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賢者というのは強いんじゃなかったのか?!  作者: 要
イフリートの試練
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イフリートの試練(7)

 小枝が爆ぜる小さな音が、焚き火から聞こえてくる。

 太陽は随分と前に沈み、周囲は静まり返った闇に包まれていた。

 街道から少し離れた森と草原の境目に僕たちはテントを張り、野宿をしていた。野生動物や魔物の驚異はあるものの、慣れてくれば野宿も案外快適なのだなと思える。

 野営に関しては素人である僕たちがそう思えるのは、トゥラデルという者の存在が大きいという事は言うまでもないが。

 焚き火は不思議だ。見ていると吸い込まれそうになってくる。

 思えば随分と不思議な縁に恵まれたものだ。

 故郷の村エールベーラを出て魔術学園で学ぶはずだったのが、3人の王女の世話係となり、今は魔人であるフローの加護精霊の力の均衡を取り戻す旅に出をしている。

 学費がタダじゃ無かったら、お金を返してもらわなきゃ割に合わないな。

 僕はひとり苦笑いをした。

 フローとアクアディールが入っているテントの中からは、水の精霊の魔力の気配が絶え間なく感じられる。

 火の精霊の力が強くなってしまっているフローに、アクアディールが水の精霊の魔力を与えているのだ。

 相性の良くない精霊の加護を受けている者は、どちらかの精霊の力が強くなると、もう一方の精霊を消滅させてしまう。

 加護精霊の消滅は、そのまま魂の消滅を意味する。

 魔人であるフローは、世界で唯一その恐怖と戦っているのだ。

 上位精霊の力を手に入れ、精霊の力を完全に制御することができれば、火の精霊の力を抑えることができるという。

 スレート先生の話では、かつてこの方法で精霊の力を制御し長く生きた魔人がいるという事だ。

 しかし、上位精霊の姿はここ百年確認されていない。

 そもそも上位精霊の力を手に入れる事で精霊の力を制御できるという情報だって、スレート先生が不確かな文献から見つけてきたものだ。

 『藁をも掴む』というのはこういう事を指すのであろうが、僕たちには他に手立てが無いのが現状だ。

 僕は小さくため息をついた。

 正面に座るトゥラデルは、山賊の宝物庫にあった財宝をつまらなそうに確認している。

「多くはないと予想はしてたが、ここまで少ないとは思わなかったな。」

 多くはないと言ったのは、山賊が溜め込んでいた財宝の事だろう。

「嬢ちゃんは村からのお礼を断っちまうし、これじゃタダ働きみたいなもんだな。」

 トゥラデルが言うとおり、フローが「国民からお金は貰えません」と言って、お礼を断ってしまったので、村からの報酬は貰っていない。

「おいっ!なんとか言ったらどうだ?会話になんねぇだろう。」

 トゥラデルが突然大きな声を出した。

「さっきから辛気臭ぇ。一回うまくいかなかったからって、落ち込んでんじゃねぇよ。」

 な、なんだ?

 トゥラデルの突然の言葉に戸惑う僕。

「山賊を殺せなかった?当然だろ?!今まで殺人は犯罪だって教わってきたんだ。殺せるわけねぇよ。」

 まくし立てるトゥラデル。

「まだ未熟なんだ、できない事は先輩に任せてよ、ちょっとづつ成長してけは良いだろ?」

 これは、さっきの山賊討伐の事を言っているのか?

 どうやら僕がずっと黙っていたのを、さっきの山賊討伐でうまく動けなかった事を気にしてると勘違いしていたようだ。

 驚いたのは、トゥラデルが僕を慰めているという事実。

「あ、ああ。ありがとう。」

 珍しい事もあるものだと思いつつ、僕が素直にお礼を言った。しかし、当のトゥラデルはそっぽを向いてしまった。

 トゥラデルの耳がいつもよりも赤く感じるのは、ふたりの間に焚き火からあるからなのであろう。

 トゥラデルはトゥラデルで、不器用なりに仲間の事を気にかけているようだ。冒険者仲間の中にあまり溶け込めないのは、素直じゃない性格と、分かりにくい態度によるものなのだろう。

 ふたりの間に沈黙の時間が続いた。

 先に静寂を破ったのはトゥラデルだった。

「これはお前にやるよ。」

 そう言ってトゥラデルが投げてきたのは、拳大の石だった。

 その石を焚き火にかざしてみると、所々が赤く輝いているのが見える。

「これは?」

「それは紅玉石だ。山賊の宝物庫に無造作に置かれていたんだ。きっと価値が分かってなかったんたろうな。」

 不思議だ。鉱石だというのに、少しだけ温かい。

「腕の良い鍛冶屋にもっていけ。金を払えば紅玉鋼にしてくれるだろう。」

 紅玉鋼。僕の魔剣に使われている鋼の名前だ。

 火の精霊の力と相性が良く、紅玉鋼を媒介にすることで火の魔法の威力を上げることができると言われている。

 これで魔石があればもう一振り魔剣が作れる。

「剣は二振り持っていろ。折れた時の保険だ。」

 なるほど。ベテラン冒険者らしい提案だ。

 遠方やダンジョン内では補給などできないのだから。

「それにしても、お前は戦い方がなってないな。」

 『小僧』の次は『お前』呼ばわりか。

「集団と戦うときは、周りにもっと気を配れ。相手は一人じゃないんだぞ。」

 くそっ!正論だけに腹が立つぞ。

「そう言うトゥラデルだって、とっとと先に行っちゃうし。周り見ないで特大の火球を放ったりしたじゃないか。」

 僕も負けじとトゥラデルにを非難した。

「俺は強ぇから一人でも良いんだよ。火球だって、小僧が来る前に爆発させただろ?周りでチョロチョロされてたら危なくてしょうがねぇよ。」

 言葉に詰まる僕。反論のしようがない。

「そ、そうだとしても、もう少しチームワークとか・・・。」

 駄目だ。何を言っても勝てる気がしない。

「お前達、何を騒いでいる。姫様が寝れないではないか。」

 そう言って、テントから出てきたのはアクアディールだ。

「そういえばアクアディール。山賊討伐の時、姿が見えなかったな。どこにいた?腰での抜かしてたか?」

 トゥラデルがアクアディールをからかう様に声をかけた。

「腰を抜かしてただと?!お前が姫様を守れと言ったのだろう。」

 焚き火の側に腰掛けながらアクアディールが答える。

「だとしても、一度も姿を見せなかったから、俺はてっきり・・・。」

「貴様!私を愚弄するか?!」

 脇においていた槍を手に取り、トゥラデルに突きつけるアクアディール。

 やばいやばい。何とか止めなければ。

 この二人の喧嘩、僕に止められるのか?

「何だか楽しそうですね。」

 場違いな柔らかい声をかけてきたのは、テントから顔だけ出したフローだった。

「楽しそうって、そういう状況じゃないと思うけど・・・。」

「仲良くするのは良いですけど、早く寝ないと明日ツライですよ。」

 にっこりと微笑むフロー。

「ロゼライトさん、そんなに慌てなくても大丈夫です。その二人はじゃれ合ってるだけですから。」

 じゃれ合ってる?

「興醒めだ。姫様に感謝するんだな。」

 アクアディールが、槍を下ろした。

「おぉ、怖っ。」

 テントに戻るアクアディールの背を見ながら、トゥラデルが肩を竦めた。

「場を納める事に関しては、小僧は嬢ちゃんに完敗だな。」

 トゥラデルが楽しそうに笑う。

 僕はトゥラデルが何を言っているのか、さっぱり分からなかった。


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