王女が作り出した剣には見られなかった現象だ。

 紫影鋼、つまり創造する剣の素材まで明確にイメージすることで、闇の魔力を通しやすい剣が出来上がり、剣身に魔力が宿ったということなのだろう。

 この明確なイメージ力は、幼少より触れてきた鍛冶の仕事の賜物ということか。

 蟻達は急には襲ってこなかった。

 目の前にいる獲物の変化を、本能的に感じ取ったのかもしれない。

 攻撃するなら蟻達が戸惑っている今だ!

 僕はまっすぐに蟻の群れに突っ込んで、闇の剣で斬りつけた。

 一振りするごとに、あたりに飛び散る触覚や脚。

 しかし蟻達に致命傷を与えているようには見えない。致命傷を与えるには、末端を切り落とすのではなく、頭や胸、腹を斬りつけなければ。

 僕は剣を大きく振りかぶり、蟻の頭部を斬りつけた。

 硬いもの同士がぶつかる乾いた音が巣の中に響き渡った。蟻のダメージは・・・無い。

 頭部が硬すぎるのか?

 それもある。しかし最大の原因は僕のイメージ不足だ。僕のイメージした剣は、鋭さも硬度も全然足りていない。

「でも、方法はある!」

 硬い外殻があっても、頭と胸の間もしくは胸と腹の間には、柔らかい可動部があるはず。

 僕は一匹の蟻の頭と胸の間に剣を突き立て、力任せに捻った。

 赤紫の体液が飛び散る。

 さらに力を入れて剣を捩じ込むと、蟻は一瞬硬直しそのまま動かなくなった。

「これならばいけるぞ!」

 戦い方が分かれば、蟻はそれほど脅威ではない。

 僕は剣を引き抜くと、近くにいた別の蟻の首筋に向けて剣を振るう。今度は一刀で蟻の頭部がずり落ちた。

 戦いは乱戦となりつつあった。

 蟻酸を避け、蟻の側面に移動して、首を切り落とす。

 一体いくつの首を切り落としたのだろうか。

 心臓が激しく脈打ち、肺が悲鳴を上げる。

 あと何匹の首を落とせば終わりが見えるのか。その問いに答える者はいない。

 次第に僕の頭はまっ白になり、蟻を倒すこと以外は考えられなくなっていった。

 いかに的確に、いかに効率よく、いかに安全に。

 僕の頭にあるのは戦いの事だけだった。

 いつしか蟻の攻撃は単発的となり、その数は随分と少なくなった。

「お前ら、いい加減に逃げろよ!」

 疲労により筋肉が酸欠を起こしているのが分かる。剣を振る手が鉛のように重い。

 自分を奮い立たせるように怒声に思いを乗せた。

 その時、魔力の流れの変化を感じた。闇の魔力が僕の発する言葉へ流れ込んだのだ。

 途端に後退る蟻達。

「何が起こったんだ?」

 今まで自分の身を顧みない戦い方をしていた蟻達が、急に大人しくなった。後方に位置していた蟻に関しては逃走するものもいるほどだ。

 しかし、これは好機!

 僕は怯んだ蟻達の横をすり抜けると、狭い巣穴を上へと登った。

 途中、数匹の蟻達に出くわすが、先程と同様に戸惑い、こちらに襲いかかる素振りを見せない。

 巣穴の先から風を感じる。出口が近い証拠だ。

 僕は安堵の溜息を履いた。

 地中にいた時間は、1時間に満たないものだったのだろう。しかし、孤独と恐怖に苛まれたその1時間は、今までに感じたことのないほど長いものであった。

「光だ。」

 魔界で光を感じる。

 それはとても奇妙な感覚ではあるが、地中の闇の中にいた僕には、魔界と言えど光が差す大地がある事をはっきりと感じることができた。

 魔界でも光の魔法を使うことができるというのも頷ける。

 地上に出た僕は、まず最初に大きく息を吸った。

「空気が美味い。」

 地中の空気が薄かったというわけではないが、それでも地上の空気は新鮮に感じたのだ。

 僕は周りを見回した。

 見覚えがある景色だ。

 幸運なことに、地中に滑り落ちた場所とそれ程遠くない場所に出てきたようだ。

 そして見覚えがある姿がひとつ。

「テレーズ王女!」

 僕は地中から顔だけ出して、そう叫んだ。

 今思えば、生首のようなその姿はとても滑稽であった事だろう。

 テレーズ王女がこちらに振り向く。

「ロゼライト!避けろ!」

 テレーズ王女が叫んだ。

 訳も分からず、再び地中に頭を引っ込める僕。

 直後にその場所を高速で通過するレッサーデーモン。

「あっぶねぇ!」

 ちょっと遅れたら、本当に生首になっているところだった。

「ロゼライト!よく無事に帰ってきた。」

 テレーズ王女が駆け寄ってきた。その手には僕の魔剣が握られている。

「回収してくれたんですね。ありがとうございます。」

「すまない。すぐに地中へ追おうかと思ったんだが、穴が崩れた上にレッサーデーモンの襲撃もあって・・・。」

 テレーズ王女が心底申し訳無さそうな顔をした。

「こちらこそ足を引っ張ってしまい、すみませんでした。」

 僕は受け取った魔剣を鞘に仕舞ってそう言った。

 テレーズ王女が驚いた表情をして、僕の行動を見た。

 子供っぽいと言われるかもしれないが、僕だって少しは成長している姿を見せたかったのだ。

「まあ、見ててください。」

 僕は右手に魔力を込める。

「剣よ、姿を表せ。」

 素材は紫影鋼、直剣、剣身は50センチメートル。

 イメージ通りの剣が僕の右手に出現した。

「ロゼライト、お前!」

 レッサーデーモンが奇声を上げながらこちらに突っ込んできた。

 前方、少し上方。距離20メートル。

「飛べ!」

 僕の言葉を受けて飛び立つ、魔法の剣。

 他の属性の魔法と同様に、僕の魔力の及ぶ範囲を外れても、数秒であれば存在することができるはず。

 空を裂き、レッサーデーモンに襲いかかる魔法の剣。

 僕からの攻撃は想定していなかったのか、魔法の剣は見事にレッサーデーモンの頭部に突き刺さり、その役目を終える。

 剣が姿を消した後のレッサーデーモンの頭部には刺し傷だけが残り、レッサーデーモンは紫色の血液を噴出させながら力なく地面に落下したのだった。

 僕は得意気にテレーズ王女顔を見た。

 テレーズ王女は驚き、目を大きく見開いていた。


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